目覚めとやり返し

虎『んー……くちゅん!』


小さく身動ぎ、くしゃみをする彼女。

普段自分が使っていた毛布を掛けてはいるが少し寒かっただろうか。

自分には感覚というものがあまり無いので、寒さや暑さをあまり感じることは出来ないが

一般の身体的には冷えるだろうか…?


D『おはようございます』


虎丸の視界は真っ暗で

ゴウンゴウン…と機械の動く音と、カタカタとボードを叩く音がする。


虎『さむい…ここどこ…』


D『冷えますか?…ハルファス本艦、僕の自室です。』


虎『ちょっとさむい…そかぁ…』


知らぬ間に掛けていてくれた毛布にくるまりながら寝起きの肌寒さを痛感する。


D『これどうぞ』


虎『んー…?』


バサッという音と共に体にかかる重みと慣れた香り。


D『そんな物しかありませんが。』


コートを脱ぎ、虎丸に掛けると再びディスプレイと向き合う。

珍しく防毒マスクを外しているDinosebを虎丸はベッドからただその背中を見つめるだけ。


虎『あれから寝ちゃったんだ…』


D『えぇ、少し頭を撫でて抱き締めていたただけなんですが随分おつかれの様子だったので』


虎『あ…』


思い出したかのように頬を赤らめ、Dinosebのコートで顔を覆う。


虎『ごめ…みっともない所見せちゃった』


D『何を謝るんですか。

別に僕はなんとも思いませんよ?

ただのメスではなくちゃんとした女の子なんだなーとは思いましたけど』


飲んでいたカップをコトン、と置く。


虎『だからメスって言うな〜。

ていうか体…見たって…』


コートで顔を覆ったまま、チラリと隙間から覗くが、そこにいたはずのDinosebの姿はなかった。


虎『?あれ?』


D『えぇ、見ましたよ?隅々まで全部

胸の谷間にあるホクロも、背中にある大きな刀傷や太ももの内側にある締め跡も見ました。』


いつの間にか自分の視界から外れた彼は、驚く虎丸にねぇ…?と呼び掛けながら胸に指を沿わせ、ここにありますよね?とからかうように不敵な笑みを浮かべる。


虎『悪ノリが過ぎる…ッ』


ある程度…首や腕、手のひらなどは動けるようにはなったが、まだ体はボロボロで思うようには動かせない。

動かそうと思うと全身を電流が流れるように痛み痺れ苦痛を味わうことになる。


D『先程調べてみたんですよ、女の子とはどういうものなのか…

というか本当に虎丸は女の子なのかと気になりまして』


パッ、と体に触れていた指と顔を離し、効果ありませんか…と何かを呟きながら再びディスプレイに向き合う。


虎『え。なんか意外。そんなこと興味あるの?

