第27話 欲望の結末
悲しみを怒りに転換したラスタ、ガルフは、その怒りの矛先を求めていた。そこに、矛先たる暗部捕獲の報が入る。対峙する直前に霊安室を横切り、さらに悲しみを深くし、怒りを強くした。
「カミユを殺すことで、ラスタおよび周辺の混乱を引き起こし、その隙に乗じる」
クラドスの私兵が入手した情報、いや、弟グラムスの言葉はそれだけだった。
「なんという愚かな間違いを……」
クラドスは赤く炎をあげる帝都の一部を眺めてつぶやいた。
「わしを狙えば、そんなことにはならなんだのに…… たやすかろうに……」
帝都の南東に位置するクラドスの庭園は、その周囲の人為的な林も含めて、灼熱の溶岩へと変わってしまっていた。ミネルバの炎によって。
ドラゴンへと姿を変えたミネルバは、完全に正気を失い、クラドスの支配する区画に対して、炎を吐いた。そしてその行為は、その体力と精神力が尽きるまで数時間続き、力尽きてドラゴンの姿を保てなくなるまで行われた。クラドスの庭園も含めて周囲の区画は、燃えるものは焼き尽くされ、燃えるはずのない岩や鉄も完全に溶け、現在は赤い溶岩に統合されてしまっていた。
「馬鹿野郎、そんなことしたらわからなくなるじゃねぇか…… あいつが生きているのかどうかも……」
気絶し人の姿に戻ったミネルバを見つけて、ガルフはつぶやきながらもその体を抱え上げて、救護兵に預けた。
「問題ない、あいつがこの帝国から存在しなくなったことを確認すればいいだけだ、他のすべてを全部探し出してでも!」
背後から声をかけられ、ガルフは疑問をぶつける。
「どうやってだよ!」
「しらみつぶしに帝国全土のありとあらゆるところをすべて調べつくしてでも、見つけてやる。それで見つからなければ、ここで死んだってことだ」
ガルフにはそれがどれほど無茶を言っているのか十分に分かっていた、だが、それ以上に、目の前の男は本気だった。
そのすぐわきに、下級兵士が報告に来た、だが、通常よりも態度も、改まっているというより、人目を忍んでいた。
「殿下。昨日帝国議会に出席した王弟殿下は、そのまま飛空艇で帝都を離れた模様です」
「ご苦労」
ミネルバの矛先は残念ながら相手に届いてはいなかった。そして、それをラスタは喜んでいた。
「あいつは、してはならないことをしたんだ。俺が必ず……」
ラスタが黒い思いにとらわれているのにガルフは気が付いたが、それでも、どうすることもできなかった。なぜなら、それ以上に自分が、という思いの方が強かったから。
そこに別の兵士が、おそらく暗部の一員と思われる者が小走りにやってきた。
ラスタに耳打ちをする。
「俺が尋問をする。どこだ!」
「おい、どうした?」
ガルフの問いかけに、ラスタは歯を砕きそうなほどくいしばってこたえる。
「別邸を襲った暗部の生き残りをとらえた。今尋問室に運ばれたらしい。行くぞ」
王宮と軍務省の間のこじんまりとした目立たない建物に、ラスタとガルフは兵士に先導され入っていく。すぐに地下に降りる階段があり、降りた先は長い回廊とそのわきの鉄の扉が並んでいた。
一番手前の部屋だけ、それほど頑丈なつくりにはなっておらず、どちらかというと、荘厳なつくりになっていた。
ラスタも、ガルフもわかっていて、手に力が入る。ラスタの手にはすでに爪が食い込んだ傷があり、それが再度傷口を開き血をしたたらせる。
その部屋、霊安室の前を、二人とも無言で通り過ぎる。部屋の中に、2,3人の人の気配を感じたが、エリス、ミオ、テオ、その三人が、ずっとそばにいるんだと思っていた。
自分たちの愛する人の、この先、動くことのない存在のそばに。
兵士に促され、奥の部屋の扉を開けた。目の前には3人の人間が壁に貼り付けにされていた。全員自害せぬように猿轡をされていた。
