第5話 『なんでも聞いてください。明日、今日と同じ場所でまってます』

「……考えさせてくれ」


 俺はなんとか言葉を吐き出した。

 彼女はそれを聞いて、まだ俺がそのアルバイトを受けるなんていってないのに、嬉しそうに笑った。


 花が綻ぶようにとでもいうのだろうか、ふわっと一気にその場が春になったみたいに一気に明るくなった。

 彼女は俺に連絡先を書いた紙を渡して、「待ってます」とだけ言って、二人で公園をでた。


 意外だった。


 だって、急にあんなあやしげなアルバイトを持ちかける人間だ。まさか俺に限ってストーカーなんてことはないだろうけれど。

 それにあんな美人、普通だったら誰も放っておかない。うちの学校にいたら、たぶん学校中から毎日告白の嵐だろう。


 そんな美少女がなんで俺にそんなにかまうのだろう。

「助けてくれた」なんて彼女は大袈裟にいうけれど、俺はただ偶然その場にいあわせただけだ。

 そして、その場にいる人間として当然のことをしただけ。


 それなのに、たった一ヶ月のアルバイトであんなに高額な報酬なんておかしすぎる。

 いくら俺の頭が高校にはいってから悪くなったからといって、おめでたくなった訳ではないのだ。


 人生美味しい話には裏があるはずだ。


 だけれど、あのときのあの子の眼差しは真剣だった。

 すくなくとも、これが“どっきり”とかで彼女が仕掛け人ということはなさそうだった。

 それに、俺と彼女をバスで助けたのだってただの偶然だ。

 俺があのままうたた寝をしていれば気づかないで別の誰かが彼女を助けた可能性だってあるのだ。


 考えれば、考えるほど分からなくなる。


 そんなに、俺がしたことは大それたことだったのだろうか。

 だって、俺は今日彼女に言われるまであの時のことはすっかり忘れていたというのに。


 あれ……おかしくないだろうか?


 あれだけの美少女、一目見たらものすごく印象に残るはずだ。

 少なくとも、俺がやった些細で些末な親切よりもずっと彼女の綺麗な顔立ちの方が印象的だ。

 なのに、俺はなぜ、彼女のことを覚えていないのだろうか……。

 何かがおかしい。


 やっぱり、俺はだまされているのだろうか。


 どんなに考えてえも分からない。


 そして、俺はその夜。もらった連絡先にあるメッセージを送った。


『どうしても、聞きたいことがあるんだ。』

『なんでも聞いてください。明日、今日と同じ場所でまってます』


 メッセージはあっというまに帰ってきた。

 なぜだか、今日の彼女の顔はちゃんと思い出すことができた。

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