B-8 ミスリル鉱山
グラントリーフは、白銀の世界へと到達し、しんしんと降り注ぐ雪の中を北へと進んでいた。
「カミユ、どうだ、もうそろそろなんじゃないのか?」
ラスタはカミユに進行状況を確認する。カミユは飛空艇の速度を落として前面を確認しながら答える。
「うん、そのはずなんだけど、みんなも前面スクリーンで探してみてくれない?」
総勢9人の一行は全員で前面スクリーンの中を確認する。
「あ、あれは。あれ入り口じゃない?」
ミオが一番早く反応した。
「お、確かに入り口っぽい、カミユあそこに間違いなさそうだぞ」
ガルフはお目当てのミスリル鉱山を見つけて張り切っている。
「正面に下りるね」
カミユはゆっくりとグラントリーフを鉱山の正面に着陸させた。
「思ったよりも入り口大きいですね」
テオが入り口を前に感想を述べた。
おもむろにガルフが背中のグレートソードを引き抜いた。
その瞬間全員が戦闘態勢をとるように動いた。
「なんかいる。それも一匹じゃない、結構多い」
ガルフが周囲に警戒を発する。
そこに、鉱山からフォレストウルフの大群が出てきた。
「多いね、20匹はいる。チーム単位で10匹ずつ対応しよう」
カミユの作戦で対応が決まり、2チームがそれぞれ前面に出て戦闘態勢を整える。フォレストウルフは呼応するようにグループを作って対抗してきた。10匹を目の前にしてガルフ、カミユ、テオ、ミオ、エリスが陣取る。
「テオ、モンスターを一時的に減らせない?」
「やってみます」
テオは大地の精霊に敵を封じるように願った。突如フォレストウルフ近くの地面が盛り上がり、狼たちの足を束縛する。
「カミユ、5匹が限界です。あとはお任せします」
ガルフとカミユで5匹を相手取る。
「カミユ、3匹任せろ、お前は2匹を相手取れ」
ガルフの叫びに、突撃で応じるカミユ。1匹の狼に切り込むカミユ。だが切り込みはよけられ、もう1匹の突撃をかわせず肩に一撃を受ける。ひるんだすきにもう1匹が剣の根元の腕を狙って噛みついてきた。寸でのところで回避する。カミユは一閃をはらって、2匹を後ずさりさせる。
2匹の狼に一瞬のスキができた。そのスキを逃さずトラシアが声をあげる。
「カミユさん、こちらの狼に炎の魔法をください」
トラシアは声を上げながら手にしたポーションを狼に振りかける。5匹の狼がポーションを被った。そこにカミユが炎の魔法を詠唱する。
「ホーエン・グリ・ル・エルス・マギ、炎よ敵を焼け、ファイアーアロー」
炎の矢が5匹のうちの一匹を目指してほとばしる。その矢が通った瞬間、炎が引火して5匹の狼が炎に包まれる。
「シングル攻撃がグループ攻撃になった!なにそれ?」
「燃えやすい特別な油ですよ。それよりも戦闘中です。お気を確かに!」
一瞬気取られたカミユであったが、トラシアの声で気が付きすぐに目の前の敵に集中する。カミユの働きでラスタチームも5匹を相手するだけで済んでいた。カミユは目の前の2匹から1匹を選んで集中する。
2匹の狼が同時に飛びかかってきた。そのうち1匹を狙ってカミユは剣を薙ぎ払う。狼の首にカミユの攻撃が当たる。致命傷を負った狼はその場で果てる。もう1匹の攻撃を左手でいなして正面に相手取る。
ガルフはグレートソードを一閃して1匹を横断し、そのまま残り2匹を牽制した。ラスタとミネルバもそれぞれ1匹ずつ倒しており、動ける残りは6匹と、動けない5匹になっていた。
「カミユ、動きを封じた5匹の束縛がそろそろ解けます。」
テオからの通知に、攻撃へと転ずるカミユ。狼は攻撃のスキを狙って身構える。カミユはフェイントを入れながら少し後ずさり狼の攻撃を誘う。その動きに狼は飛び込んできた。
「狙い通りだ!」
カミユは縦に一閃を放ち、狼の頭にその一撃を叩き込む。
ガルフはグレートソードを振り回しながら2匹に突撃をかけ、1匹を両断し、残りは1匹になった。そこにテオの魔法で大地に縛り付けられていた5匹が新たに加わる。まだスキのある5匹に対してカミユは魔法を詠唱する。
「リ・リラック・ライラネラ・スクム、力に連なりし雷よ、擲弾となりて敵を打て、ライトニングボルト」
5本の雷の矢が顕現し、足元のおぼつかない5匹を薙ぎ払う。
ガルフは残りの1匹を剣で薙ぎ払いカミユチームの戦闘が終わる。
