第二十三章 これからのこと、衝撃の事実
ナタリーアはポツポツと何故自分が奴隷になった経緯を話してくれた。
もちろん、他の誰かに聞かれないように対策を取って、周囲に人の気配がないのを確かめてからだ。
カトリーナが臨時休業の看板を出し、僕はフレイヤと共に宿内の点検、ルーカスが宿の回りを巡回をして。
懸念事項を完璧に払拭して、僕たちはナタリーアの話を聞くべくルーカスとカトリーナの私室へと一堂に会した。
敵国の皇女様の話を聞くのだ。考えられるリスクは極力排除しないと。
王国民の中には未だ神聖国に対して激しい敵愾心を持っている者も多く、ここにナタリーアがいることがバレると暴動が起こるほかに、フレイヤたちが敵国と通じる売国奴として吊し上げられるかもしれない。
あらゆる驚異を排除して事に挑まないと。
僕はまだ不安そうなナタリーアの肩に手を置いて緊張を解そうとした。
そりゃあ怖いよね。
この国では彼女は完全にアウェーな存在だ。存在すらしてはいけない人間だ。
だけれど自分が今までどんな状況下に置かれていたか、祖国が今どんなに困窮しているか話したくて堪らない。
けれど・・・・・・、敵国人であるフレイヤたちに己の胸の内を伝えていいものか。
色んな感情が入り交じった複雑な表情を浮かべるナタリーア。
けれど、自分が神聖国人だと知っていても親切に接してくれ、亡国の姫と判明しても匿うという気概を示してくれたフレイヤたちを信じよう。
ナタリーアは附せていた顔を上げると呼吸を一拍し、穏やかな波のような静けささへ感じさせる淡々とした声で話し始めた。
長きに渡る戦で国を疲弊させた罪深き戦犯として自分たち皇族は処刑されたこと。
本来ならばナタリーアと双子の妹も処刑される憂き世にあったこと。
しかし、それに待ったをかけたのがアルザルシア王国の王太子であったこと。
そして助命する代わりに自身の妾として王国に嫁ぐことを条件づけられたこと。
それまでナタリーアたちは監獄塔に監禁されていたこと。
「・・・・・・監禁されている間、妹のリーシュネアと肌を寄せ合って恐怖に震えていました。これからどうなるのだろうと。妾とはいえ敵国に嫁ぐとなれば私たちは売国奴として祖国に恨まれることになると。
それに愛しい家族を笑いながら殺した男の元に嫁ぐことになるなどと、私たちは怒りと悲しみで気が狂いそうになりました」
両の瞳に涙をいっぱいに溜めて、時おり声を詰まらせながらナタリーアは言葉を紡ぐ。
彼女の独白を聞いた僕たちは胸が苦しくなるのを感じた。
怨敵に嫁がされるなどという屈辱的な、それこそ気でも狂いそうになるほどの残酷な仕打ち。
いくら王侯貴族の倣いとはいえあまりにも可哀想すぎる。
それにしたって双子を妾にもらうだなんて、その王太子の奴どんだけ強欲なんだよ、と僕は顔も見たこともない見ず知らずの王太子に毒づく。
それは真横で聞いていたフレイヤも同意見のようでーーーーーー、
「~~~~~~ッ!! ほら、やっぱり!! あたしの言うとおりだったでしょう!! あの女好きの目的は皇女様だったって!!」
私の目に疑いはなかったわ、と怒りにうち震えながらフレイヤは声高に叫ぶ。
散々な言い方だな。
王国民のフレイヤにまで最悪なほどに嫌われているその王太子の顔がむしろ見たくなるから不思議だ。
とはいえ同じ男としてその王太子様のことが許せないのも事実だ。
自身の立場を利用して弱者をいたぶるなんて屑かカスのすることだ。
いや、待てよ?
