No.62:「浩介君が取られちゃう…」
そんな雪奈は、学校でも評判になった。
ただでさえ、可憐 + 可愛い + 美しい だったのが、これに「色気」が加わった。
もう前を歩くだけで、バタバタと倒れる男子生徒が続出した。
「雪姫に彼氏ができたのか?」
「あの地味な男か?」
「いや、それはありえないだろう」
「勉強を教えてもらってるだけって聞いたぞ」
と、そんな話が広まり始めた。
ところが雪奈は、これが気に入らなかったようだ。
「みんな浩介くんの魅力がわかってない!」
そう言うと、腰に手を当てて、
「浩介君の魅力アピールキャンペーンを実施します!」
そう高らかに宣言した。
俺は面倒くせーなと思った。
しかし雪奈の頼みである。
とりあえず手始めに、前髪を上げてセットして学校に来て欲しいとお願いされた。
翌日、俺は前髪を上げてワックスでセットし、雪奈と一緒に登校する。
確かに周りの反応は違った。
「雪姫の隣にいるやつ、誰だ?」
「イケメンだな」
「名前が……大川だったか?」
「でも確か新入生代表の挨拶をしてたような気が……」
「え? てことは特待生かよ?」
それにしても見た目を変えるだけで、こんなに違うものなのか?
ちなみに隣の雪奈は、ニコニコ上機嫌である。
ところが3日後。
雪奈はしょんぼりしながら「やっぱり髪型を、また元に戻してほしい」と言ってきた。
理由を聞くと、反応が変わったのは男子生徒だけじゃなかったそうだ。
「桜庭さんの隣の彼、カッコよくない?」
「イケメンだよね。超タイプ」
「確かね、大山くんだよ。特待生だって!」
「マジで? 将来超有望じゃん!」
「勉強教えてもらえないかな」
「ミキ、あなた同じクラスでしょ?」
「そうなの! 頼んでみようかな……」
こんな感じの会話が、あちこちで聞かれるようになったとか。
「浩介君が取られちゃう……」
「大丈夫だ。俺は雪奈一筋だからな」
涙目の雪奈の頭を、ゆっくり撫でてやる。
悲しげな表情が、溶けるような笑顔に変わった。
言ってやらなきゃな。
俺は雪奈が思っている以上に、雪奈のことが好きなんだよ。
それから雪奈は、俺の家にときどき遊びに来るようになった。
週末には雪奈は自分の家で作ったものを、大きな容器に入れて持参してきてくれる。
唐揚げ、ビーフシチュー、筑前煮などを大量に持ってきてくれるのだ。
俺に母親がいないことを気にかけてくれているのだろう。
「食生活は大事だからね」それが雪奈の最近の口癖だ。
それを俺とオヤジで2-3日かけて、ありがたくいただいている。
たまに雪奈も交えて食事をする。
本当にありがたい。
なんだか家族がもう一人増えたみたいだ。
さすがにその頃になると、まわりでは俺と雪奈が付き合っているとの認識が定着し始めた。
「雪姫だ。今日も大山浩介と一緒にいるぞ」
「大山浩介、許さん!」
「大山浩介、羨ましすぎる!」
「大山浩介、マンホールに落ちろ!」
「大山浩介、巨人に食われてしまえ!」
フルネーム認識率が100%になった。
付き合ってから1ヶ月経った。
「俺は雪奈の家に挨拶に行かなくていいのか?」
「お父さんもお母さんも1回連れてきなさいって言ってるんだけど、予定が全然合わなくて……」
聞けば雪奈のお父さんは、医薬品メーカー勤務のサラリーマン。
ところが今、プロジェクトの真っ最中で土日もよく出勤しているらしい。
お母さんは看護師で、どこかの病院の看護室長をしていてお休みが不定期なんだとか。
「妹も『お姉ちゃんの彼氏見たい!』ってすっごく楽しみにしてるんだけどね。予定がわかったら、また教えるから待っててね」
そういえば雪奈には、妹がいるんだっけか。
可愛い妹さんだろうな。
あるいは雪奈の中学校時代のような、地味な感じなのか?
今度写真を見せてもらおう。
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