第15話 森と雨
ここは帝国最前線の入植地アリアス。町の住民の多くが自警団に属し、農業を営む人々を守っていた。
帝都からの定期便の飛空艇から、一人の少年と3人のエルフが町におりたった。
「う~ん、なんか久しぶりだ~」
「う~ん、なんか久しぶりね~」
ほとんど同じセリフを同時に吐き出すカミユとミオ。互いに顔を見合わせて思わず笑ってしまう。テオもエリスもつられて笑っている。
「まぁ、10日ぶりですしね。でも、カミユ達は帝都でもう少しゆっくりしていてもよかったんですよ? 私とミオの二人だけでも診療所開けられるといったのに……」
「10日以上閉めていて、その直後って、人手いるよね?」
「そこまで考えていましたか……」
今回の旅でカミユは軍師の様な役割を果たして、いろんなことを考えるようになってきていることをテオは実感していた。
「カミユからその話を聞いて、私も頑張らないとと思って。私からお願いしたんです」
エリスの言葉にテオは降参して笑顔で感謝を伝える。
「ありがとうございます。診療所は明日から開けますから、手伝いお願いします」
エリスも笑顔でうなずく。
「それじゃ、俺達、ちょっとおやじの家寄るから、先いくね~」
カミユはエリスを促して広場の方に向かっていった。
(ラキアス邸)
「ワズ、カシュト、いる?」
カミユはラキアス邸の玄関から奥に向かって声を上げる。
「あら、あら、カミユ様、お帰りなさいまし」
奥から小走りに出てきたのは、ラキアス邸の使用人で年配の女性だった。
「あ、カシュト、ただいま。これ、お土産」
カミユは手に持っていた帝都で購入した、お菓子を差し出した。
「これ、私どもでいただいてよろしいのですか?」
「もちろん! そのために買ってきたし、俺の家も見ててくれたんでしょ? そのお礼」
カシュトはうれしそうに顔を崩して、お菓子を受け取った。
「そんな、お気遣いいただいて、ありがとうございます」
と、玄関の外から声が届く。
「おお、カミユ様、エリス様、お帰りになられましたか」
「ワズ! ただいま。いま、戻ったところだよ」
年配で小柄な男性が、カシュトと同じような雰囲気で話しかけてきた。
「旦那様はご一緒ではないのですか?」
「ああ、おやじは少し帝都でやることがあるらしい。4~5日は帝都にいるって言ってた」
「さようでございますか」
眼を細めて応じるワズにカシュトが話しかける。
「おまえさん、これカミユ様が、私とおまえさんに、って」
「なんともったいない。ありがとうございます」
夫婦らしく、ワズの対応はカシュトの対応とほとんど同じだった。ひとしきり喜んだあとで、ワズが口調を変えて問いかけてきた。
「ちょっと、そこで小耳にはさんだのですが、なんでも南の国でドラゴンが出たとか、それで、皇太子殿下がお伴の方と一緒に退治されたと聞きましたが、本当なのですか?」
「げっ! もう噂になってるの? 早いなぁ……」
カミユとエリスは驚いて顔を見合わせていた。
「ということは、やはり本当のことなのですか?」
カミユとエリスはコクンとうなずく。ワズが目を見開いてさらに追及してきた。
「その殿下のお伴の方には、3人のエルフがいらしたとのことですが、まさか、エリス様も?」
「あ、はい、私だけでなく、カミユと、テオさん、ミオさん、あと、ガルフさんも」
返答を躊躇したカミユに対して、エリスはその躊躇を意味のないものに変えてしまった。
「ド、ド、ド、ドラゴンを退治してきた……」
ワズは青ざめて怒りだす。
「カミユ様、お二人の身に何かあったら、どうするのですか!」
「いや、その、ほら、こうやって無事帰ってきたし。それにおやじも最後加わって……」
「旦那様まで……」
玄関口を向いていたエリスの背後から、唸るような声が聞こえてきて振り返ったカミユは、立ちくらんだカシュトを見つけて、急いで駆け寄った。
「カシュト、カシュト! しっかり! ワズ、肩を貸して部屋に運ぶから。エリス、ごめん、テオを呼んできてくれない?」
そんなドタバタの後、気がついたカシュトから、ワズ以上に怒られた二人であった。