ラスタは、三人の目を見て、気丈に自分を見つめる一人を選び猿轡を外させる。
暗部の中で王弟グラムスに忠誠を誓った男、そんな男の口からどんな言葉が聞けるのか、自分の理性をとどめ置ける言葉であればいいとすらラスタは考えていた。
男は、猿轡を外された瞬間に、涙を流し嗚咽をこぼし始めた。
「なぜ泣く。これからの尋問を恐れる暗部とは思えんがな」
ラスタの過酷な言葉に対して、予想に反した言葉を聞いた。
「命ある中で、殿下に謝罪できる機会を望んでおりました」
暗部の言葉をそのまま信じるほど、ラスタも愚かではない。
「ほう、愁傷だな。ならばなぜ、あのような行為に臨んだ。吐け!」
男は首を縦に振って話し始めた。そばに赤いクリスタルが置かれる。嘘を感じ取れば光が増す。技術省が見つけてきたアーティファクト。
「一昨日の魔神とドラゴンの戦い。それ以前から王弟殿下は準備をされておりました」
「それ、以前だと! いつからだ!」
予想外の言葉にラスタも意表を突かれた。
「5年ほど前になります。暗部の1部と2部のうち、2部に対してのみ、あの方は周到に取り込みを図られました」
クリスタルは一切変化していなかった。
「取り込みってなんだ!」
ガルフが声を荒げる
「若い男は、女を使って、ある程度の歳のものは、家族も含めて洗脳、脅迫、その他の束縛で、帝国に対してではなく、王弟殿下の命令で動くように、それを拒めば死以上の苦しみに合うように、束縛を……」
同行した兵士は暗部の1部のものであったが、告白に対してわずかに動揺していた。
「それを、今、なぜ、俺に言う」
ラスタの言葉は辛辣だった。だが、告白した兵士はそれすらも予想していた。
「私の妻は、王弟殿下の邸宅の地下牢につながれておりました」
さすがに、ラスタとガルフは言葉に詰まる。しかし、冷静さは失わず、そばのクリスタルを見つめ、同じ色をたたえていることを確認する。
「私がしたことで、私が守るべきものを、自分の命を投げ捨ててでも守りたいと思った人を、私は亡くしました」
兵士はさらに言葉をつづける。
「今、私は、殿下の心境が、表情がわかります。私と同じ心情だと」
目の前の兵士が優しく、微笑んだ。
「殿下、私の首をおはねください。私は、私のようなものをこれ以上作りたくありませ」
「まったぁ!!!」
部屋にいた全員が凍りついた。ラスタとガルフは、聞き覚えのある声に対して、あるはずがないと首を振るが、それでも声は自分の知る奴の声以外の何ものでもなかった。
鉄製の扉がゆっくり開かれた。
そこから、いつもと同じような感じで、カミユが部屋に入って来た。
そして、エリス、ミオ、テオまでも、そのあとに続いて入ってきた。
カミユは、ラスタ、ガルフの横を抜けて、死を覚悟した兵士のそばまで近寄って、そして、腰の剣を抜く。
兵士はカミユに対して涙を流しながら微笑んだ。
「生きていらっしゃってくださいましたか。ありがとうございます。本当にありがとうございます。お手を煩わせますが、私を楽にしてくださいまし」
兵士は首を差し出す。
その目の前でカミユが力を込めて剣を突き刺す。
ギンと鈍い音が部屋に響き、全員の目が音の中心に目を向けるが、もう一度同じ音が聞こえて、そして、兵士が床に崩れ落ちる。
カミユは兵士の手かせのみを剣で打ち砕いた。
床に崩れ落ちた兵士は、それでも何かを悟ったかのように、両手を後ろに回し、首を垂れる。
その頭と体にカミユは勢いよく抱きついた。
兵士は死を覚悟していた。自分の顔に降りかかる、温かい液体を感じ、自分の血か何かだと感じて拭ったが、それはただの透明な水だった。ただ、ぬくもりだけがあった。
「ごめん、ごめんなさい、俺が、俺が……」
ラスタとガルフは固まっていた。なんで? どうして? 何が起きた? カミユは死んだのでは???