ほぼ同時にラスタチームも戦闘を終えていた。
「ふう、何とか勝てたね。20匹はやっぱり手ごわいね」
ミオが倒された狼の首根っこに刃を当てそこからクリスタルが出現した。クリスタルを回収するミオは黙々と作業する。
「私も手伝いますよ」
テオも声をかけながらミオの行動に追従する。
「20匹相手にこれほど動けるのなら十分だと思います」
マリスの声に、ミネルバが応じる。
「20匹相手でこれなら上出来だ。特に不安もなかった」
「カミユ、肩の傷を治します」
エリスは水の精霊に助力を乞う。カミユの肩の傷がふさがる。
「エリス、ありがと」
カミユは微笑み掛けながらエリスの頬を撫でる。
ラスタは支援魔法をかけてくれたマリスをやさしく微笑みながらねぎらう。
「マリス、支援魔法感謝する。ありがとう」
「いえ、そんな……」
マリスは正面からラスタの笑みを受け、言葉少なめに応じる。
「大きなけがをした人もいませんし、そこまで疲れてもいませんね」
テオは全員を見て回って診断を下す。
「よしっ!先へ進もうぜ~」
ガルフはグレートソードを背中に掲げて、先へと歩みだした。
「ちょ、ちょっと待ってよ、罠とかあったらどうするのさ」
「お前が何とかしてくれるんだろ、カミユ。頼りにしてるぜ」
「も~こんな時ばっかり、いつも頼りにしてくれればいいのに」
急いでガルフの横に駆け付けるカミユ。それに一行が続く。
(鉱山奥)
「ふぅ~やっと終わったか。にしてもこれで何度目の襲撃だ?」
肩で息をするガルフに、同じく肩で息をするミオが答える。
「ふぅ、8回目ね。一度に4匹までだから何とかなってるけど、ちょっと疲れたわ」
周囲にはガーゴイルの残骸が散らばっていた。カミユはそのうち1体を調べていた。
「何かわかりまして?」
トラシアもカミユの調査に付き合うべくそばによる。
「クリスタルみたいなものもないし、魔法で動いていたんだろうけど、魔法陣も描かれてない。どうやって動いていたんだこいつら」
「ちょっと魔力を探査してみましょうか」
座り込んでいたテオが立ち上がって精霊に念じる。テオの目のあたりが薄く光りそのまま周囲を見渡す。しばらくしてテオは天井を見上げた。
「天井に何かあるの?テオ」
カミユはテオのそばに来て聞いてみた。
「天井に何かがあるのは確かですが、何かまではわかりません。ただ、天井からこのあたり一帯に魔力が展開されています。それに制御されていたんだと思います」
テオの回答を聞いてカミユはトラシアに向き合う。
「トラシアさん、連邦政府時代の遺跡でこれと同じようなものはあった?」
トラシアは首を横に振って答えた。
「いえ、このような仕掛けは初めて見ます。ガーゴイルを遠隔で制御するのも初めて見ます」
「ふ~ん、そっか」
カミユはそっけなく答えて、考えをみんなに伝える。
「もっと奥までいかなきゃいけなさそう。ここで少し休憩をとって体力が回復してから移動しよう。ガーゴイルが復活するのは1月後のはずだからここは安全だと思う」
テオもその場に腰を落として、表情だけでカミユに承諾を伝える。
「まだ、この先にもガーゴイルいると思うか?」
ラスタの問いかけにカミユは肯定を返す。
「まだいるだろうね。ミスリル鉱石は結構見つかってるから、鉱山なのは間違いないけど、ガーゴイルを制御している何かはあると思う。そしてそれを守っているガーゴイルもいると思う。」
カミユの回答に納得を示したラスタはマリスに問いかける。
「マリス、大丈夫か?もしきついなら言ってくれ。君だけでも先に戻すことも考えるから」
マリスは首を振る。
「ラスタ、私は大丈夫です。問題ありません!皆さんとともに行きますわ」
カミユは、ミネルバとエリスに声をかける。
「エリス、ミネルバ、平気?」
二人とも首を縦に振って答える。
「私は大丈夫ですよ。カミユ」
「問題ない、カミユこそ疲れてはいないのか?」
「多少は疲れたけど、そこまでではないよ」
3人のやり取りにガルフが横から口を出す。
「そこまでじゃないってマジかよ。お前、俺よりも多く相手してたんだぞ。その体力はいったいどこから来てるんだ」
カミユは周囲を見渡した。カミユ以外の一行は疲れが見え、やっと一息つけると喜んでいた。カミユと同じような疲労度はミネルバくらいなものだった。