次の日、10日ぶりに開いた診療所にはたくさんの人が詰め掛けていた。普段なら昼の中ごろには途絶える待ち人は、今日に限っては日が落ちた後になってようやく途切れた。カミユは気を利かせて、待ち人が途切れたころに夕食の差し入れをもって診療所を訪れた。
「カミユ、ありがとうございます」
テオは疲れた表情ながらも礼をいって差し入れに手を伸ばしていた。
「みんな、お疲れ様」
「こんなに人が多いとは思わなくて……」
エリスは戸惑うような、少し驚いたような表情で答えた。
カミユは昨日の会話を思い出して、
「やっぱ、手伝って正解だったね」
エリスは笑顔で応じる。
「はい! がんばったかいがありました」
「エリスがいなかったら、私たち二人まで倒れてたわよ」
ミオのセリフに、テオも首を縦に振って同意した。
「冗談ではなく、本当にそうなってましたね」
助かったと言わんばかりの表情にみんなが笑い、少しだけ疲れがいやされたようだった。
食事が終わって一息つきながら雑談をしていたが、ふとテオが思い出したようにカミユに相談を持ちかけてきた。
「ところで、カミユ。アリアスの町近くの森とかはいったことがありますか?」
「いや、無いけど、突然どうした…… って、薬草?」
いきなりの質問に応じながら、途中でテオの話に心当たりがついた。
「ええ、今日の診療でもかなり使いましたが、あと一月分も無さそうなんです」
テオの視線の先には、空きの方が多くなった薬品棚があり、ポーション等の薬瓶も半分以上が空になっていた。
「それじゃ、明日にでも西の方行ってみるかな。あっちなら、魔物の調査は済んでいるはずだし」
ここ、アリアスの町は帝国の中心である帝都から東に位置しており、帝都からアリアスまでの間は、既に輸送用の路が開拓されていた。その際に、付近に魔物が住んでいるような箇所は重点的に、騎士団や戦士団が討伐を行っていた。ただし、魔物すべてを駆逐するほどではないため、輸送部隊には数人の護衛がつくことが当たり前となっていた。
「一人で行くのは危険よ。私がついていくわ」
ミオが声を上げるが、カミユの目から見ても、顔に疲労の色が浮かんでいることがはっきりとわかった。
「無茶言ってるんじゃない? そんだけ疲れてたら、明日普通に診療所手伝うだけでもきついんじゃないの?」
「あ~う~」
カミユの言葉通りの状態のミオは、言葉にならない声を発した。
「それなら、私がご一緒します!」
言葉の方を向くと、エリスが目を大きく開いて立っていた。カミユの目から見ても、エリスはほかの二人と比較して、それほど疲れたようには見えなかった。
「エリス? 疲れていないの? ほら、ミネルバの時は倒れこんじゃったよね?」
「ミネルバさんは、本当に効きにくくて。それに傷も深かったですし。それに比べて今日は人は多かったですけど、それほど大けがの方もいらっしゃいませんでした」
エリスの顔だけを見ていると、本当にいつもの診療所の仕事が終わった後のように見えた。しかし、疲れた顔をしているテオは驚いていた。
「エリス、あなた、私よりも多くの方を診たのですよ? それでも大丈夫なんですか?」
エリスは当たり前のようにうなずいた。
「そういえば、長老の木も言ってましたね。持て余すほどの魔力、と」
テオは納得がいかないながらも、感心するようにうなずいた。
「それなら、エリスとカミユにお願いしましょうか? 砂漠で戦いにも慣れたことでしょうし、この辺りなら問題ないでしょう。一人なら事故で動けなくなることもあるでしょうけど、二人なら大丈夫でしょう」
それほど遠くない昔の話を持ち出されたカミユは、渋い顔をしながらも答える。
「まぁ、ミオみたいな長老の木が、他にいるとは思えな…… い、し。大丈夫」
言葉の途中でミオから木のコップが飛んできたが、うまくかわして最後まで言い切った。
「私以外の何かに、ぼっこぼこにされてきたら、承知しないからね!」
カミユとミオの視線がぶつかり火花を散らす。
そんなやり取りをよそにテオは戒めるように注意を促す。
