B-5 北国の宴

 カミユたちがフェンリルを打倒した夜、カリア王は客人たちを歓待の宴に招待した。

「うっわぁ~すごい料理~」目の前の料理の量にカミユが感嘆の声を上げる。王宮の催事の間の大きなテーブルに、所狭しと並べられた数々の料理が一行を歓待した。

「今宵は楽しんでくれ、心ばかりのお礼じゃ。フェンリルにはこれまでも手を煩わされておった、退治できたのは卿らのおかげじゃ」

 カリア王は笑顔で歓待の言葉を伝え、宴の始まりを宣言した。そばにたたずんでいたマリスにラスタが声をかける。

「マリス姫の魔法は本当に素晴らしかった。あれがなくては退治できなかったと、心の底から思いますよ。」

「そんな、私は皆様のお手伝いしかできませんから。でも、私の力がなくてもラスタ様なら勝利されていたと思います。」

 周囲の皆は、なんとなく空気を察して、ラスタとマリスから少し距離を取って宴を楽しんでいた。

「ところで、そなたらは、なぜに我が国へ来たのだ?」

 カリア王は率直な疑問をカミユに伝えた。

「竜巻の壁があったときに、竜巻の壁を越えられる飛空艇を作ったので、越えてみようと思っていたんだけど、先に竜巻の壁がなくなって……」

カミユは少し言葉に詰まりながら状況を説明する。

「俺、いや、私は連邦政府時代のエンタープライズ級の飛空艇を探しています。壁を越えようと思ったのも、これのためです」

「俺でよいわい」

ガハハと豪快に笑いながら、カリア王はカミユの背中をたたきながら言った。それにこたえる形でカミユは言葉をつづけた。

「王様はエンタープライズ級の飛空艇の話を聞いたことはありませんか?」

「城の書庫に飛空艇の文書があると報告を受けたことはある。解放しておくので、見たかったらみてよいぞ。」

「ほんとですか?やった~~!」

文字通り飛び上がって喜ぶカミユ。それにつられて周囲も笑いの渦に巻き込まれていた。そのまま書庫に向かいそうなカミユを、テオとミオが押しとどめて、宴は続いていた。

「さすがに、今すぐに書庫に行くのは失礼でしょ!」

しょんぼりとしたカミユにテオが声をかける。

「本は逃げませんから、明日になってからにしましょう。」

ゆっくりとうなずいて、カミユは料理をあさり始めた。

「ところで、南のエデンの様子を教えてはくれまいか?」

カリア王はカミユに説明を求め、カミユは自分が知る限りのエルドリア帝国の話を始めた。

「こっちと違って、雪は降らないよ。夏は暑くて、冬は穏やかな感じです。」

「町はどのような感じなのだ?」

文化に関して興味があると感じたカミユは、それならラスタの方が説明がうまいと考えてラスタに話を振る。

「ラスタ、カリア王が帝国の町や文化に興味があるみたいなんだけど……」

残念ながら、マリスと話すラスタの耳には入らなかった。カリア王もその様子を認めて、カミユに続きを促す。

「カミユ、そなたの知る範囲でよい。教えてはくれまいか?」

 話を求められたカミユは、帝都やアリアスの町とそれぞれどのようににぎわっているかを話し、テオやミオがそれをフォローする形で会話が弾んでいった。

「なるほど、なるほど、いや、実に興味深い……」

 カリア王は何度もうなずいてカミユたちの話に没頭していた。

「ラスタ殿、できれば、我が国は、貴国と貿易協定を結びたいのだが、いかがだろうか?」

 おもむろにカリア王が、ラスタとマリスの会話に割って入った。驚いたラスタが、大慌てで言われた話を咀嚼し、手のワインを軽く飲み、気持ちを落ち着かせて回答を告げる。

「ええ、我が国としても、興味のある提案です。貿易となると、この国が豊富に持つ資源と、我が国の資源との突合せが必要そうですね。すぐには無理ですが、貿易に資する我が国の資源のリストを、なるべく早めにまとめさせますので、具体的な話はそれらがそろってからではいかがでしょうか?」

「それで問題ない。こちらも準備が必要なのは事実。1月程度ののちに具体的な交渉に入れると嬉しいのだが……

 これは、一度戻らないといけないなとラスタがつぶやいた。その言葉にマリスが反応した。

「できれば、私を連れて行ってはいただけませんか?」

 その言葉に周囲は一様に驚きの声を上げたが、拒否の言葉は上がらなかった。

「それは、問題ありません。ですが、よろしいのですか?カリア王」

 ラスタは許可を求めるべく、カリア王に問いかける。

「うちのはねっかえりの娘でよければ、連れて行ってやってくれ」

 旅路の予定もないまま、とにかく、北に進んできた一行は、一度帝都に戻ることにした。しかし、カミユは少しだけ、この国にとどまる猶予を求めた。書庫の飛空艇の情報を確認して、この先の旅程を定めるための情報収集が目的だった。