「あれ?俺がおかしいのか?俺そんなには疲れてないよ」
「神龍の力かもしれません。ナーガ様も体力は相当なものでしたから」
「でも、ナーガは元から龍人族だったんでしょ?それなら龍人族の体力が普通の人より優れていたのかも」
カミユは言葉を選びながらミネルバと話を進める。
「体力だけかぁ、攻撃や俊敏性はどうなんだろ」
「鍛えればそれなりに伸びますが、そのあたりは普通の人間と変わりありません」
「そっか、そんなもんか、まぁ、竜の姿になれればほぼ無敵だし。問題ないね」
「油断されては困ります。どこでも竜の姿になれるわけではありませんし」
カミユは素直に頷いた。同時にカミユも座り込んで皆の体力の回復を待つ。
(鉱山最奥)
奥へと進んできた一行。戦闘はひと段落しており、探索がメインとなっていた。ちらほらとミスリル鉱石が表出している他には特に目立ったものは見当たらない。
坑道は多少は狭くなったものの、人が10人は余裕で横に並んで進めるほど広かった。
「おい、カミユ、どうなんだ、そろそろなんかないのか」
ガルフがカミユを追い立てるように聞いてくる。
「う~ん、そろそろ何かありそうな気はするんだけど、何も見つからないねぇ」
「頼みにしているんだから、探索しっかりしてくれよ」
「ちゃんとやってるよ!テオ、また、魔力探査お願い」
カミユの依頼に首を縦に振るテオ。幾度目かの魔力探査を行う。
「奥に魔力が漏れ出している箇所があります」
「よし、行こう!」
一行は先へと進む。
「ここか、これって扉隠してないよね」
トラシアがわきにやってきて、同じように扉を調べる。
「隠す気配はなさそうですね。扉開きますか?」
カミユはドアノブの周囲を念入りに見る。
「罠は……ないみたい。開けるね」
ドアノブを回して扉を引く。しかしドアは動かなかった。今度は押してみる。扉は開かなかった。
「あれぇ?なんで開かないんだ。鍵かかってるのか?ドアノブ付近に鍵穴はないか」
扉の周辺を念入りに捜索するカミユ。ふと扉のわきに鍵穴らしきものを認めた。
「トラシアさん、ここに鍵穴みたいなものがある。どうする?鍵こじ開ける?」
「ちょっとお待ちください。」
トラシアは道具袋をあさっている。ふと袋から一本の金属の棒を取り出した。
「なにそれ?」
カミユは興味本位で聞いてみた。
「連邦時代の遺跡で見つけたマスターキーと呼ばれる魔法の鍵です。いろいろな鍵に対応できる優れものです」
トラシアは鍵穴にその棒を差し込んで、わずかに魔力を通す。
ガチャリ、と鍵穴から音がした。
「開きましたわ、カミユさんどうぞ」
ドアノブを回して扉を引く、扉は音もなく開いた。部屋の天井にヒカルパネルがあり、部屋を照らし出していた。扉口で中を探るカミユ、入り口付近に3体のゴーレムが見えるが動きそうにはなかった。
「ゴーレムがいるけど動きそうにない。中に入ってみるよ」
部屋は広く、20人ほどが入っても余裕がありそうだった。部屋の洞窟側には机らしきものがあり、その上に計器類が所狭しと並んでいた。
「トラシアさん、お願い。俺じゃよくわかんない」
カミユはトラシアに支援を求めた。トラシアは意気揚々と計器類に立ち向かう。まずは計器類を観察し、触れてみる。洞窟側の壁には黒いガラスのようなものが貼ってあり、その奥に鉱山の見取り図と思われるものが映し出されていた。
「これがガーゴイル制御装置で間違いなさそうです。壁の見取り図の中に見える四角い箱はガーゴイルの設置場所を示しているものと考えられます」
全員が壁の見取り図を注視する。ミオが鉱山のさらに奥の方に四角い箱と赤い点があるのを見つける。
「トラシア、この赤い点は何?」
「それはガーゴイルだと思います。まだそこまで進んでいませんから、残っているんでしょうね、あと4匹ほど」
トラシアは答えながら計器のなかのボタンを押してみる。壁の見取り図の四角い箱が黄色に点滅した。
「これは何かしら?」
トラシアはほかに操作できるものを探したがどれも反応がなかった。わきからカミユが身を乗り出してきて、壁の点滅する箱に触れてみた。
ブンと短い音が聞こえたと、瞬間ガルフとミネルバが反応する。
「ゴーレムが……」
「動いた!」
ガルフとミネルバは最大限警戒をおこない、動き出したゴーレムに相対する。
