不眠は身体に良くない。

虎『寝れないね!うん!無理だね!』


結局あの騒動の後、Dinosebは我先にと眠りに落ちてしまい虎丸はこの状況下で眠れずにいた。

もちろん、Dinosebは虎丸の隣ですーすーと寝息を立てて眠っている。


虎『ま…まるふぁす…?起きてるなら返事してくれんかね…ちょっと色々と状況的に良くないから朝まで付き合って欲しいんだけど…』


マ『………………』


反応はない。

いつもならDinosebが眠った時に体を借りて鍛錬やその辺を歩き回ったり、会話したりしているのにこういう時に出て来てくれない。


終わった…。

朝までこの状況でいろと?

神様、僕を殺す気ですか…

…あぁもう!心臓がうるさい!!!

なんなのこれ。もやもやしすぎて気持ち悪い。


周りが静かな空間なのもあり、自分の心音が聞こえドクン、ドクンと脈打つのがはっきりとわかる。

トク、トクと小さく聞こえるのはDinosebの心音。


彼の心音に気を取られているとビュッと隙間風が吹き、部屋の温度を一気に下げた。


虎『うっさむ…ま、まぁ…寒いし…ちょっとくっついてもいいかな…ば、バレなきゃ良いっしょ、うん。』


ちょっと温まったら離れればいいし…そう独り言を呟くとDinosebの腕を枕にして胸にすり寄り目を瞑った。


虎『あったかい…ふふ』


少々恥ずかしがりながらではあるが、Dinosebの温かみを感じながら、ふにゃっと笑みを零す。


拾われてから少しして、慣れてきた頃や訓練校では割とスキンシップは取っていた方。

だがスサノヲに入隊して副官に就任するまでの間、人に触れることをあまりしていなかった為、人の温かみと心地よい心音のせいからかあっという間に睡魔が襲ってきた。


虎『ん…じの…ち…』


ゆっくりと目を閉じ、虎丸も眠りに落ちた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


夢を見た。何故か分からないがとても幸せだと思えるような夢を。

顔は見えないけれど、腰まである白と黒の髪色をした小さな子は恐らく幼少期の僕。

その手を引いていたのは…多分今は亡き父と母、兄だ。

清潔な衣服に身を包み、皆笑っている。

家族とは…なんだったのか…もう僕にはわからない。

十数年経ってしまった今頃夢に出てくるなんて…

ちゃんと弔ってやれなかったな…と思う。

魂はちゃんと黄泉に還れただろうか。


リィンカーネーション…輪廻転生の事だ。


転生輪廻とも言うが…

この世を去った後、黄泉に還った霊魂がこの世に何度も生まれ変わってくることを言うらしい。

オリンピア爆発事件でこの世を去った父も、兄も

僕を産んで…その引き換えに命を落とした母も

下層街区の人々も…今頃輪廻転生をして何処かにいるのだろうか…


そこで記憶はプツンと切れた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


チュンチュン──。


虎『ん…まぶし…』


朝日の光に照らされ、眩しさに起こされる。


D『おはよう虎丸。昨晩は良く眠れましたか?』


虎『んー…まだねむい…』


D『仕方ありませんね。

僕も今日は任務はありませんし、もう少しゆっくりしますか…?』


虎『んぁ〜…ジノちんらぁ…なんれここにいるのぉ…?』


寝ぼけ眼で、美しいスカイブルーの瞳はまだ開ききっておらず、頭がまだ働いていない様子。

おおよそ、夢と現実を混同しているのだろう…。

ふにゃふにゃとした言葉遣いと猫のような甘い声。


D『どうしました…?』


虎『んへへぇ…ジノちん…あったかいにゃ〜…』


そんな寝ぼけている虎丸はDinosebの気も知らずに首に腕を回す。


虎『へへ、ぎゅーーーー…』


首に腕を回され、ぐいっと引き寄せられ体が密着する。


D『…ッ』


虎『夢の中でくらい…こうしたっていいよねぇ…』


夢と現実を混同し、いつもなら恥ずかしいのかギャーギャーと騒ぐのに、今は積極的で子供っぽさと大人っぽさを兼ね備えた雰囲気を纏う彼女に抱かれ、不思議と嫌ではなくされるがままに抱き返した。


すると、フワッと髪を撫でられる感覚が。


虎『…よしよし…今まで1人でよくがんばったね…いいこ…』


まただ。またこの感覚。

心臓が変に高鳴るこの現象。

もしかしたら…これは『不整脈』というものでは…?


D『ちょ…虎丸?』


少し首を浮かせ、彼女の顔を覗き込んだその時


虎『…さみしかったね…もうひとり…じゃないからね』


Dinosebの頭を引き寄せ、額に1度だけキスを落とすと腕の力がゆっくりと抜け、再び寝息を立て始める。


D『…ッなんなんですか…ッ』


こちとら不整脈かもしれないとも知らずに気持ちよさそうにすうすうと寝る彼女の首に顔を埋め、胸の違和感にん゛ー…と唸る。


ぱっと顔を上げると昨晩噛み付いた白い首筋は紅く鬱血し小さな花が咲いている。

少し強く噛みすぎたか…と思うが、やらなきゃ良かったとは後悔しない。


何故かこの赤く咲く花に刀傷や被弾痕とはまた違う、今まで誰も付けられなかったであろう1番近い距離で本人に警戒されずに着けた傷痕に『彼女は自分に気を許している、特務機関スサノヲの副官の致命的な急所に跡を残した』という感覚を覚えたからである。


特務機関スサノヲとは言え、背中に隊章を背負ってはいるが身体に隊章は刻まれていない。

その事にも少し優越感を感じたのだ。


D『この状況、一体どうしたらいいんだ…』


はぁ…と眠る虎丸の上にのしかかったままため息を着くとマルファスが口を開く。


マ『ご主人、前に聞いたけど虎の姐さんといる時だけに起こるその不整脈って言ってたやつ、そうじゃないと思うんだけどさぁ〜』


D『…?どういう事だ?』


マ『前に虎の姐さんと昼寝してる時にキスマーク書かれた時あったろ?』


ほれほれ、この時だよ、と映像を転写する。


D『覚えてる。後で大変なことになったやつだな』


マ『この時ご主人、灰田の腕を掴んで顔近づけたろ??