「ドラゴンに勝ったからと言って、あなた一人の力で勝ったわけではありません。魔物が弱いからと言って、油断してはいけませんよ」
「わかったよ。テオ。気をつける」
「気をつけます」
カミユとエリスはうなずいて答えた。
「出発は明日? 明日中に戻ってくるの?」
「う~ん、やっぱり明後日にするよ。色々用意しないといけないしね。西の森まで少し距離があるから、戻りは翌日のつもり」
ミオが予定を確認する。戻って来なかった場合は捜索にいくためだとカミユは理解した。
「予定日の夜までに戻ってこなかったら、その時はお願い」
「了解よ」
言葉は短いが、これまでそれなりの時間を一緒にしてきた二人の間では、それで十分だった。挨拶をして診療所を後にしたカミユは、エリスからどういう意味かと質問されはしたが……
町の門をくぐって半日、穀倉地帯をぬけ、草原を超えて、目の前にようやく森が姿を現していた。アリアの町近くの森よりも、木がまばらな気がしていたが、森に差し掛かってその理由が判明した。ある程度の間隔をおいて木の代わりに切り株が存在していたからだった。森を利用し、かつ、森を壊さないため、数本に一本の割合でのみ木を伐採していた。昔から知識として伝わっていた、森と人との共生のための掟。
ふと思いついて、カミユはエリスに質問してみた。
「エリス、これくらい木を切っても、森は大丈夫なものなの?」
普段と変わりない顔でエリスは答えた。
「これくらいでしたら、森の中に日の光があたりやすくなって、森にもいいと思います」
少し離れた位置で音が聞こえて、音に目をやると、二匹のシカが驚いて逃げていった。
「悪いことしたかな?」
カミユの独り言に、エリスはほほ笑みだけで返した。
歩みを進め、視界に切り株が入らなくなった森に、風が駆け抜けていった。森は穏やかにそこに在り、小動物や鳥たちをはぐくんでいる。鳥のさえずりが心地よい音楽のように耳に沁み入り、二人は心地よさを感じて、言葉もなく森を楽しんでいた。
「エリス、薬草のありそうな場所ってわからない?」
やみくもに探すより、森に住まうエルフに聞いてみた方がいいと思い、声をかける。
「水と森と土の力の強い場所によくあります。この辺りは、森と土の力は十分なんですが、水の力が弱くて……」
「水の力の強い場所ってわからない?」
「ちょっと、聞いてみますね。少し待っていてください」
エリスはその場に立ち止まって目を閉じ、祈りを捧げるように手を組んだ。
森の中にたたずむエリスを見て、カミユは不思議な感じがした。いつも隣にいて、一緒に話をしているはずなのに、森の中に溶け込んでいて、まるで元からこの森にあった木や石のような、森と調和している、そんな存在に見えた。
「…… カミユ? どうしたんですか?」
おそらく、数秒程度の時間ではあったが、カミユはエリスに見とれてしまっていた。急に恥ずかしくなって、カミユはエリスから目をそらしてしまった。
「あ、いや、なんでもない…… ごめん」
「?」
エリスはわけがわからず首をかしげた。カミユは表情を戻してエリスに結果を聞く。
「あ、それで、どうだった? 精霊は教えてくれた?」
「はい! まだ先になりますが、山際に水の力の強いところがあるみたいです。」
「じゃぁ、山際目指した方がよさそうだね。こっちに向かおうか?」
「はい。あ、あと、空に水の力があると言っていたので、雨が降るかもしれません」
エリスの言葉にカミユは空を見上げた。木々の隙間から見える空は、まだ青が多かったが、白い雲の中に、少しだけ灰色の雲が混じっているのがわかった。
「雨具は持ってきてはいるけど、できれば雨を避けられる場所探したいな。エリス、少しだけ急いでいい?」
エリスはうなずいて歩みを早め、カミユはそれを先導した。
山際の広場を見つけたカミユは、山肌と近くの木の間にロープを張って、そこに雨をしのげるように麻布を広げた。地面も水にぬれないように周囲を少し掘り下げ始めた。
「カミユ。枯れ枝取ってきました」
「うん、ありがと、そこの倒木の上において」
