第15話 「ねえ、もし私の秘密を知っても態度を変えたりしないって約束できますか?」
無意識に間接キスになっていたことについて、気づいたけれど俺は恥ずかしくて言えなかった。
だって、言ってしまったら俺だけ意識しているみたいで格好悪いじゃないか。
それに俺たちは今、俺がアルバイトだとしても、付き合っているのだ。自然だ。普通にあり得ることだ。だって、恋人なのだから。
間接キスくらいするさ。
普通のカップルだってするんだから。
……って、え?
普通のカップルがすることを俺たちもするなら、いつかキスとかも……分からなかった。
そもそもなんでシオリは俺にアルバイトで、しかも期間限定の恋人になって欲しいと言ったのだろう。
別に、恋人がいることがステータスになるクリスマスのようなイベントの直前でもないのに。
シオリのような美少女が。普通に考えて彼女なら引く手数多だ。
どんなに考えても分からなかった。
どうして、シオリが俺に期間限定の恋人になってもらうことを望むのか。
「助けてくれたから」なんてシオリはいうけれど、俺はそんな大したことはしていない。
なのに、破格の報酬。楽しいデート。シオリとの楽しい時間。
どれも、あまりにも美味しすぎる。
そう、まるでこれじゃあ夢だ。
モテない男子高校生の夢。
偶然、女の子を大した苦労もせずに助けて、その女の子が俺にベタ惚れになることから始まるサクセスストーリーなんてね。そんなの夢でもありえないことが分かっているが。
俺はパンケーキからの帰り道、シオリに尋ねた。
「俺に話したいことあったらいつでも言ってね」
自分でもずるいと思った。ちょっと引っかけ問題みたいだから。
もし、シオリがなにか良くないことを考えていたら白状するかもしれない。だって、シオリはたぶん根っからの悪人にはなれない女の子だから。
なにか良くないことをしていたら、絶対に良心の呵責を感じているはずにちがいない。
「……」
案の定、シオリは無言だった。
ビンゴということなのだろうか。
シオリはまた、イヤリングに指をあてて目をぎゅっと閉じて考えていた。
眉間に皺がよっている。深い縦線が眉がしらにくっきりと刻まれていた。普段はとっても美人さんなのに、こうやって考えているときはお猿さんみたいでちょっとおかしくなってしまう。
そんな様子の彼女の顔をのぞき込んで、俺は必死でおどけようとする。いつもなら、ここでシオリが大爆笑してくれる。
こんなくだらないことであっても最高に面白い冗談をいったように大爆笑してくれる。
なのに、今日は難しい顔をするばかりだ。
そして、真剣な顔でこう言った。
「ねえ、もし私の秘密を知っても態度を変えたりしないって約束できますか?」
変な質問だった。
俺は自らシオリに鎌をかけた手前、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「分かった……約束する」
俺はゆっくり、はっきりと発音した。
なんとなく、ここはごまかしちゃいけないようなきがしたから。ごまかさず、そして変に疑ったりしていないことを伝えるために。
しかし、シオリは相変わらず難しい顔のままだった。
「……ごめん。今すぐは難しいの。次にお休みの日にデートできるとき、もっと静かなところで話しませんか?」
俺が頷くと、シオリはあっというまにいつもの雰囲気に戻っていた。二人でくだらないジョークを言ったり、じゃれあう放課後はとっても充実していた。
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