第3話 義妹〜いもうと〜

 桃姫さんが立ち去ってから体感にして二分か三分が経った。が、一向に誰も助けに来ない。

 だが、ダメ元で身をよじると簡単に紐は緩んでくれた。


「あ、あれ? すぐ外れたな。ちゃんと縛ってなかったのか? いや待て。なんだこの紙」


 床に落ちた紐に貼られた一枚のメモ用紙。そこにはこう書いてあった。


〘すぐ解けるようにしてあるよ♪ 助けに来るって言うのは嘘。ごめんね?〙


「んがぁぁぁっ! やられた! くそっ! だけどそんなに怒りが湧かない! なぜだ!?」


 いや、理由はわかってるんだ。それは膝に桃姫さんのお尻の感触が残っているから。まじで柔らかかった。最高。


 ──とまぁ、それはさておき……正体は誰なんだ? 全然わからない。わかってることと言えば、投稿してる写真で見たあの豊満な体だけ。っても制服の上からじゃ判断できないんだよな。せめて髪とか写っていればヒントになるんだけど、首から上は綺麗に編集してあるからわからない。


「う〜ん……」

「何してるの」

「う?」


 メモ用紙をくしゃくしゃに丸めながら一人考えていると、教室の入口から聞き覚え……っていうか毎日聞いてる声がした。振り返って確認するまでも無い。優乃だ。


「こんな時間に教室に一人でいるなんて。なにか変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

「んなわけないだろ。お前こそなにしてたんだよ」

「それなら何をしていたのよ。私は先生に頼まれた用事を済ませていただけよ」

「さすが優等生」

「質問に答えて」

「お前には関係ないだろ?」


 誰にも言うなとは言われてないけど、言わない方がいいだろうな。というか言いたくない。特にコイツには。どうせ馬鹿にされて終わりだ。


「変態」


 前言撤回。何も言わなくても馬鹿にされた。家だけじゃなくて学校でもこの扱いはなんなんだ? まぁいいや。どうせ馬鹿にされるなら俺だって言い返してやる!


「違うわ。告白だよ告白。俺の事が好きなんだってさ」


 うん。嘘は言ってないぞ。さぁ、好きに馬鹿にしやがれ! …………ん? あれ? てっきり爆笑でもされるかと思ったのに反応ないな。


「…………誰よ」

「は?」

「誰? 相手は誰なの?」

「教えるわけないじゃん」

「そう。つまり妄想ってこと。可哀想ね」

「いや〜まったくもってその通り。可哀想なお義兄ちゃんだろ〜? んじゃ、俺は帰るぞ。風呂掃除しないと誰かさんがうるさいからな」

「ま、待って! 本当……なの?」

「さぁね?」

「っ!」


 あ、やべ。めっちゃ睨まれてる。早く帰ろっと。



 ◇◇◇



 そして、睨まれ続けながら夕飯を食べ、その視線から逃げるように風呂に入るとすぐに自室に入って寝た。


 翌朝──


「ねぇ」

「んん……」


 優乃の声が聞こえる。


「ねぇってば」

「……ん〜?」


 あ、そろそろ起きないとまた攻撃されるな。はぁ……。


「起きて? おにいちゃん」


 ………………え、誰?





 ★★★


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