この時は1ミリたりともバイタルは動かなかったんだよなぁ』


顔を近づけたところで映像を止め、その時のバイタル値も同時に表示する。


D『…で?結局何が言いたいんだ』


マ『このバイタル値は虎の姐さんといる時にしかならないわけで、それはつまり…』


D『つまり?…勿体ぶるな』


マ『…あー、やっぱやめとくわ。

こればっかりは俺が教えるものじゃないと思う。

ご主人自らちゃんと自覚した方がいいと思うぜ』


転写していた映像をパッと消し、こう付け足す。


マ『虎の姐さんだけに反応するんだ、ここまで分かりやすいヒント教えたんだからあとは自分で頑張れよご主人

俺は搭載されてる機能を駆使して色々な情報を持ち合わせてはいるけど

人間の感情まではまだ色々とわかんねぇからよぉ〜』


D『結局なんだったんだ…』


マ『まっ、自分で考えるこったな〜

姐さん寝てる事だし、ご主人も寝たらどうだ?

最近依頼が詰まってて久しぶりの休みなんだろ?』


D『まぁそれはそうなんだけどな…』


マ『そのままだとけが人の姐さん押し潰すだけだぞ。けが人は冷やしたらダメだからな。

冷えないように優しくぎゅーっと尚且つしっかり抱きしめて寝てやれよ〜』


D『???よく分からないが…まぁお前が言うならそうしてみますかね。』


絡んだ腕からスルっと抜けて横に寝そべり

背後から彼女の頭を持ち上げて腕を滑り込ませる。

腰を引き寄せ、体を密着させると髪に顔を埋める。


シャンプーのふわっとしたいい香りが、人一倍嗅覚の優れた鼻を擽る。


D『いい香り…』


白と黒のサラッとしているのにふわふわと柔らかい彼女の髪に埋もれ、酔い始めの様な気持ちのいい感覚に微睡む。


ふいに腰に当てていた手を無意識に握られる。


D『虎丸…この感情を僕に教えてください…

感情を沢山持ち合わせているあなたはこの感情の正体を知っているんでしょう?』


ぎゅっと抱きしめ眠る彼女の耳元で呟くが…届くことの無い言葉。

もちろん虎丸も知らない。

Dinosebは人よりも感情の欠如が激しい。

彼女は天真爛漫で、誰とでも仲が良くて会話することを知っている。

だから胸に抱える感情の正体を知っていると思っているのだ。

虎丸も同じ気持ちだということを知らずに。


確かに今思えば虎丸といる時や見ている時だけに反応する感情。

彼女を思い浮かべれば胸が締め付けられるような…

他人と話していたり、触れていたりすると今すぐにでも邪魔をしたくなってしまったり。

意地悪をすると昔古い本で読んだ海と呼ばれる場所に住む"ふぐ"のように膨らむ頬が面白くてつい意地悪してしまう。

本当にこれは不整脈なのか…と


そう考えている間にも、刻々と時は過ぎ

ぐるぐると頭を回る。


連日の依頼をこなしていたせいで自分が思っていたよりも身体に疲れが溜まっていたせいか、睡魔に襲われ瞼が重く感じる。


マ『ご主人、変に考えても空回りするだけだぜ。

俺には何考えてるかなんて手に取るようにわかるけど、今は眠れる時なんだから体のためにも寝た方がいいぜ。俺が周り見ておくから。

何かあったら直ぐに起こすよ』


D『ん…たのむ…』


そう言いながらも力尽き、眠りにつく。



マ『…ご主人も鈍感だなぁ

気づいてもいいと思うんだけど…まぁ、俺も知識としては知ってるだけで感情まではわかんねえけど。

…これ、灰田喜ぶんじゃねえか…?』


ピピピ…カシャッ


マ『宛先はI.P.E総務部、灰田優に送信…っと』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ピロン♪


灰『はぁぁぁあ〜』

ハ『なんだその変な声。』

蓮『…なに?』

灰『見てよコレ!』


2人に画面に表示された写真を見せる。

そこには気持ちよさそうに梟の腕に抱かれ安心しきったような表情で眠る小さな虎の幸せそうな寝顔。


蓮『…いいと、思う』


コク、と小さく頷く蓮。


ハ『ここまで来てんのに無自覚なんだろ?面白ェ奴ら』


顎髭をなぞる様に撫で、口角を上げるハルカ。


灰『もー…ここまで来たら行っちゃえばいいのに〜もどかしいなぁ〜!!』


画面を見つめ、う゛〜〜っと唸る灰田。

それを見たハルカは口には出さないが、頭ではお前らもだけどな…と思っている。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



マ『ご主人にバレないようにデータ消しとこ。』


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