ってか、僕で検証したろ!今!』


D『えぇ、近くにいい検証対象がいたのでつい。

まぁ効果は全くありませんでしたが…』


この検証はボツですね。とディスプレイからタブをゴミ箱に移動した。


胸の鼓動が早くなる理由などわからず、脳裏にハテナを浮かばせながら


虎『あのねぇ…そんなの検証したって僕はそーゆー事には疎いというか経験が全くと言ってないから分かんないんだよ〜』


と伝えると、鋭い回答が返ってくる。


D『まぁそうでしょうね。』


虎『あ゛?』


Dinosebの言葉に腹を立て、背中を睨み付ける。


D『こんな脳筋の虎丸を扱えるような…釣り合う強さの男が存在していないのでしょうね。』


虎『お前失礼だな!!!確かになんかこう…人間の好きとか嫌いとかはあるけど!れんあい?って言うのは僕もよくわからんのだよーーー』


口を3の字にして頬を丸くする。


D『まぁ、僕にも分かりませんけどね』


虎『人のこと言えねぇじゃんマジムカつくーなんなの、ジノちんのばーか』


D『…。』


Dinosebは顎に手を当て何かを考え込む。

すると何かを思いついたように虎丸の方に足を向ける。


D『こんなのはどうでしょう?』


そっぽを向く虎丸にかかっていた毛布を奪い取り、隣に寝転がってまた毛布をかける。


虎『ヒョ…!』


お、これは効果が期待出来そう…と彼女の反応に頷く。

だが…


虎『あのさぁ…これに関しては昼寝してた時に腹枕したりしてたんだから別になんとも思わんよ…びっくりはしたけ…ど…!?』


もぞ…と動きずらいが虎丸はDinosebの方を向く。


虎『んむ!?』


唇が柔らかく暖かいものに触れた。


虎『〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!!!!????』


D『…随分と積極的ですね。』


声にならない叫び…状況を整理すると

Dinosebの頬に虎丸の唇が触れたのだった。


D『まさか…虎丸から接吻されるとは。』


触れた頬を触りながら、意地悪く虎丸と視線を合わせる。


虎『ちち、ちが、事故…!今のは事故!!』


手を胸の前でぶんぶん振るが、事故とはいえしてしまったことは無かったことにしたいが紛うことなき事実。


マ『虎の姐さん、やるなぁ〜♪』


D『虎丸のバイタル変化はどうですか?マルファス』


マ『体温共に血圧上昇、熱でもあるのか?

うーん…でもご主人も同じなんだよなぁ〜』


D『?僕もですか?』


ハルファスを介してマルファスが記録した2人のバイタルを確認すると、頬に接吻される前と後が2人とも随分と数値が変わっていた。


D『何故でしょう…この気持ちの悪いもやもや?と関係あるのでしょうか』


胸に手を当て、首を傾げる。


虎『あれは事故…あれは事故…あれは本心じゃない…!事故なんだ…!』


ブツブツと念仏のように独り言を呟く彼女の肩に手を掛ける。


D『所で虎丸、明日はなにか予定があるんですか?』


虎『ひょぁっ!!!なななな、ないけどそれがどうかしたの!!!!!!!!?????』


上擦る声で余計に恥ずかしくなり耳まで赤くなり、慣れない体の異常に目の前がぐるぐると揺れる。


D『今日はもう遅いです。

日も暮れてしまいましたし、泊まって行ってください』


マ『ご主人、こう見えて心配してるんだぜ〜?』


虎『えええええお泊まり!?副官が無断外泊はさすがに…!』


無線機を取り出し、急ぎスサノヲ本部へと連絡をしようとするが、Dinosebによって妨害される。


虎『ちょ、何すんの返して?』


虎丸の身長とDinosebの身長は約15cm。

腕を上げてしまえば、虎丸からは届かない。

無線機を取り返そうとぴょんぴょん跳ねる小さな彼女はまるで子供のようで見ているだけでもイジメがいがってDinoseb的には楽しい。


D『こんなのも取れないんですか?

あ〜そうか〜滝丸さん風に言うと"ちび"だからですかね〜?

