地震雷家事空丸


連絡橋を使い各リージョンを経由し、スサノヲ本部にたどり着いた二人。

もちろん、手を繋いだままで。


虎丸は足を止め、グッと腕を引っ張られる。

顔を覗くと不安そうな表情に少し心配になるが、恐らく空丸さんの雷が落ちる事に怯えているのだろう。


虎「そ、そ、空が怖い」


そう答え、彼女は目を逸らした。

本部に帰すのは嫌ではある、欲を言えばもう少し…いや、もう一泊させたかった。

この時間と彼女の反応を堪能したい。


…仮にも彼女は國の部隊に属する副隊長だ。

非番でも無い日に連れ回す訳には行かない。

連れ回しすぎると空丸や滝丸所ではなくトップに君臨する真紅の鬼神の雷を呼びかねない。


自問自答を繰り返すが己に打ち勝ったDinosebは

落雷に怯え引け腰になる虎丸の手を強制的に引き、関係ないと門までズカズカと歩く梟。


すると門前には新緑のような髪を靡かせ、仁王立ちする空丸を視界に捉えた。


虎「い゛ぃぃや゛ぁぁぁあ!!!」


地の底から響く様な断末魔を上げ、進行方向とは逆に逃げようとする虎丸の襟首を掴み魔王の前へと立たせた。


空「これはこれは副隊長殿、Dinoseb殿。昨晩はお楽しみだった様ですね?」


切って貼った様な嘘の笑顔を取り繕ってはいるが、目が笑っていない。

その後ろからもう1人ひょこっと顔を覗かせた。


滝「俺もいるよーん♪」


虎丸の「たたた、滝丸様…たしけて…」


恐怖に打ち震え、消え入りそうな小さな小さな声を絞り出し滝丸へと手を伸ばす。


するとグッと引き寄せられる感覚とともに、頬に熱を感じる。


D「えぇ、昨晩はとても楽しい夜でした。

外泊許可ありがとうございます、お兄さん」


頭にハテナをたくさん抱える虎丸。

状況も理解出来ずにされるがまま。

滝丸に助けを求め伸ばした腕も、行き場を失ってしまい、宙に浮いたまま…


滝「お兄さん?まさか…」


空「ほぉう…?死にてぇみたいだな"血濡れの梟"さんよ。ちなみにまだ俺は認めてないし外泊許可も出したつもりは無い。」


口に手を当て、ニヤケ面する滝丸とは対照的に

青筋を浮かべ力強く握った拳をふるふると震わせる。


空「そもそも外泊許可もなにも一方的に言いたいことだけ言って電話切りやがってうちの副隊長振り回して何様のつもりだ」


D「おや、泊まっていくことはお伝えしていますし僕はてっきり許可して頂いたのかと。

その代わり宣戦布告は受けましたが…

滝丸さんも末永く宜しく、と言ってくださっていましたし」


今にも爆発しそうな空丸を逆撫でし、煽るように一語一句返していくDinoseb。


滝「Dinosebくん、どこまでした〜?」


そんな一触即発のような空気も関係なしに滝丸は質問を投げ掛ける。


D「こんな所まで、ですかね?」


怯えきっている小さなネコ科を腕の中に収め優しく頭を撫でると、「ちゅ」と音を立てて額にキスを落とす。


空「はーなーれーろー💢」


Dinosebと虎丸の間に割って入り、2人を引き剥がす兄1。


滝「まだそこ!?一晩中一緒だったのに!?

ウソでしょ…シてねぇの!?」


驚愕する滝丸の背後から忍び寄る影。


空「…滝丸…?お前も一緒に死にてぇかぁ…?」


ピタ、と滝丸の首筋に護國を当て「鬼の形相」という言葉がしっくり来るような顔つきをしている。


滝「ヒィィイ!空!空!顔怖い!やばいそれ!目ェ血走ってる!!!」


両手を胸の前で「違う違う」と振り青ざめる滝丸。


虎「ジノ、もー僕行かなきゃ。

これ以上空が暴れたら隊長まで来ちゃう」


繋いでいた手を離して、2人の元へ歩き出す


D「ありがとう虎丸、楽しかった」


不器用で、まだ覚えたばかりの笑顔を彼女に向ける。


虎「そう、その笑顔だよ。出来てるじゃん!

