第4話 船旅
やさしい日差し、穏やかな海、滑るように走る船はそれほど揺れることもなく、快適な船旅が続いていた。アリアの町を出て丸1日。現在船は新しい入植地アリアスに向かっていた。
無事船に乗り込んだアリアの住民は、船室でそれぞれの作業を行っていた。
ラキアスは、アリアスの町の資料に目を通し、テオはカミユと一緒にポーションを作成するための調合を行っていた。ミオはエリスに、人と暮らすためのレクチャーを行っていた。ガルフは、寝るのが仕事といって船室にこもってしまった。
まぁ、あの図体が動き回れるほどのスペースは船にはないのが事実ではあるが……
調合の手伝いがひと段落したカミユは、甲板に出て海風を楽しんでいた。
「ここにいたんですね」
すぐ後ろから声がかかり、エリスがカミユの横にならんだ。
エリスはカミユに木のコップを差し出した。
「お水ですけど、いりませんか?」
「エリスは?」
「私は下で先にいただきました」
「ん、もらうよ」
ぬるくはあるがそれでも少し柑橘系の果実が入っているらしく、素直においしく感じた。
「ミオからどんなこと教わってるの?」
水を少しずつ味わいながらカミユは問いかけた。
「いろんなことです。挨拶とか、お金とか、仕事とか」
「へぇ~結構真面目におしえてるんだなぁ……」
「これまでにも里を出たばかりのエルフに何度か教えたことがあるっていってました」
「なるほど、納得。結構世話焼きなんだよねぇ、ミオって。でもそれなら安心だな」
「安心?」
「なんか、変なことエリスに教えるんじゃないかと、正直心配してた」
エリスはほほ笑みながら続ける
「ミオさんがそんなに変なこと教えるとは思えません。うそとも思えませんし」
「うん。嘘はつかないよ。冗談は言うけどね」
二人とも声を出して笑う。
「あ、それで、帝国の話とかになったんですけど、それはカミユの方が詳しいからって」
「ああ、なるほどね。エリスは里の外のこと少しはわかる?」
「ものすごく昔、北の方で、エルフは人と竜人族と一緒に暮らしていたということが、お話として残っているくらいです」
「北、共和国のことかな。魔神戦争とかは知ってる?」
「魔神? いえ、なんですか?」
「共和国のさらに昔にすごく栄えた国があって、でもそれを滅ぼしたのが、魔神。で、生き残りの人たちが集まってできた国が共和国って呼ばれてる」
太古の昔、人、エルフ、竜人族は互いに助け合って、強大で高度な文明を構築したとされている。古文書には古代帝国と記されているが、皇帝が存在していたかどうかは定かではない。
その後、魔神が人とエルフをそそのかして、大きな戦争を始め、最後には魔神が人を滅ぼす魔神戦争が起きた。神の力を持つ三賢者が、人類の絶滅を阻止すべく、竜巻の壁で世界を分断し、魔神と人とを隔てることに成功した。
生き残った人々は、北の地域に集まった人々が国を作り、共和国として長らく栄えた。しかし、気候の変化により、食料が不足したため、巨大な飛空艇2隻を建造して、竜巻の壁を越えて移民を行うこととした。
移民により、3つの国が成立し、連邦政府が樹立されるが、そのうちの一つ。東にあった国が、飛空艇を乗っ取った魔神により滅ぼされ、東の国の飛空艇は破壊。北にあった国の飛空艇は封印された。
「飛空艇が封印されたのが1000年くらい前っていわれてる」
「カミユ、詳しいですね。すごいです」
エリスに褒められて、ちょっと戸惑っていたカミユだったが、空を見上げて話し始める。
「俺、飛空艇がほしいんだ。できれば、封印された飛空艇が。それで調べたんだ色々」
「何か理由でもあるのですか?」
「いや、理由ってわけじゃないんだけど、いろんなところに行っていろんなものを見てみたい。ただそれだけ」
エリスは初めて見るカミユの表情を引き込まれるように見つめていた。
「どうやったら、飛空艇を手に入れられるんですか?」
ため息をついて肩を落としたカミユは、半ばあきらめたように声を出す。
「お金で買うしかなくて。3000万ゴールドためないと……」
「3000万ゴールドって…… あの、ものすごい大金としかわからないですけど」