おっと、僕とした事が配慮が足りなくてすみませんね、届くように踏み台要ります?』


見下しながらの煽り文句。

虎丸にも相当応えるだろうと思ったが、体力が戻っていないせいかその場に膝から崩れる。


D『嘘です。すみません。

空丸さんには僕から連絡しておきました。』


虎『え゛。』


ぐるんっとDinosebの方に視線を移した。


虎『そそそそ、空なんて言ってた!?』


両手を頭に当て、やばい。空に殺される。とブツブツとまた言い始めた。


D『とらに何かしてみろ、その首切り裂いてやるからな、との事でした…あと。

滝丸さんに変わり、とらを今後も末永くよろしく〜っと。』


虎『そら…物騒すぎるんだけど滝の方がマジで意味がわからん』


D『とにかく今日は泊まってください

怪我人…というか…いえ、なんでもないです。

深夜に1人で帰すほど僕は鬼じゃないんでね』


カップにお湯を注ぎながら、僕は優しいので。と付け足す。


虎『分かった…けど、僕1人でも帰れるのに』


D『はぁ…本当にそう思いますか?』


途端に視界…世界がぐるんと回り、ギュッと目を瞑る。

この一瞬で何が起こったのか分からず、目を開くとDinosebに両腕を押さえつけられ、馬乗りになられていた。


D『甘いですね。男女だと圧倒的に男の方が生物学上的に力が強いんです。

普段の虎丸なら僕が力負けていたかもしれませんが、今虎丸は並の女性と同レベルですしこんな状態にされても1人で帰れると?』


鼻先同士が当たる程の距離まで顔を詰められ、目を逸らしたくても逸らせない。

今動かしてしまうと今度は頬ではなく唇に触れてしまう。

いやでも逸らせない状況に簡単に陥れられてしまった。


虎『ななな、さっきからなんなのジノちん今日怖いんだけど!?』


D『知らない感情の検証中です。

この胸らへんの気持ち悪い感覚を早々に拭いたいもので』


ふっ…と吐息が唇に触れる。

背筋がゾクッと震え、鳥肌が立つ。


虎『…はっ…はなれてぇ…』


体温、血圧の上昇により呼吸が荒くなる。


D『辛いですか?』


目の前に組み伏せられている小さな虎の反応に加虐心が刺激され、自然と口角が上がる。


虎『ね…ほんとに恥ずかしい…ちかい…っ』


D『イイ顔しますね、唆られます』


覆い被さったまま、耳元でそう言うと息を吹きかける。


虎『っん』


ビクッと体を竦める。


D『耳弱いんですね』


虎『自分のどこが弱い…っなんて経験ないんだからぁ…分かるわけないじゃ…んっ』


低いDinosebの声が虎丸の耳腔を震わせ、女性の中でも低めな声が段々と甘く、高く響いていく。


分からない、知らない感情。

こんな事をして何になるのか分からないが

目の前にいる小さな虎の普段見せない反応に面白みを感じ、段々とエスカレートしていく。

Dinosebにもこういうことの知識としてはあるが、経験としては何もかもが皆無である。


虎丸には全く知識がないのであろうと踏み、それをいい事にイタズラを…

やりたい放題のボーナスチャンス。

今まで振り回された分のお返しと言っても過言ではない。


D『苦しいですか?虎丸』


手を固定されたままなので抵抗虚しく振り解けずに肩を上下させている。

真っ赤に染まった顔と潤んだ瞳が余計に加虐心を煽る。


D『随分と呼吸が乱れてますね。

このまま触れてしまったらどうなってしまうんでしょうか?』


虎『やぁ…だっ怒るよ…!』


虎丸の首筋に顔を埋め、Dinosebの柔らかい髪がふわっと顔を擽る。


D『怒れるんですかねぇこの状況で…』


生温い、何かが首に這う濡れた感覚。

途端に鋭い痛みが走る。


虎『いったぁ…!?』


首筋に噛み付かれ、痛みに顔を歪める。


虎『いたい…痛いよジノぉ…っ』


Dinosebの服をぎゅっと掴み、痛みに耐える。


D『…っは…噛み付いてますから、痛いのは当たり前でしょ』


首筋から離れ、口を拭うとそのまま虎丸の唇に噛み付いた。


虎『…ん…っ!?』


D『今日まで振り回してきたお返しです

…違いますね、先程僕の頬に接吻をしたお返しでしょうか?

女の子という生き物は、自分がした事にお返しを望むと記載されていたので』



べー、と舌を出し虎丸が普段Dinosebにする顔を真似して見せ、虎丸の隣に寝そべった。


虎『やり返しとはいえ度が過ぎる…ほんとに…ばかぁぁぁぁ』


D『まぁ今日ももう遅いですし、寝ましょう。

流石の僕も今日は疲れました。

お子様の癇癪とお守りに付き合ったんでね』


マ『これはさすがに灰田に送れねえな…ご主人の今後が心配になる。映像だけ残して黙っとこ』


2人の激しいバイタル変化を残し、マルファスは録画を止めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


如何でしたでしょうか〜

よく分からない感情に振り回される2人。

前回に続き甘々な感じですねぇ。

本能のままに書き進めてますが、僕の中のDinosebは割と人が躊躇うような事を感情の欠如により恥ずかしげな事を、相手の感情関係なし、何の気なしにやる人だと思ってます()


本人は虎丸の反応に呼応する己の感覚が何か分かっておらず…

さて、Dinosebの胸のもやもやは何なのでしょうか♪

今回はDinosebサイドで書き進めましたが、次回は虎丸サイドで書き進めたいと思います〜!(2021/2/12)


って思ってたら書けなかったね、寝てただけだね

(7話公開、2021/2/13)


脳内ピンクなのも問題ですね(๑>؂•̀๑)テヘペロ

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