…でもまだほかの人にその笑顔しないでね」


「シー」とイタズラ笑顔で口に人差し指を立て「まだちょっと引き攣ってて怖いから」と付け足す。


少し歩み進めてから虎丸は「あっ」と声を上げ

Dinosebの方へ駆け寄る。


虎「忘れ物」


そう言うとDinosebの襟を掴んで顔を引き寄せると

マスクを外され暖かく柔らかいものが触れた。


D「…ッ」


離された唇。

バッと口元を覆い隠し、「な、なにを。」と驚く梟を見ること無く

「さて忘れ物も取り戻した事だし…」と再び離れていく彼女の背中。

今すぐに手を掴んで引き戻して此処から連れ去りたい気持ちを抑える。


空「とらー!会議始まる!早くしろ!」


クルっと踵を返し満面の笑顔で「またねー!」と大きく手を振る子供のように無邪気で小さいネコ科に小さく手を振り返しスサノヲ本部を離れ連絡橋で高速列車を待つ。


来た時と変わらない風景なのに、隣に彼女がいないことがこんなにも風景に違和感があるとは思わなかった。

彼女を抱きしめた時の感覚が蘇り、キュッと締め付けられる感覚に襲われながら到着した高速列車に乗り込み、揺られながらバード協会の支部へと帰る。





~虎~



空「おい不良娘」


会議も終わり、ぞろぞろと会議室を出ていく隊員達に手を振りながら副隊長席にゆったりと座り、飴玉を舐めている「不良娘」と呼ばれる者。


虎「だぁれが不良娘ぢゃ💢」


「不良娘」と呼ばれた事に、あからさまに嫌そうな顔をする虎丸。


空「お前だわ💢

あんな低級傭兵とつるみ始めて怪我は増えるわ外泊するわ、どういう事だ!」


自分よりも年下の副隊長にガミガミと怒り続ける。

怒られている本人は聞く耳を持たず、文字通り耳を塞いでいる。


滝「んま〜虎ももうガキじゃないんだしさぁ。

空もそこらにしといたら〜?」


空「滝、こいつはまだクソガキだろ…こんなちんちくりん!

それと今日の寮の家事当番お前だからな!!!」


「ちんちくりん」呼ばわりされたことや「クソガキ」と言われた事に沸々と虎丸の中に怒りが湧き上がり、虎丸そっちのけで言い合う空丸と滝丸。


すると突然「バァン!!」という音と共に虎丸が立ち上がり声を荒らげた。


虎「外泊したって非番だからいいじゃん!あと別に外泊しちゃいけないって言う規律も無いし!

泊まったところがジノの家だったから空丸は気に食わなかっただけでしょ!?」


普段温厚な虎丸が声を荒らげたことにより、会議室でだべっていた隊員達も驚き、会議室は無音になった。

そっちのけで言い合っていた2人もぽかんと口を開けたまま虎丸の方を見ていた。


虎「もう知らない!空丸しばらく話しかけてこないで!」


ぷりぷりと怒りながら会議室を出ていってしまった。

2人は顔を見合せ、空丸はため息をついた。


空「いや俺は虎丸があの梟に何かされてないかただ心配で…」


俯き気味にそう答える空丸の頬を滝丸は抓りあげた。


空「いででででっなにひゅんらよ!たひまう!」

(痛ててててっ何すんだよ!滝丸!)


滝「あのねぇ。心配しすぎも時には良くないの

ジノくんと虎の"あの距離感"見て何も無いって逆に思うの?でこちゅーしてたし。

見てたかどうか知らないけど最後虎からジノくんにキスしてたの。」


空「…さすがに俺もそこまで鈍感じゃねえから何も無いなんて思ってねえよ。」


滝「諦めな、とは言わないけど虎が大切なら応援するのも俺らの形だとは思う。」


「俺らの形」とは、虎丸を妹のように扱い、兄のように振舞う"家族ごっこ"の事。

双子の兄がいて、それこそ虎丸は知らないが國所属の部隊にいた虎白さん、影虎さん。

オリンピア爆発事故の際に父親も2人も亡くなってしまっていた事。

自分らにも家族がいないからこそ、兄2人の代わりに虎丸に寄り添おうと、この形をとったのだ。


滝「虎を怪我させたからって空がジノくんを嫌いな理由もわかるけど、若くして副隊長の座に着いたからやりたいことも出来なくてそっちの気なんて一切なかった虎がやっと自分の為に動いてる。大人への1歩を踏み出したんだよ。」


空丸を宥めるようにポンポン、と肩を叩き

会議室を出ようと促す。


空「っ…あぁ、悪かった」


心配する兄、と言うよりも一人の男としてDinosebに近付かせたくない空丸の気持ちは知らずに語る滝丸に少し腹立たしい気持ちを抱え


ふと視線を滝丸に移すとそこには普段の飄々とした滝丸ではなく拳を握りしめ唇を強く噛み締めていた。


「あぁ、お前もか」という気持ちとともに

この気持ちをどこまで押し殺すことが出来るのか。


兄のような存在として長年寄り添ってきた事を今更後悔しても遅い。

寧ろ後悔はしていない。1番身近な所で成長や努力を見ていられたのだから。

Dinosebが知らない過去や顔が見ていられたのだから。

それだけでも2人は救われているのではないだろうか。


不思議な四角関係の始まり始まり。


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