「ガルフ、ミネルバ、少し様子を見てください。私の予想があっていれば攻撃はしてきません」
「本当か?お前の予想とは?」
ガルフが疑念をそのままトラシアに問う。
「私の予想ではこのゴーレムは修復装置です。たぶんカミユさんが触れた場所のガーゴイルを修復しに行くのだと思います」
ゴーレムはゆっくりと扉を目指してうごきだし、部屋の外へと出て行った。
「ついていきましょう」
鉱山内のガーゴイルが鎮座していた台座までゴーレムは移動し、そこで立ち止まった。ブウンとゴーレムから音が聞こえた。ゴーレムの前面、胸から腹にかけて魔法陣が浮かび上がり、薄白く発光していた。すると、周囲に散乱していたガーゴイルの破片が動き出し、宙を飛んで台座の上へと戻っていく。
「こんな風に修復するのですね」
トラシアは感慨深げに見入っていた。しばらくすると、ガーゴイルは修復され台座の上に収まっていた。
「ガーゴイル、動き出さないね。すぐには攻撃してこないのかな?」
カミユはガーゴイルを調べながら確認するように疑問を口にする。
「おそらく、猶予期間があるのだと思いますわ。すぐには攻撃してこないでしょう。部屋に戻りましょう」
トラシアの掛け声に一行は部屋へと戻り始めた。ゴーレムもすでにその場を離れ部屋へと動き出していた。
部屋に戻った一行は部屋の中を探索した。文書がいくつか見つかり、カミユとトラシアが内容を簡単に洗う。
「ミスリルって元は鉄なんだね。魔素と反応してミスリル鉱石になるみたい」
「なるほど、この鉱山は魔素に満ちているので、それが元になっているんですね」
テオが納得がいったかのように頷いて応じた。
トラシアは一つスクロールを見つけていた。
「トラシアさん、それは何が書いてあるの?」
カミユの問いかけにトラシアは目を輝かせて答えた。
「おそらく、カミユさんが最も求めているものですわ」
スクロールを開いてカミユに見せる。カミユは思わず覗き込んだ。
「これって……地図?連邦政府時代の地図ということは、この点は遺跡?」
「恐らくそうでしょう。このカリア地方の地図ですね。このどこかにエンタープライズ級飛空艇が眠っているに違いありませんわ」
カミユはトラシアと手をつないで踊りだした。
「い、やっほ~!やった。これで見つけられる」
ひとしきり喜んだあと、トラシアが冷静になって一行に伝える。
「さて、お宝も見つかりましたし、最後の仕上げをして鉱山を出ましょう」
「最後の仕上げ?」
カミユがキョトンとした表情で見つめる。
「この遺跡を止めないといけませんわ。それが依頼ですから」
カミユは頭の中から依頼がすっ飛んでいたことに改めて気が付いた。
「そういや、そうでした。んじゃ、トラシアさん、お願いします」
トラシアは計器類の端にある蓋のついた大きめのボタンの前に立った。ふたを開け、ボタンを押す。
ピーという音とともに、壁の見取り図に文字が浮かび上がる。
「停止……了承と拒否、なるほど」
カミユは古代文字である壁の文字を読み取った。トラシアは手を伸ばして了承の文字に触れる。
鉱山に静寂が訪れた。静寂が訪れて初めて低い音が鳴っていたことに気が付く一行。
「これで依頼完了ですわね。それじゃ、戦利品をいただきましょうか」
トラシアはガルフにゴーレムを担いで運ぶように指示し、ミネルバに修復されたガーゴイルを持ち帰るように頼んだ。
「トラシア、この装置は持って帰らないの?」
ミオが不思議そうに尋ねる。
「こちらの計器類は構造も把握しましたし、作れますので不要です」
「そっか、それじゃ、これで帰りましょ」
「おいおい、ミスリル採掘しなくていいのか?」
ガルフがゴーレムを抱えながら口にする。
「採掘は別に人を連れてくる。俺たちは採掘の専門家じゃないからな」
ラスタは、ガルフに伝えるのを失念していたことに気が付いてフォローする。
「なんだよ、初めからその予定だったのかよ。先に言っておいてくれよな。んじゃ、行こうぜ」
北の地の鉱山に久しぶりに訪れた賑わいは、
鉱山を湧き立たせたが、本番はもう間もなく訪れる。
そして少しの間の静寂を受け入れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます