第16話 「ごめん」
翌日のデートはなんだかぎこちなかった。
たぶん、俺が意識しすぎたんだと思う。
でも、シオリの秘密ってなんなのだろう……。
全く想像がつかなかったのだ。
美人で頭も良くて、お嬢様学校に通っているシオリにわざわざ前置きをしてちゃんと時間をとってから明かさないといけない秘密なんて想像ができない。
おかげで昨夜はほとんど眠ることができなかった。
シオリはいつもどおり、俺の隣を歩く。
そういえば、この見慣れた街もシオリと一緒に歩くことによって全然違う景色がみえるようになった。
この先にある古本屋も鯛焼きやもただ、通り過ぎるだけの場所。その先にあるコーヒーショップの二階に学習塾があることなんて俺はきっと一生気づかなかっただろう。
だけれど、シオリと歩くと世界は変わったのだ。
ぼろくて古い自分には無縁そうな古本屋も、店にはいってすぐ左の棚だけは比較的新しい本が安価で手に入る掘り出し物の棚であることとか。その隣の鯛焼き屋は鯛焼きでなくて、開きというぺったりとつぶして焼き直したモノがパリパリして香ばしくあんこも甘すぎずに美味しく食べられることとか。
先にあるコーヒーショップはスタバより安く色んな味のカスタムができるし、昔はその上にはとても格安な仏蘭西料理の店があってレモンシャーベットが絶品だったことなんて知ることはなかっただろう。
ふと、古書店の前で横を見れば店舗の硝子に俺とシオリが映っていた。店内がうっすら暗いおかげで、綺麗に反射して鏡とまではいかないけれど、影だけではなく細かい服装や色まで分かる。
シオリと俺って周りからみるとこんな風に見えているのか。
俺は硝子に映った自分を横目で観察する。
光り輝くような美少女と地味な俺。全く釣り合ってなかった。
なんで俺なんか。
そんな気持ちがずしんと体の中心に居座る。
昔、国語の授業でやった、鉛の塊を飲み込んだみたいなって表現がぴったりだなと思う。
俺が、あんまり硝子の前で立ち止まっているせいだろう。
「どうしたの?」
と言って、シオリは俺の手をひこうとした。
冷たくて細く綺麗な指先が俺の手の甲に触れた瞬間、俺は思わず振り払ってしまった。
「ご、ごめん」
シオリは固まっていた。
自分でもそんな振り払うつもりは無かった。
なのに、実際はバサッと衣擦れの音がするくらい俺は腕をひいて、彼女を拒絶していた。
そんなつもりはないのに。
普通のカップルだったら、きっとこんなことはなかっただろう。少しずつ時間をかけて相手のことをしって、手をつなぐのに。俺たちはその段階をすっ飛ばしていたから。ただ、好意があるのを前提として、お互いを受け入れれば良かった。拒絶されるかもなんて想像して不安になる必要なんてなかった。
「ごめん」
どちらともなく、謝る。
だけれど、俺たちの間の空気は昨日までとは違ってまるでゼリーみたいに重くて冷たかった。
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