第21話 ナイトメア

重く濃い水の中、目に見えないほど小さな粒が漂っている。その丸い粒がわずかにたわみ、ゆがみ、そして縦に二つに分かれ始めた。

「細胞分裂を確認しました。D因子は無事に結合できた模様です」

 若い白衣の研究員が目の前の光る板からの、青白い光を受けながら報告する。

「32まで進んだ後、一つを採取して、確認を取ってください」

 白衣の女が感情を込めずに指示を出した。


 わずかな時の後に、若い研究員は光る板に向かって目を走らせ見開いた。

「そんな、どういうこと…… こんな、これは、癌化してる?」

 白衣の女の目が見開かれた。

「もうひとつの細胞を、反対側から採取して確認を」

 再度の確認も答えは同じだった。

「どうしますか、このまま育てても、おそらくは…… ここで終わらせた方がこの子のためかと思いますが……」

「命を目の前にしてそれを軽々しく扱うなんて、あなたはそんな選択をできるのですか?」

「え、あ、いや、そんなことは……」

 白衣の女は若い男に背を向けて怪しい笑みを浮かべていた。

「クレイドルの一つに入れてあげて、ゆりかごに。最後までの短い間になるかもしれないけど……」

「わかりました」

 こうして女は、悪夢の母親となった。数年の後、その子供に自ら食われるまでの間。

 これが悪夢の始まりとなり、人類の繁栄の終わりとなった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る