エリスが戻ってきたとほぼ同じくらいに、近くの若木の葉が雨粒にはじかれた。
「そんなに大降りにはならなさそう。よかった」
「ほんとですね」
雨のために、予定よりも早くキャンプをすることにした。キャンプの準備を終えたカミユは、倒木の上に座っていたエリスの横に腰かけた。夕暮れにはまだ少し時間があり、雨雲ですこし薄暗くなった森を二人で眺め、穏やかな時間を過ごしていた。
自分の肩に頭を載せているエリスを見て、カミユはほほ笑みながら語り出した。
「俺、雨が降っている森って、好きなんだ。なんとなく気分が落ち着くっていうか、優しい感じがして」
エリスはカミユの肩に手を当てながらカミユの方を見つめて聞き入っていた。
しばらくの間、雨音だけが聞こえていた。
「私は、その、雨が少し嫌いでした」
カミユはエリスの言葉に驚いた。これまで、エリスの口から嫌いという言葉を聞いたことがなく、そして、何かを嫌いになることもないだろうと感じていたからだった。
カミユは、その理由を知りたいと思った。
「どうして嫌いなの?」
エリスは予想に反して、しばらく黙ってしまった。カミユは、自分がこう言った状況だったとき、子供だった時のことを思い出した。そして、ミオの顔が浮かび、同じ表情をして聞いてみようと思った。
「エリス。俺に、教えてくれない?」
カミユの表情は優しく、それはエリスをいたわる以外の何物でもなかった。
エリスは自分の中の嫌悪という感情自体を忌み嫌って、いや、カミユに知られるのがとても悪いことかのように、小さな声で答えた。
「雨が降っている間は、カミユが…… 来なかったから……」
エリスの言葉で思い出した。アリアの町にいたころは、ほぼ毎月同じ日に薬草を取りに行っていたが、雨が降った日は、雨が上がってから取りに行っていたことを。
カミユが答えなかったため、エリスは心配そうな、少しおびえた表情でカミユを見つめていた。カミユは少しだけ言葉を考えた。そして、
「これからは、そんなことはないよ。絶対に。だから、雨の森を好きになって。嫌いになった理由を流してくれたんだから……」
カミユは自然と笑顔で言葉を紡いでいた。エリスは笑顔で、目に涙をためながら、カミユに抱きついた。カミユの胸に顔をうずめて、何度もうなずいていた。
雨の上がった朝の森、霧に包まれたカミユとエリスはまどろみから抜け出した。大きな木を背に、一つの毛布で暖をとった二人は、さわやかな朝の冷気ですぐに目が覚め、簡単に朝食を取って、泉を目指した。
霧が晴れ切ったころには、鳥のさえずりの中に、滝音が聞こえ始めていた。
カミユは少しだけ歩みを速め、エリスもそれに続く。そして、少し先に周りよりも明るく開けた場所が見えてきた。
「泉だ!」
カミユはこれまで見たこともないほど澄んだ泉を目にして、凡庸な言葉しか出せなかった。目の前には、泉の底まで完全に透き通った水で満たされた泉があり、山の中腹から澄み切った水が滝となって泉に注ぎ込んでいた。
「エリス。この先に薬草があるのかな?」
「はい。この先に強い力を感じます。すぐそこです!」
目の前の泉から流れ出る小さな小川を飛び越え、カミユはエリスの手を取って促す。小川を超えた二人は、駆け足で泉の先、森の中の明るい場所へと向かっていった。
開けた場所に出た二人は、息をのんだ。視界一面を染め上げる、白とピンクのじゅうたんが広がっていた。
「すご、これ、全部薬草…… だ」
「これ、二人でも取りきれませんよ?」
「全部とっちゃだめだって。三つに一つ…… それでも、二人じゃ無理だね」
あっけにとられた二人は、白とピンクのじゅうたんを見渡していた。
「エリス、ピンクの方の薬草をお願いできる? 三つに一つ」
「はい!」
そして、小一時間が経過した……
「二人でこれだけがんばって、3分の1も行かないなんて……」
「まだ、集めた方がいいですか?」
「これで十分だよ。これ以上取ったら、テオが目を回すよ」
二人は互いの顔を見て笑った。
「少し早いけど、帰ろうか? ミオが心配して門で待ち構えていそうだし」
