No.57:「ちょっと色がカブったけどな」


 店員さんが出て行ってからも、雪奈は固まったままだ。

 目は完全に涙目になっている。


「お誕生日、知っててくれたんだ」


「ごめん、実は知らなかった。おととい慎吾から聞いたばかりなんだ」


 慎吾から話を聞いて、俺は急いでお店に連絡した。

 そしてコースの最後に、誕生日ケーキを出してもらえないか相談した。

 お店側もこういったリクエストはよくあるらしくて、気軽に応じてくれた。

 もちろん、その分追加料金がかかるが。


「もう、最後にこういうサプライズとか……本当にこういうところなんだからね!」


 なぜか若干キレ気味の雪奈。

 でも本当に嬉しそうだ。


「とりあえず食べようぜ」


「うん! 本当にありがとう、浩介君」


 俺たちはケーキを食べ始めた。

「んー、おいしー」

 雪奈は幸せそうだ。

 甘いものは、女性を幸せにする。

 この世の真理らしい。


 お互いのケーキを、少しずつ取り合った。

「あーん、しようか?」といたずらっぽく笑う雪奈に、「遠慮しとく」と俺は返した。

 どちらのケーキも、美味しかった。


 二人ともケーキを食べ終えた。

 俺はコーヒーを飲んで、ケーキの甘さを流し込んだ。



「じゃあ、これは俺から、ということで。ちょっと色がカブったけどな」


 俺は雪奈へのプレゼントを差し出した。


 淡い、ミルキーなエメラルドグリーンの小箱。

 そのブランドの名前を冠して、ティファニーブルーと呼ばれているらしい。

 箱には白くて可愛いリボンがかかってる。


 雪奈の目が、今日一番大きく見開いた。

 箱を一旦手にとったが、すぐに俺の方に返そうとする。


「こ、こんな高いもの、受け取れないよ!」


 やっぱりこのブランド、雪奈も知ってたんだな。


「そのブランドは確かに高いものが多いけど、その中に入ってるのは、高校生が頑張ってバイトすれば手が届くぐらいのものなんだ」


 だから貰って欲しい。


「それに雪奈の場合、いつも誕生日とクリスマスでプレゼントが一つなんじゃないか? だったら2回分のプレゼントの合計って考えたら、そんなに驚くほどじゃないと思う」


 ………………………………………………………………


 俺はおととい慎吾と別れた後、電車に乗って帰ろうとした。

 改札に向かって歩いている時、駅ビルの中にある百貨店の1階部分が何故か目に入った。

 そこには壁一面が、例の色で塗られていた店舗があった。


 俺は足を止めた。

 興味本位で、ビルの中へ入った。

 どうやら貴金属店のようだ。

 外からディスプレイを見る。

 ほぼ全てが、6桁の金額。

 中には7桁の金額のものも。

 とてもじゃないが、予算外だ。


 店舗の中を覗く。

 クリスマス前だからだろう。

 たくさんのお客さんで賑わっていた。


 なかには大学生っぽい、若いお客さんもいた。

 もしかしたら、手頃な値段で買えるものもあるかもしれない。

 そう思って俺は店舗の中に入った。

 他にもお客さんがたくさんいたので、入りやすかった。


 若いお客さんがたくさんいるエリアを覗いてみた。

 ピアスやイヤリングなどのアクセサリーが置いてある。

 なるほど、これなら値段が手頃なのかもしれない。


 その中で、ひとつ俺の目をひいた商品があった。

 可愛いらしいブレスレットだ。


 シルバーチェーンのブレスレット。

 それを腕につけている雪奈を想像する。

 嬉しそうな笑顔でブレスレットをつけている俺の想像の中の雪奈は、きらきらと輝いていた。

 清楚で可憐で……どうしようもなく可愛かった。


 もう他のプレゼントが、まったく考えられなくなってしまった。

 それくらい、俺は気に入った。

 ブレスレットの値段は2万3千円ぐらい。

 たしかに高いかもしれない。

 でも少し背伸びをした高校生の2回分のプレゼントと考えれば、ありじゃないかなと思った。


 結局俺はそれを購入することにした。

 ティファニーブルーの箱も白いリボンも可愛くて、雪奈によく似合うと思った。

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