僕はそこまで考えてふとある疑問点を抱く。
確か両国の戦争は数十年の長きに渡って続いていたと聞いていた。
フレイヤの言い分が真実ならば矛盾点が生じるのだ。
ナタリーアの外見は十代の半ばほど。開戦した時には産まれてもいないはず。
ギリのギリで王太子の現年齢が三十歳くらいならさほど不思議ではない(開戦時に十代で換算して)。
それでも無理があるが・・・・・・、もしやナタリーアの実年齢と外見年齢は一致しないのでは? という考えも頭を過る。
(ウサギ耳が生えているくらいだし、もしかしたら人間種よりも長命なのかもしれないな)
それならば先程の矛盾も解消され、フレイヤの言っていた馬鹿げた開戦動機も真実味を帯びてくる。
しかし今現在ではいくら考えても机上の空論でしかない。
ならば疑問を解消する方法はただ一つ。
とはいえこれは諸刃の剣だ。
言えばたちまち顰蹙を買うであろう。
女性に年を尋ねるのだ。年端もいかない子供が言うならばともかく、この世界では成人している年齢の僕が、だ。
非常に気まずいが、ごめん。好奇心には勝てなかったよ・・・・・・。
「ーーーーー話は変わるけど、ナタリーアって今いくつ?」
自分で言っておいてなんだけど本当にKYだと思うよ。
案の定ナタリーアを含む女性三人から蔑んだ視線を向けられたし、同性であるルーカスからもあちゃ~と愚か者を見るような視線を送られる。
やはりこの世界でも女性に年齢を尋ねるのはタブーのようだ。
けれど、みんなも疑問に思うだろう?
少なくとも僕はそうだ。
非難する三者の視線にも負けじと、僕は再度ナタリーアに年齢を尋ねる。
すると僕の熱量に負けたのか、ナタリーアは渋々といった口調で己の年齢を明かしてくれた。
「・・・・・・五十七歳、です」
「え? あの、よく聞こえなかったからもう一度だけ良い?」
もちろん、ワザとです。はい。
わざわざ聞き返した僕のことを、まるで信じられないというに見つめ返すと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、
「~~~~~~!! だ、だから五十七歳って言ったでしょう!!」
半ばヤケクソで咆哮するように実年齢を二度もカミングアウトするナタリーア。
マジか、五十七歳・・・・・・、僕の母親より年上じゃん。
なるほど、王太子は年上が好きだったのか。
僕がそう一人で納得していると、
「ーーーーーー勘違いしているようだから補足するけど、神聖国人は長命種でナタリーア様の言った五十代は私たちで言うところの十代に相当するのよ」
フレイヤのフォローが入る。
おぉう。
また新たな衝撃事実。
悲報、アルザルシア王国の王太子は年上好きじゃなく、ロリコンだった説が浮上した、という見出しが脳内を駆け巡る。
「そ、そうなんだ。王太子ってヤバイ人物なんじゃ・・・・・・」
「そうね。だって両国が開戦した当時あのバカ王子は十五歳だったはずだから。ナタリーア様はその当時まだ二十七歳。私たちの感覚で言えば五~六歳程度。
無謀な戦を仕掛けてまで双子の皇女様を手に入れたいのかと。
あそこまで女好きを拗らせたのかと当時の王国民の多くが幻滅したそうよ」
悪運が強いのかしらね、不純な動機で本当に大国だった神聖国に勝っちゃうんだから、と吐き捨てるフレイヤ。
確かにその執念には目を見張るものがある。
とはいえやっていること自体は下衆そのものだが。
うん? 待てよ・・・・・・。
そこまで執着している姫様の片割れが奴隷落ちしているのも可笑しい話だよな。
これは何か裏があるんじゃ、と疑問に抱くのはごく自然な流れだ。
気になることは聞いて解決する。
一つずつね、と僕は次に浮かんだ疑問を解消すべくナタリーアへと次なる質問を投げ掛ける。
この質問はある意味、この問題の根幹を為すものだ。
聞けば最後ーーーーーー、どうなるか僕にも分からない。
けれど彼女を助けると誓った以上、その結果どんな陰謀に巻き込まれたとしても覚悟の上だ。
奴隷少女が亡国の皇女様と知った時点で、僕たちの運命は決まったものだ。
悲観するよりも、ほんの少しだけ楽観した方が気が楽というものだ。
僕はナタリーアの話の腰を折ったのを詫びつつ、塔で監禁されていた双子の妹と何故生き別れて、この街で奴隷として売られそうになっていたのかを聞くべく姿勢を正す。
僕だけじゃなく、フレイヤ一家も同じようで。
年齢をバラされてショックを受けていたナタリーアもどうにか気を持ち直し、中断していた会話の続きを語り始めるのだった。
◆あとがき◆
読んでくださりありがとうございます。
少し長くなったので分割して投稿します。
少しでも面白いと思ってくだされば幸いです。
最後に拙作をレビュー、応援、フォローしてくれた皆様に最大限の感謝を。
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