「はい」
二人は十分な成果を手に町へと向かった。そして、すぐ近くの泉まで来たときに、カミユがそれに気がついた。
小川を飛び越えたエリスが、カミユを促すが、カミユは滝の方をじっと見つめていた。
「カミユ。どうかしたんですか?」
「あ、うん、ちょっと気になって。滝の奥、洞窟みたいになっていない?」
カミユの言葉にエリスも滝の奥を見つめる。
「ええ、私もそのように見えます」
エリスの同意でカミユは調べる決意をした。
「ちょっと、滝の裏側調べてくる。エリス、水にぬれるとまずいから、ここで待ってて」
カミユの言葉に、エリスは首を振った。
「いいえ。私もついていきます。ちょっと待っててください」
エリスは履いていた靴を脱いで、少しだけ泉に入った。足の甲にわずかに水がかかる程度の場所で、祈りを捧げるように目をつむった。
わずかの後、目を開けてカミユに告げる。
「水の精霊にお願いしたので、水を避けて滝をくぐれます」
エリスはカミユの手を取って、泉の脇から滝の真下に踏み込む。滝の水はエリスを避けて流れ落ち、カミユの上にも滝の水が落ちることはなかった。
カミユの目にも洞窟がすぐ行き止まりになっているのはわかったが、おもむろにカミユは走り出して洞窟の奥の壁に手を当てて調べ始めた。
「これ、魔法の封印だ…… 破られてはいない、か……」
エリスが追いついてきて、壁を調べるカミユに驚く。
「ど、どうしたんですか?」
「魔法で封印された扉なんだよ、これ。盗掘はされていないみたい。この奥に何かお宝があるかも……」
カミユは壁から少し下がって壁を見詰めていた。壁は表面には何も映ってはいなかったが、自然の洞窟とは思えないほど平らになっており、周囲の壁と比べても、人の手が入っていることは明らかであった。
「中、入りますか?」
エリスはどうしたらいいのかわからず、疑問を口にした。
「いや、二人で入るのは危険すぎる。予定通り、町に戻ろう。みんなに相談しよう」
カミユははやる気持ちよりもエリスの身を案じ、エリスは安堵の息を吐き出していた。
「お帰りなさい」
出迎えたのは、予想に反してテオだった。
カミユは言葉より先に、背負っていた麻袋を開けて中身を見せた。
「こ、これだけの量。ちょっと、カミユ、取り過ぎたんじゃ……」
「これでも見つけた広さの三分の1、そこで三つに一つしか取ってきてないよ」
テオは目を見開いて、薬草を手に取った。
「かなりいい薬草ですね。力がある。これは助かります!」
テオの上機嫌に、エリスもカミユも満面の笑みを浮かべていた。
そこに待ちくたびれたエルフがやってきた。
「おそいっつ~の~~」
なぜか、ミオは主婦らしくエプロンをしていた。
「なに? その格好?」
カミユはきょとんとミオを見ていた。
「ちょっと、少しは感謝してよね。私が腕をふるって、二人のために料理作ったんだから」
「ほ、本当ですか? 私ミオさんの料理食べるの初めてです!」
エリスは目をキラキラ輝かせている。そして、青ざめた顔で震える人とエルフの男。
「ちょっ、テオ、なんでこうなったの?」
「いや、今日は診療所にあまり人が来なくて、ミオがいきなり作るって言い出して……」
「なんで止めないのさ! 責任とって一人で食べてよ!」
「胃薬も毒消しも通用しないのに、ですか? カミユ、それはあんまりですよ」
「無理無理、ミオの料理食べるくらいなら、一人でドラゴンに立ち向かうって」
二人は最大限にボリュームを絞って、ひそひそ話をしていたが、ふと、二人の顔のそばに、別の顔があることに気がついた。
おそらくはエルフの女性であったと思われる顔は、
誰がどう見ても、悪魔以外の何物でもなかった。
そして、その悪魔が言い放つ。
「お・ま・え・ら…… 一回死ねぇ!!!」
暴風が二人をおそい、にぎやかで楽しげな、悲痛がこだまする……
それでも、二人は、このまま朝まで気絶してしまいたい。そう神に願った。
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