「テオの薬草とりで一回行って、500ゴールドくらいかな、それだと毎月行っても、5000年かかる」
「5000年!! それ、エルフでも、無理です」
「だよね……」
「で、でも、私も手伝います。お仕事とかして」
「あ、いや、普通に仕事で貯められるお金じゃないから」
「え、じゃぁ、どうやって?」
話すべきか、話さずにおくべきか、カミユは少しの間迷った上で話すことにした。
「宝物を探して売るの。中には100万ゴールドの値がつくような宝物もあるから」
「すごい。それなら何とかなりそうですね。どこにあるんですか? 宝物」
「それがわからないから高い値段がつくんだけどね。後、危険でもある」
「危険、ですか?」
「人が行ったことのない場所だったり、モンスターがたくさんいるところだったり。でもそこまで行って探さないと見つからないんだ」
「カミユはそうゆう危険なことをしているんですか?」
エリスは心配そうに顔を覗き込む。
「うん、トレジャーハンターって言うんだけどね。1年前までは、いろんなところ行ってた」
「私たちも良く一緒にいったわ~」
横からいきなりミオの声が飛んできて、驚く二人。
みれば、ミオだけでなく、テオとガルフもすぐそばにいた。
「あら? 気がついてなかったみたいね? 飛空艇あたりからここにいたんだけどね~」
「あ、ごめん、ホントに気がついてなかった」
珍しく、本当にすまなそうに謝るカミユ。
「いいのよ~。だって重大な考え事してたんだものね~。 飛空艇をあきらめるべきかどうか、ってね~」
「!!!」
カミユは驚きすぎて声にならず、何度か口を開いては閉じるような表情を繰り返した。
「ずぼしだったみたいねぇ~~。まったく、カミユなんだから」
「飛空艇をあきらめるってどうゆうことですか?」
エリスは話が飲み込めず、ミオに答えを求めた。
「カミユも言ったけど宝探しは危険なのよ。で、カミユはエリスを危険な目にあわせたくない。だから、エリスを置いて宝探しに行くか、それともあきらめて二人で町にいるか。町に居るだけだったら危険はないけど、飛空艇は買えないわね」
「私が一緒に行ってはいけないのですか?」
「やはりそうきたか……」
「お、カミユ、ちゃんとそこまでは考えてたわけだ、えらいえらい」
少し感心したように褒めるミオ。ミオを一瞥してエリスに質問する。
「一つエリスに聞きたいんだけど、宝探しの間、家で待っててって言ったら、嫌?」
「嫌です!」
即答の答えにカミユの覚悟は決まった。だが、エリスの言葉には続きがあった。
「もう見ているだけ、待っているだけは嫌なんです!!」
「見ているだけ? 待っているだけ? ってどゆこと?」
「私、里からずっとカミユを見てました。毎月薬草を採りに来ているのを。でも、里を出られなくて、里の入口でカミユを見ているだけしかできなくて、カミユが私の名前を呼んでいるとき、私もカミユの名前を呼んでいたんです。でも、通じなくて……」
最後はほとんど涙声になっていた。
「なるほど、それが長老の木がカミユにエリスを託した理由、というわけですか」
ようやく疑問の晴れたテオが納得顔でうなずいた。
「あの長老の木やるわね、二人をくっつけるために、カミユをぼっこぼこにするあたり、私好みね」
うれしそうなミオをほっといて、カミユはエリスに言葉を向ける。
「エリス、宝探しって危険なんだけどついてきてくれる? 前も言ったけど、必ず守るから」
「はい!」
満面の笑みでこたえたエリス。心に誓うカミユ。
「話はまとまったみたいだな、カミユ。んで、次どこ行くよ?」
ようやくカミユに用件を話せたガルフが、首に腕をまわして聞いてきた。
「下で作戦会議でもするか」
甲板を背に4人の間で冒険の作戦会議が始まる。
日は水平線に近づき、空は赤くなっていた。
ふと立ち止まったカミユはミオのセリフを思い出して、
エリスにあの長老の木の枝を植えないようにお願いしよう、
と心に誓うのであった。
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