そこに騒々しい音が加わる。
「カミユ!」
「カミユ様! 我が主は!」
「カミユさんが死んでいないって、ほんとですの?」
ラキアス、ミネルバ、トラシアが部屋に飛び込んできた。そして、カミユの姿を見て、ラキアスとミネルバが飛び込んだ。
勢いよく、兵士も含めて4人が壁までつっこんで大きな音を立てる。
「なっ! とびこむなぁ!!!」
「カミユ、お前本当に、幽霊じゃないんだな? 生きとるんじゃな?」
「カミユ様、本当に生きていらっしゃって……」
兵士を下敷きにして、カミユはラキアスとミネルバに抱きつかれたまま、テオに説明を促す。
「テオ、予想通りだったみたいだけど、このあと、うまく説明してもらえないかな?」
カミユが襲われた惨状に苦笑しながらテオが答える。
「えと、みなさん、カミユは確かに襲われましたが死んではいません」
「こうして生きてるっつうの」
テオの言葉とカミユの応対、ラスタもガルフも、完全に頭が混乱していた。
「全部説明してくれ、テオ。俺もちゃんと確認したんだぞ、カミユの心臓にナイフが深々と刺さって、心臓が停止していたのを」
「全員が何度も確認したじゃねぇか!」
テオはラスタとガルフのセリフにそれぞれうなずいてから、答え始めた。
「本当に運が良かったとしか言えませんが、カミユは一度ドラゴンになったことで、転回の眠りというものについていたようです」
「転回の眠り?」
ラスタが聞いたことのない言葉を口にする。
「はい、私も古文書を見て初めて知ったのですが、竜神族は、ドラゴンの体と人の体を交換する際に、たまに、転回の眠りという、体も魂も眠ってしまう状況に陥るみたいですね」
「転回の眠り、そうか、そうゆうことか!」
ミネルバが得心したように飛び上がる。
「はい、転回の眠りにより、カミユは体も魂も、ほとんど休眠状態にあったため、心臓を刺された時も、ほとんど生体活動が止まっていました」
何やら、いろいろわけのわからない話が錯綜していて、頭が付いて行かない、ラスタとガルフ。
「わけわかんねぇっつうの」
「もっとわかりやすく頼む」
コホン、と咳払いしてテオは説明をつづけた。
「普通の人間だったら治癒呪文などが間に合わない傷だったのですが、転回の眠りの中で身体が深く、ゆっくりと眠りについていたカミユに対して、致命的な心臓の傷ですら、治癒呪文で回復させることができました。カミユは生きてますよ」
尋問室がいきなり歓声に包まれる、だが、その中で兵士はうれしさを感じながらも自分が失ったものに対して、心をささげていた。
そこに、一人の兵士が加わってきた。
「殿下! 報告がありまして、いまよろしいでしょうか!」
「構わん、話せ!」
「昨日まで、王弟殿下地下牢に囚われていた人質10名は、我が1軍が救出に成功しております! 昨日のドラゴンの襲撃の際に館は無人だったとのことです」
「私の妻は、アーシャは!」
「アーシャ・スタイン殿ですか?」
兵士は首を縦に振る。
「あなたを探しておいででしたよ」
兵士の目から涙があふれた。
「殿下、心からお願い申し上げる、死罪を受ける前に一目だけ、一目だけで構いません。私を、妻に、アーシャに合わせてください」
ラスタは少し考えた後で人の悪い表情を作ってこたえる。
「ふむ、そなたの希望をかなえてやりたいのはやまやまだが、それは無理というものだな」
兵士は、ある程度は予想していた。罪人、それも大逆罪にも等しい罪人が希望をかなえられるなど。
「なぜ、こいつが死罪にならねばならんのだ? これほど職務に忠実だったのに? おい、トラシア、この場合どうすればいいんだ?」
「そうですわね。働きすぎということもありますし、多少の恩賞と休暇を与えてはいかがですか? 奥さんと一緒に旅行に行けるような」
