第2話 裏アカ女子に狙われた唇

 椅子に縛り付けられ、教室に射し込む夕陽の熱を背中に受けながら俺は口を開く。


「教えてくれ。なんであのアカウント【瞬間の刹那】の中身が俺だって分かったんだ」

「それはナイショ。それにしてもすごいアカウント名ね。【パン屋のパン】みたい。あ、でも一つだけ教えてあげる。昨日の削除した投稿にリプしたのはキミだけだったわ」


 そうか。あれで同じ高校の奴だっていうのが向こうにも分かったのか。でも何故俺だと特定出来た? ちっ、ダメだ。頭が回らない。なぜなら──


「あふんっ!」

「あら? ここが弱いの? それならもっといじめちゃおうかな♪ さわさわ〜♪」

「いやっ、ちょっ、やめてっ!」


 さっきから脇腹や太ももをソフトタッチで撫でられているからだ。いや、ソフトタッチじゃない。触れるか触れないかのフェザータッチだ。これはいけない。このままでは……ってちょっと待った! 桃姫さんの手がどんどん太ももを登って来てるんですけど!?


「おい待て! 待って! 待ってください!? それ以上はいろいろダメー!」

「はいじゃあここでストップ。さて、高城宗次郎くん。一つクイズね。今からキミの手にあるものを触れさせます。それが何かを当てれたら私の正体を教えてあげる」

「あるもの?」

「そう。それじゃあいくわね……えいっ!」

「っ!」


 こ、これはなんだ? 暖かくて柔らかくて少し手のひらに吸い付くような……まさか!?


「か、解答権は?」

「もちろん一回だけ……んっ! そんなに強く握らないで?」

「んなっ!?」


 おいおいまじか。ホントになのか!? 今まで触ったことないからわからないけどそうなのか!? しかも手のひらに感じるこの突起。直か!? 直になのか!?


「ぐ、ぬぬ……」

「やんっ! そんなにしたら…………溢れちゃう♪」


 あぁぁぁぁ〜!! もう絶対アレじゃん! 確定じゃん! よし、答えるぞ。これで桃姫さんの正体がわかる。口に出すのは少し恥ずかしいけど言うぞ!


「わかったぞ! これはおっぱ──」

「はい残念。ハズレよ」

「んなっ!? ならこれはいったい!」

「お湯を入れた水風船の表面に肌の質感を再現したシートを貼ったものでした〜」

「どこの特殊メイク技術なんですかねぇ!?」


 くそう! 騙された! 俺の期待を返してくれ!


「それじゃあ外したってことで私の正体は秘密。これからキミには私の言う事を聞いてもらうからね? じゃないと……晒しちゃうから」

「ちょっと待ってくれ。この際正体はいいとして、なんで俺が桃姫さんの言う事を聞かなきゃいけないんだ? たまにリプするくらいで荒らしたりとか何もしてないはずだ」

「それはね……」


 桃姫さんはそこまで言うと俺の膝に座って首に手を回してくる。

 目隠しされてる分鋭敏になった感覚が、近付いてくる桃姫さんの熱を感じた。耳元で吐かれる息が俺の顔を更に熱くさせる。

 そして──


「キミの事が大好きだからだよ」

「なっ!」


 そう言って耳にキスをされた。


「キミを呼び出す度に一つずつクイズを出していくね? それに答えられないと、どんどん私からのキスがキミの口に近付いていくから。最後まで正解できないと……」

「で、できないと?」

「顔も知らない女の子に唇、奪われちゃうぞ?」

「そ、それは!」

「ふふっ。それじゃあバイバイ。またね」

「ちょっと待って! せめてこの紐をほどいてくれ!」

「だ〜め。だって追いかけて来ちゃうでしょ? 大丈夫。あと少ししたらキミの友達が教室に来るようにしてあるから、その子に助けて貰ってね? バイバ〜イ♪」

「あ、おい! 待ってくれってば!」


 そう叫んで見ても返事は返ってこない。耳に聞こえるのは遠ざかる桃姫さんの足跡だけだった。




 ★★★



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