「なら、戻るのは明後日だな。カミユ書庫は1日で何とかしてくれ」

 ラスタの依頼にカミユはうなずいた。

 一通り話が落ち着いた後も、宴は続いていった。


翌朝カミユとエリスに割り当てられた部屋で、カミユは大きく背伸びをした。

「ふぁ~~、よく寝た~~」

「おはようございます」

エリスもほぼ同時に起きて、カミユに声をかけた。

「朝食をとったら、すぐに書庫に行くね。エリスはどうする?」

「町を見て回ろうかと思っています」

「ならミオに声かけたらいいと思う。一緒に行ってくれるよ。きっと」

カミユの提案に、エリスも同意した。

 そして、夕刻、城に戻ってきたエリスとミオは、カミユの姿を認めて、声をかけた。

「カミユ、書庫はどうでした?飛空艇の情報ありましたか?」

「あるにはあったんだけど……」

「どうしたの、あったのならよかったじゃない?」

ミオは疑問を率直にぶつけてきた。

「それが、エンタープライズ級の飛空艇の話は合ったんだけど、いかんせん情報が古すぎるのと、曖昧過ぎて、これから先をどうすればいいのかまではちょっとわからなくて……」

「そんなもんでしょ、古文書の情報なんて」

ミオはカミユの頭を荒々しくなでながら答える。

カミユは髪の毛を整えながら答える

「とりあえずは、北に行くしかないらしい。カリア王国よりももっと北みたい。ガーディアンとか守護しているみたいで、戦闘も避けられそうにない」

「それは古文書にあった話なのか?」

いつの間にかそばに来ていたラスタのいきなりの問いかけだった。

「イダス共和国が魔神の襲撃を受けた後の話が載っていたんだ。厳重に封印したとあったんだ」

 ラスタの問いかけにカミユが答える。

「あの四本腕みたいなのがいるのか……」

「たぶん、ね」

「場所はわからないのか?」

「カリア王国から見てほぼ真北で距離はエルドリアとカリア王国の距離の2倍くらいだから、世界地図からおおよその場所はわかる。島国の南西部にありそう。それより細かい情報はないから、どうやって調べようか悩む……」

カミユは最後の方で頭を抱えてしまった。

「そこまでわかったんだったら、行くしかないじゃない?」

「エルドリアみたいにあったかい地方ならそれでもいいんだけど、こうも寒い地方だと、下手に迷うと死んじゃうから……」

ミオの威勢の良いセリフに、カミユが真顔で答える。

「寒さ対策もしないとだめだな。あと、春になってから捜索するという手もある」

 ラスタの話は合理的だった。

「帝都に戻るついでに、トラシアさんに相談してみる。」

カミユの言葉は、周囲のうなずきで答えられた。


「さてと……」

夕食を終えた一行は、城のラウンジでひと時を過ごしていた。

「エンタープライズの場所は少しだけわかった。」

カミユの言葉にラスタが反応した。

「エンタープライズがあれば竜巻の壁を自由に超えられるんだろう?」

「そのはずだけど、竜巻の壁自身が消えてしまえば、意味はないから」

カミユは帝国北の竜巻の壁が消えたことを思い出していた。

「東の竜巻の壁まで、消せるのか?どうやって消せるのかもわからないのに?」

ラスタの疑問はもっともなものだった。

「それに東の壁の向こうには魔神がいるかもしれないんだろ?古文書の内容が正しければの話だが……壁を開放するより、一部の人間だけ乗り込む方がリスクは小さいと思うが……」

ラスタの正論にカミユは素直にうなずいた。

「やっぱり、エンタープライズがこれから先に進むのに必要だと思う」

「お前の子供の時からの夢なんだし、それでいいんじゃねぇか?」

「帝国の後ろ盾を得ながらエンタープライズを探せるのですから、文句を言っては罰が当たりますよ」

ガルフの賛同に、テオがフォローしてきた。

「漠然と北に向かってきたが、どうやら目標が定まった感じだな」

ラスタが話をまとめた。

「明日は帝都に戻る。そしていろいろ準備をして、再度まずはカリア王国に戻って来よう」

ラスタの言葉に全員がうなずいた。


竜巻の壁を越えた先での出会い。そして目的が明確となった。一致団結できる目的が見つかったのは幸いなことであった。こうして物語はつづられてゆく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る