No.55:クリスマスイブ当日


 そしてクリスマスイブ当日。

 今日は朝からめちゃくちゃ寒い。

 20年来の寒波来襲らしい。

 天気予報では今夜は雪かもしれない、と言っていた。

 ダウンジャケット買っといてよかった。


 俺は夕方雪奈と待ち合わせをすることにした。

 Limeで、「先にレストランで食事をしないか?」と伝えておいた。

 雪奈は思いのほか喜んでくれて、「やったー!」とひよこがジャンプしているスタンプを送ってきた。

 よく予約が取れたね、と驚いていた。

 竜泉寺と慎吾には、本当に感謝だな。


 待ち合わせ場所は、雪奈の家の最寄り駅。

 雪奈は最初、駅前大通りで待ち合わせしようと言っていた。

 だかそれだと間違いなくナンパホイホイと化してしまう。

 できるだけ最初の段階で捕まえておいた方がいい。


 改札口で待っていると、雪奈はやってきた。

 俺を見つけると、少し小走りに駆け寄ってきた。


「おまたせ!」


 今日の雪奈は、赤のショートコートを羽織っていた。

 黒のミニスカートに白のセーター。

 生足は寒いのか、白いラメの入ったストッキングだ。

 綺麗な形の足元が、キラキラと輝いている。

 首にはグリーン系のマフラーを巻いている。


「服装もクリスマス仕様だな。もの凄く似合ってる」


「本当? ありがとう。浩介君も赤のダウンで、色がおそろいだね! あ、それに髪切った? すごくカッコいいよ」


 俺はおととい慎吾にコーディネートしてもらったものを、そのまま着ている。

 雪奈は如才なく、髪型をほめてくれた。


 俺たちは電車で移動した。

 電車の中は少し混んでいて、やはりカップルが多かった。

 俺たちも、周りからはそう見えるのか。


 電車降りて、改札を抜ける。

 駅前大通りを見下ろすと、すでにイルミネーションは始まっていた。

 まだ空は、ほんのり明るいままだ。

 それでもこれだけ綺麗なのだから、暗くなったらもっと綺麗だろう。


「楽しみは後に取っとこうね」


 雪奈は笑って言った。

 俺たちはできるだけ電飾を目に入れないように、レストランへ向かった。

 まあそれも、なかなか難しかったが。


 リストランテ・ヴォーノ。

 俺たちは時間より少し早めに到着した。

 予約を伝えると、店員さんが中へ案内してくれた。


 驚いたのは、予約した席が個室だったことだ。

 二人用のちょっと狭めだが、落ち着いた空間だ。

 この店には、こういった個室がいくつかあるようだ。


 ただし狭い分だけ、ふたりの距離も近くなる。

 俺は少し緊張し始めた。


「すっごく素敵!」

 雪奈は喜んでいる。


「私、こういうレストランで、個室の席って初めてだよ」


「俺もだ。竜泉寺に感謝しないとな」


 竜泉寺と慎吾がここを予約してくれたことは、あらかじめ雪奈には伝えてある。

 雪奈もびっくりしていた。


 メニューはクリスマス特別メニューのみ。

 5,500円のコースと3,500円のコースの2種類。

 高い方のコースはメインが2種類で、デザートも豪華らしい。


 俺は3,500円のコースを既にお願いしてある。

 しかも「学生応援」と銘打って、学生証を提示すれば500円引いてくれるらしい。

 ありがたいサービスだ。

 ただし時間が90分の入れ替え制となっている。

 それでも十分な時間だ。


 メニューはワンドリンクにスープとサラダ。

 小さめのフライドチキンにメイン料理が一つ。

 最後にドルチェとコーヒーか紅茶がついてくる。


 俺たちはノンアルコールのシャンパンを頼んで、乾杯した。

 スープとサラダを食べながら、いろんな話をした。


「あの時、本当に嬉しかったんだよ」


「逃げ込んだ先が、交番だったのにか? それに突然手を握られて、キモかっただろ?」


「全然! そうじゃなくって、その……男の子に手を握られたことなんかなかったから、なんだかボーっとしちゃって」


「そうだったのか?」


「うん。それでどうしても、もう一度会ってお礼が言いたくて、次の週末ひなと葵に手伝ってもらって、この辺りうろうろして探してたんだ」


「そういえばひなが、そんなこと言ってたな」


「うん。でも実は同じ学校だったなんて、本当にびっくりだよ」


「俺も驚いた」


 話をしている間に、フライドチキンとメイン料理が出てきた。

 メインは、パスタ・ラザニア・リゾットの中から選ぶ。

 雪奈はサーモンのクリームパスタ、俺はラザニアを選んだ。


 小分け用の取り皿を、あらかじめ持ってきてくれた。

 このあたりのサービスも嬉しい。

 お互いのメイン料理を少し取り分けて交換した。

 どの料理も、本当に美味しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る