プレゼント
虎「またせてごめーんに」
虎丸に店外につまみ出され、暇を持て余し指でピン、と銃弾を弾いてはキャッチするのを繰り返したのも飽きた頃
D「なんなんですか急に…まぁいいですけど。
お目当てのものは買えたんですか?」
ふふふ、と嬉しそうにスキップしながら歩く虎丸の後ろをついて行く。
虎「うん〜買えたです〜♪」
D「そんなにいいもの買えたんですね。それは良かった」
虎「うん!いい買い物した〜!…なんか甘い物食べたいなぁ。」
「あ!」と声を上げると一目散に出店に駆け寄る彼女。
暖簾には「りんご飴」と書かれている。
甘い香りがDinosebの鼻を刺激する。
大中小、様々な大きさのりんご飴が並び、光に照らされてキラキラと宝石のように輝いていた。
赤、黄色、青…色も様々だ。
D「いい香りですね」
虎「ジノちんも食べる?美味しいよ♪」
味を感じられない事は分かっている。
ただ味は分からないだろうが、鼻から抜ける林檎の芳醇で瑞々しい香りは分かるだろうと思い一緒に食べようと提案をする。
D「では僕は大きな赤色のやつを」
虎「おじさん、1番大きな赤色のやつをふたつ下さい!」
「あいよ〜1000円ね」
財布を取り出そう腰のポーチを漁り「ちょっと待ってね」と言ったその時
「まいど〜」という声と共に頬に当たる心地よい冷たさとヒヤッとした感覚。
虎「み゛っ…!!??」
D「…ん。」
虎「何す…っ」
昨日今日とやられっぱなしなのもありついに怒鳴りつけてやろうとDinosebの方へ顔を向けると、視界に広がる真っ赤な色。
それはヒヤッとしたものの正体、大きくて真っ赤なりんご飴だった。
D「手を離したお詫びです。これで我慢していただけますか」
それまで合っていた視線をふいっと逸らし、屋台の老人に金を払う。
虎「えっ、うん…いいけど…ありが…と?」
ズシッと重たく冷たい、キラキラ輝く赤い宝石
大好きな甘味を大事に両手に持ち、「あまーい!おいし♪」と食べながら嬉しそうにまた歩き始める。
虎「ねー、ジノはさー??
味に鈍感だけど、僕と一緒で鼻はいいじゃん?」
D「…?そうですがそれが何か?」
顔を覆う防毒マスクをずらして首にぶら下げ、大きなりんご飴をバリバリと齧りながら歩くDinosebを見るなり眉を顰める。
虎「りんご飴って周りの飴舐めてからりんご齧るんじゃないの…って。そじゃなくて!
食べたものって、よく鼻から香りが抜けるって言うじゃん?
そーゆーので食事とか楽しんでる感じなのかなーって思ってサ」
ふと頭に浮かんだ疑問をそのまま質問する。
D「BESの特性で大量のエネルギーが必要になりますし、特に食事を楽しむというよりはエネルギー補給と言う感じなので、その鼻から抜ける食べ物の味、というものを気にした事はないですね。」
今まで気にしたこともなかったことを突っ込まれ、少し考え込みながら虎丸を目で追う。
虎「ふーん…BES、5thまで使わないでほしーな
アレって、使った反動で凄く痛くて苦しいんでしょ?」
りんご飴に口を着けたまま不安混じりにじーっと凝視され、再び胸に違和感を感じ目を逸らした。
D「それは約束できません。それに、使わなければいけない場面というものに今後必ずぶち当たる。
5thギアに関しては使用制限がありますし、早々使うことは有りませんでしょうが…万が一使うことがあれば使用制限を超過すれば確実な死に至ります。」
この説明は初めて人にする。
まさか初めて説明する相手が虎丸になるなんて思ってもみなかったが…悲しむだろうか?
