No.61:「おっぱい大っきい?」


 俺達がつき合いだして喜んでいる人間が、なぜかもう一人いた。

 俺のオヤジだ。


 あのクリスマスデートの翌朝、俺が朝食の準備をしているとオヤジが言ってきた。


「昨日、彼女とデートだったんだろ?」


 無言を肯定と受け取ったオヤジは、「え、何? 例の花火大会の彼女?」やったー、よかったなーと、何故かガッツポーズして喜んでいた。


 自分の彼女じゃないだろ?

 別に放っといてほしい。


「それでそれで? どんな娘? かわいい? 身長は? 性格は? おっぱい大っきい?」


 俺はレンジでチンしたてのサト◯のごはんのフィルムを剥がして、ヤツの顔面に向かって思いっきりブン投げた。


「あっつ! あっつい!」


 オヤジは悶絶していた。

 よい子のみんなはマネしないように。とても危険だ。


 それからというもの、オヤジは毎日顔を合わすたびに彼女を連れて来い、連れて来いとしつこく言い寄ってくるようになった。


 オヤジがうるさくて困る。

 そんな話を雪奈にすると、「私も浩介くんのお父さんにご挨拶したい」と雪奈の方から言ってきた。

 ちょっと意外だった。


 元旦には俺たち5人は近くの神社へ初詣に行った。

 今回はひなも参加して、5人揃った。

 ひなは俺に「雪奈を泣かすようなことをしたら、ゆるさないからね!」と釘を差した。

 そしてすぐに「まあそんなこともないだろうけどね」と笑って言ってきた。

 こいつ、やっぱりいいやつだ。


 二日後の1月3日。

 オヤジの仕事始めの前日に、雪奈が家へ遊びに来た。

 オヤジのはしゃぎっぷりといったら、見ていた俺が恥ずかしかった。


 その日は何かデリバリーでも取ろうと話をしていたが、

「簡単なものでよかったら作らせて」

 という雪奈の言葉に甘えることにした。


 雪奈は家から煮込みハンバーグを作って持ってきてくれた。

 そして俺の家で、カルボナーラスパゲッティと海藻サラダを作った。

 言うまでもなく、どれも絶品だった。


 オヤジはビールを飲みながら、

「いつでもお嫁に来てもらっていいからね!」

 と上機嫌だった。

 雪奈は顔を真赤にして下を向き、小さな声で「……はい」と答えていた。

 後ろから抱きしめてやりたかった。


 新学期が始まると、俺達は朝一緒に学校行くようになった。

 毎朝電車の同じ車両に乗り合わせ、駅から学校まで一緒に歩く。

 帰りも特別な予定がない限り、一緒に帰るようになった。


 雪奈は変わった。

 どう変わったか。

 なんというか……俺との距離を、極端に縮めるようになった。


 まわりにウチの学校の生徒がいても、見えない角度で俺の手に指をからめたりとか、服をつまんだりしてくる。

 そしてウチの生徒がいなくなると、すぐに手をつないだり腕を組んだりしてくる。

 それもがっつり俺の腕をとるので、もう胸の感触がハンパない。

 ひなとはまた違って、ふわっふわなのだ。


 他にも向かい合わせで立つと、おでこを俺の胸につけてきたりする。

 声が聞き取りにくくて俺が顔を近づけると、トロンとした目で俺を見上げて、まばたきがゆっくりになるとか……。

 もう、どこでそんなテクニック覚えてくるの?と思うぐらい、俺のHPを削りにかかってくる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る