混乱した兵士の目は、ラスタとトラシアを交互に見つめていた・
「んじゃ、それで」
ラスタは、呆けた兵士の肩をつかんで引き起こした。
「お前が大事にしてた女は無事だ。そして、それを、その幸せをしっかり抱きしめとけ!」
周囲から一斉に喝采が沸き起こる。轡と枷を外された、暗部の者たちも、涙しながら歓喜とラスタを称賛し始めた。
笑顔で答えたラスタは部屋の外へと足を向けた。カミユと同時に。
「ラスタ、黒幕が今どこにいるかもわかったよ。さっき、テオの魔法で補足できたって」
「俺がけりをつける」
「悪いけど、それは俺がやるから。それでちょいと、頼みがある」
カミユは怒りに包まれていた、すぐにでも全力、龍の力さえ解放しそうなほど、周囲をゆがめそうなほどの怒気を放っていた。
「おい、カミユ、お前なんで、お前、自分が殺されそうになったからって、そこまで怒るか?」
「あいつら、エリスにまで手をかけそうになった。悪いけど、こればっかりは……」
ラスタは怒気に気圧されて一瞬立ち止まる。カミユは立ち止まらず歩みを進めていた。
「カミユ、こいつを持って行け、お前がほしいものは今書く」
2,3言葉を交わした後、それぞれ自分が立つべき舞台へと向かった。
「カティッサ子爵、何か申し開きはあるか?」
実行部隊の総責任者の任にあった人間に、帝国皇太子が、反論を許さない形で詰問する。
「は、いえ、私は、自分の職務に忠実に従ったまでで……」
語尾がしどろもどろになっていた。
「グラムス大公が卿に命じたことはすでに把握している」
議会にどよめきが走った。さすがに帝国内で第二位の実力者が今回の首謀者と決めつける、第三位の発言は見過ごせなかった。そこに最高位が追い打ちをかけた。
「現時点を持って、我が弟、グラムスの大公としての地位を、永久に封ずる。奴は、我が帝国に仇しかもたらさぬ。これは我が覚悟。帝国を未来に導くため、余はすべてを投げうつ」
肉親を殺す決断が、帝国を司る、王家によって下された瞬間だった。
「ははは、我が視界に、すべてが収まっておる」
王弟グラムスが、目の前の照準に目を当ててほくそ笑む。
飛空艇ドック、その中で一番存在感を放っている、戦艦ガレリア。本来飛空艇ドック内では、火器管制は起動させない運用のはずが、現在のガレリアは、火器管制のみが、最大限に稼働していた。
そしてその艦内の主砲を含め、ほぼすべてを掌握していたのは、大公グラムスであった。
照準の中に帝国議会場の上座が位置していた。
手の中に引き金があり、それを引けば帝位が自らに転げ落ちてくる。
自分の中の空想の世界の中に一瞬頭が奪われ、恍惚の表情を浮かべ、そして頭を振って、甘い考えを追い出した。
そこには、厳しい現実が、自分の目の前に白刃が突きつけられていた、配下の者がすべて取り押さえられた現状が、目の前に広がっていた。
ほんの一瞬、目をつぶった、その隙に、カミユはラスタから借り受けた、暗部を、最大限に利用した。
そして、今、王弟グラムスの眼前に、ラスタから借り受けた王剣を突きつけていた。
「大公グラムス殿下、皇帝陛下の権限の元、反逆罪、騒乱罪、その他10件以上に及ぶ罪状によって拘束させていただく。抵抗は無用に」
剣を首に押し当てられ、目だけでその声の主に応じて、グラムスは驚愕した。
「お、お前は死んだはず、殺したと、心臓が止まったと報告が……」
「目の前にある真実、事実が受け入れられぬとは、お可哀想に……」
相手がどのように反応するか、それすらも把握したうえで、酷薄な現実を突きつけるカミユ。
「王弟殿下、私はこうやって生きております。守ってくれた人が、いましたゆえ」
一瞬の間ののち、グラムスは笑い始めた。その間、周りの取り押さえられた者たちは、暗部によって、飛空艇ドック内で臨戦態勢にあったガリレアから退去させられ始めた。