虎「…そか。何かで上限解放というかリミッターが無くなればいいのに」
予想した反応と真逆な回答に少し驚いた。
てっきり、泣いたり悲しそうな顔をすると思っていたが、案外素っ気なく反応され胸がざわつく。
彼女は黙ったまま歩き続けた。
彼女の人あたりの良さや子供っぽさに目がいってしまいがちだが特務機関スサノヲの副官で、本来僕のような新人傭兵と仲良くするような立場の人ではなく、もっと毅然とした態度でいなければならない人だ。
虎「…まぁ、僕らもさ」
虎丸が沈黙を破り、口を開いた。
虎「僕が國に関わる重要任務の時に
ジノがその任務を妨害する依頼を受けたとして。
僕は辛くても悲しくても國の為にジノと闘わなきゃいけない…
僕を殺すように依頼が来れば君は真正面から僕を殺しに来るだろうね。」
「例え、友達でもそれ以上の関係だとしても國の隊士と傭兵。いつか殺し合う日が来るかもしれない」
とぼそっと呟き、その瞬間くるっとDinosebに向き合うように振り返ると先程の悲しそうな表情などそこにはなく、別人のような笑顔でそう語りかける。
D「そうですね。まぁ…クライアント次第で僕ら傭兵は善人にも悪人にもなりうる職業ですし。
いずれスサノヲと当たる日もあると思いますよ」
虎「その時はさぁ……ん、なんでもねー!」
喉元まで出かけていた言葉を飲み込み、誤魔化すようにDinosebに「にひっ」といつもより少し歪んだ笑顔を向ける。
D「まぁ、それもいずれの話ですし今考えたり話し合っても仕方がないでしょう?
あと、また着いてますよ」
虎「んぅ…?」
近づく手にギュッと身構え、目を瞑る虎丸。
口の端に着いた赤い欠片を指で掬い取ると、ガリッと音を立てて噛み砕く。
虎「あ゛っ!!またそれやるー!!ばっちいって言ったじゃん!バカ雛鳥!!!」
べーとおちょくるように舌を出し、追いかけて来る虎丸をぐんぐん引き離していく。
D「雛鳥とは…僕が雛鳥なら虎丸は子猫ですね?
虎とはよく言ったものです。ただの小さな白と黒の子猫じゃないですか。」
虎「子猫って言うな子猫って!!!立派な毛並み揃ったかっこいいオトナの白虎だわ!!!」
鋭い犬歯を剥き出しにして、走り去るDinosebを威嚇しながらも後を追いかけて行く。
D「ほ〜らほら、そういうところがお子様なんですよ。すーぐ頭に血が上る〜。」
余計に血が上った彼女は、手提げを地面にそっと置くと全速力で追いかけて来る。
虎「だ〜れ〜が〜お子様ですって〜??!」
「俺にとっちゃそれは地雷だぞバカ雛鳥!」と高く跳躍するとDinoseb目掛けて落下して行った。
ドサッと言うと音ともに体に掛かる人1人分の重みと頬を抓られる感覚。
一瞬本気を出した虎丸に油断していたDinosebはあっけなく捕まってしまったのだ。
虎「ほら、もう1回「お子様」言ってみろよ雛鳥〜?
それともビビって声も出ないの〜?鳴いてみろよぴよぴよ〜って。ほらほら♪」
地べたに組み伏せられ、背中に座られただけではなく余裕だと言わんばかりに足まで組まれ屈辱を味わう。
虎「地面の味はどう?美味しい?僕も感じてみたいなぁ地面のあ・じ♡」
組み伏せた梟を恍惚に蕩けた表情で見下ろし、後頭部をつんつんと指でつつき回される。
D「重たい。少し痩せたらどうです?そのうち
さっき食べたりんご飴の様に丸々と大きくなってしまいますよ。」
背中に乗せたまま、腕立て伏せの要領でひょいっと立ち上がると、ころんと地面に虎丸が転がり落ちる。
虎「ありゃ…いてて。意外と力あるよなー。
ヒョロっとしてんのに僕のこと軽々持ち上げるもんね。びっくり」
そう言いながら立ち上がって体勢を整え、腰布に着いた砂埃をパンパンとはたき落とし、乱れた髪をわしゃわしゃと両手で戻す虎丸を見て
毛繕いをする猫のようだ…と見つめながらふと頭に浮かんだ言葉を、そのまま投げかけてみる。
D「…女性なんですし、もう少し身なりに気を遣ってみては?多少の化粧や身だしなみならスサノヲでも許されるでしょう?」
虎「あー、化粧品って高いしさー
灰田ちゃんみたいに実戦向きじゃなくて、バックアップだったり事務仕事なら僕も多少はしたかもしれないけど、任務してると崩れたり直さなきゃ行けないのもめんどくさい」
「やれやれ」と肩を上げ、めんどくさぁいと眉を顰める。
虎「それよりも、ぶっちゃけ出勤直前までゆっくり寝たい。メイクに時間かけたら早く起きなきゃだし」
D「理由が如何にも虎丸っぽいです。まぁそんなことだと思いましたけど」
目の下の赤い三本ラインを指でスっとなぞる。
虎「これはなんか昔資料で見た、ヒノモト時代にあったカブキって言う伝統芸能でクマドリを見た時にかっこいいからイメージして描いて見たんだけど」
手を前に突き出し、「こんな感じで動くんだってー」と言いながら片脚でトントンと真似してみせる。
D「…躓いている様にしか…」
Dinosebの言葉にむっと頬を膨らませて「違うから!」と反論する。
虎「ま、まぁ化粧なんてしないしもーいーの!」
くるっと踵を返し、先程から虎丸が手に持っている2つの紙袋に目がいく。
D「虎丸、その袋はなんですか?」
紙袋を見つめ指を差し、不思議そうに顎に手を当てて首を傾げる。
D「そんなに買い込んだんですか?マグカップ。ひとつで十分なのに」
虎「あ、あー…これは…」
虎『やばいやばいやばいやばい渡すタイミングを伺ってたのに早々に突っ込まれたどうしよう!!!
帰り際に渡したかったんだけど!!!!!!今!?』
サッと持っていた紙袋を背に隠し、ジリジリと引き下がっていく虎丸を観察しながら広がる距離を詰める。
虎「…アノ、コレハデスネ」
緊張と焦りでじわっと手のひらに汗が滲み、片言になりつつある。
虎「気になる?コレ。」
D「そうですね。虎丸がどんなものを選んだのか少し興味はあります」
虎「…うー…よし、ん。コレあげる。」
ふたつ紙袋のうちの一つ、取り出した黒い箱に白いリボンで丁寧に包装されたもの。
D「なんです?これ」
虎「昨日病院連れていってくれたし、今日の朝ごはん作ってくれたでしょ?そのお礼!」
不思議そうに黒い箱を手に取り、眺めるDinoseb。
D「開けていいんですか?」
虎 「…ん。」
シュル…と白いリボンを解こうとした時、リボンに挟まるちいさな紙を見つけ開く。
そこには「いつもありがと!大好き!」と二言だけ書かれていた。
虎「あぁー、待って。帰ってから読んで。
サプライズ!メッセージカードっ !僕が恥ずかしい!」
既に読んだ事を知らない虎丸は慌てて小さなメッセージカードをDinosebのポケットに無理やり突っ込んだ。
D「…も…かもしれません。」
虎「おぉう…?」
ボソッと小さく呟いた声は風にかき消され、虎丸に届くことは無かった。
そのかき消された言葉に首を傾げ、聞き返すが答えてはくれない。
ゴソゴソと箱を開け、中身を取り出すとそこには先程彼女が悩みに悩んでいたマグカップの片割れだった。
虎「ぺ、ペアだけどなんかひとつ残しちゃうのも可哀想だし…この猫ちゃんたちも離れたくないだろって思って…どうせジノの家に置くつもりだし離れ離れにはならないしっ!」
頬と耳を赤く染め、タジタジになりながらもペアのマグカップにした理由を説明する。
D「お揃いですね。ありがとう虎丸。大事にするよ」
虎「お、おう!大事にしろよ!?世にも珍しいスサノヲの副官からのプレゼントだぞ!!」
恥ずかしさから変なテンションになってしまう
D「スサノヲ本部まで送って行きますよ」
緩やかな風が、高揚した肌を優しく撫で過ぎて行く。
肩を並べ虎丸は右手に、Dinosebは左手に紙袋を持って歩く。
虎「おっとと」
ツン、と石ころに躓きバランスを崩す虎を梟が支える。
D「ほんと、そそっかしい」
虎「ごめんごめんw」
笑いながら再度歩き出すと、手をぎゅっと握られる
大きくて暖かい手。
D「こうしていないと虎丸はまた転びそうですから」
虎「仕方ねー、今日くらいは許してやろう」
きゅっと手を握り返し、スサノヲ本部に帰るまでの道のりを進む。
マ「ちょっと心配してあと付けてきたけど…
この様子なら大丈夫そうだな。
…この後ろ姿灰田ちゃんに送っとくかぁ」
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