「はっ、笑わせる。貴様のような子供が知らぬのもわからぬではないが、余はエルドリア帝国、第13代皇位継承権第二位のグラムス大公なるぞ、余に剣を突きつけるその行為、すでに万死に値する罪なるが、それは理解しておるのか?」
カミユは動じなかった、動じる必要もなく、理由もなかった。
自分の言葉が通じていない状況を悟ったグラムスは、わずかに恐怖した。余を知らぬのか? 権威が通じぬのか? 苛立ち、声を荒げる。
「そなたは、余が大公であることを知らぬのか!」
「存じ上げておりますよ。初めに大公グラムス殿下とお断りしたはずですが?」
「ならなぜ、この剣を下げぬ、不敬罪で、死にたいのか、き、さ……」
剣に目を向けた大公は、ようやくその剣、その事実に気が付いた。
王剣、帝国に存在する、王室を象徴する神器。
本来、王室の正当継承者以外が帯びることすら許されていない、そして、これまで保持することを焦がれ続けてきた神器、それが自分の目の前に突き付けられていた。
グラムスは過去の事例を一つだけ思い出していた。
皇帝が王剣を託したものに一時的に、皇帝権限を認め、自分よりも上位と認めたうえで、遠征軍の最高指揮官に任命し、その任を果たしたのち、王剣の帰属とともに皇位復帰を宣言したことを。
「ば、馬鹿な、そんな、貴様が、そんなはずが……」
グラムスは何度もその剣を見定めた。しかし、何度見てもその剣は自分の中の記憶にある王剣以外の何物でもなかった。
グラムスの表情を見定めたカミユは、宣告する。
「ここにグラムスの大公としての地位を永久に封ずる」
死刑を宣告された罪人と同じ表情。そうとしか見えない、絶望に支配されグラムスは首を垂れた。
周囲にいた、ラキアス、ミネルバ、ガルフは、物語の結末を見届けて安堵した。
完全に虚脱したグラムスを認め、カミユも緊張をほどいた。
その時。
「カミユ!」
その場にいた全員がその声の主に顔を向けると、そこには、満面の笑みのエリスがカミユに飛びついていた。
その拍子に、カミユは王剣を手放してしまった。
グラムスは、可能性を捨ててはいなかった。宣言されてもなお、自分の手の届く場所に王剣が存在する事実は揺るがないものだった。
それさえ手にできれば、自分が王になれる。
そして、カミユが王剣を手放し、自分の目の前に剣が転がっていた。
世界は自分に味方している。世界が余を、皇帝と認めた瞬間。これこそが世界のあるべき姿。その柄をつかみ、立ち上がって、宣言を紡ぐ。
宣言を紡ぐはずのグラムスは、不意に腕の軽さに気が付いて、王剣を確かめようとして、自分の視線の先に剣がないことを認めた。
剣はどこに、下を向き、手を伸ばしたときと同じところにある剣の柄を認めた。
余は手を伸ばし、柄をつかんで、持ち上げ……
持ち上げられていなかった。つかもうとした瞬間、そのままに、自分の目線の先に、柄をつかもうと伸ばした手首が転がっていた。自分とつながっていない自分の手首。
一瞬ののち、自分の腕の先に、手首がないことを認識し、灼熱のような痛みに襲われ叫ぶ。
「ぎゃぁぁぁ……」
声は後から聞こえてきた。
「情け」
視界が回る。自分がどこにいるのかわからず、そして、顔の横に痛みがあり、それが床だと認識した。視線の先に、豪華な身に包まれた体があり、それが自分と同じ服だと認識した。
「誰がそこに」
声にはならなかった。顔を見ようと視線を向け、首から上には血しぶきだけしか見えなかった。
そして、暗闇が目を強制的に閉じさせた。
最後に視界に移ったのはハルバードの刃先から滴る自分の血であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます