No.54:「これってやっぱりデートになるのか?」


 翌日の朝10時。

 俺は慎吾と駅前大通りにある時計台の前で、待ち合わせをした。


 慎吾に最初に連れて行かれた所は、美容院だ。

 予約を入れてくれたらしい。


「とりあえず、桜庭さんの隣にいても遜色ないレベルに仕上げておかないとね」

 慎吾はそう言ったが、そこまで必要があるのだろうか。


 奥から雰囲気イケメンの美容師さんが出てきた。

 慎吾がいつもお願いしている美容師さんらしい。

 おまかせでお願いした。

 サイドを少し短めにして、いい感じに仕上げてもらった。

 最後にワックスのつけ方も教えてくれた。


「次は服を買いに行くよ」

 慎吾はそう言った。


「黒デニムとスニーカー持ってたよね? とりあえず下はそれでいいや。トップスは……無難にいこうか。シャツとパーカーで合わせよう」


「あと寒くなってきたから、ダウンジャケットを買いたいんだが」


「いーねー。じゃあそれも色を合わせて考えようか」


 店を2件回って、チェックのシャツ、白のパーカー、赤のダウンジャケットを購入した。

 美容院も含めて、2万円弱の出費。

 それでも一部はクリスマスバーゲンで買うことができたので、良しとしよう。


「色々とお金がかかるんだな」


 俺たちは駅前大通を歩いて移動していた。

 これが夜になると、イルミネーションで綺麗になるということか。


「そりゃ浩介、初デートでしょ? しかも相手はあの雪姫だからね。それくらいは覚悟しないとだよ」


「これってやっぱりデートになるのか?」


「その状況で、デートじゃないって言う方に無理があると思うよ」

 慎吾は笑った。


 そんなもんなのか?

 雪奈とデートか……なんだか俺も少し緊張してきた。


「そうそう、それからここ」

 慎吾はあるお店の前で立ち止まった。


「リストランテ・ヴォーノ」と書いてある。


「24日の夕方6時、2名で予約とってあるから」


「は? 予約? 誰の?」


「浩介と桜庭さんに、決まってんじゃん」

 慎吾は呆れ気味に言った。


「クリスマスイブの日なんて、ご飯どきは何処も満席で予約無しじゃ入れないよ。だから予約しておいた。6時から食事をして、そのあとゆっくりイルミネーションを見に行けばいいんじゃないかな」


「……慎吾」


「ん? なにかな?」


「お前、モテるだろう」


「なに言ってんの。これくらい普通だよ」

 慎吾はケラケラと笑った。


 まったくこのイケメンには、かなわないな。


「なーんて僕も偉そうなこと言ってるけどさー。種明かしをするとね、実はこのレストラン、竜泉寺グループのお店なんだよ」


「竜泉寺の?」


「そう。だから葵ちゃんからちょっと無理にお願いして、予約を取ってもらったんだ」


 なるほど、そういうことか。

 確かに竜泉寺グループの社長令嬢からのお願いだと、断りにくいよな。

 それは逆にお店に申し訳ないことをした。


「竜泉寺に、今度なにかお礼をするよ」


「うーん、多分いいんじゃないかな。テストの予想問題で、葵ちゃんは浩介にすごく感謝してたしね」


 そうか……じゃあまた続けないといけないな。


「慎吾たちも、イブの日はデートするのか?」


「え? あ、ああ。レストランで食事をする予定だよ」


「やっぱり予約してるんだな」


「うん。まあそうだね」


 なんだか歯切れが悪いな。


「ところで浩介、何かクリスマスプレゼント用意した?」

 慎吾が話題を変える。


 実は俺もそれを考えていた。


「やっぱりあった方がいいよな?」


「絶対にあった方がいいよ。そんなに高いものじゃなくていいから」


「どんな物がいいと思う?」


「うーん、浩介が選んだものだったら何でもいいと思うんだけど……。せっかくのクリスマスだし、アクセサリー類とかだったら喜ぶんじゃないかな」


「そりゃまたハードルが高いな」

 雪奈にアクセサリーか……何を選べばいいんだろう。

 未知の世界だ。


「それより浩介、その日は何の日だか、知ってるよね?」


「ん? クリスマスイブのことか?」


「そう。他には?」


「他?」


「本当に知らない?」


「?」


 首をひねる俺の前で、慎吾はハァーっと大きなため息をついた。


 ………………………………………………………………


 俺たちは駅で別れることにした。


「最後に一応、彼女持ちからのアドバイスね」

 慎吾はニタニタと笑っている。


「少しは自分の気持ちに素直になったほうがいいよ、浩介」


 慎吾は一歩だけ、俺との間合いを詰める。


「頭で考えるんじゃなくってさ、ここで考えて」


 そう言って俺の左胸を、ポンっと拳で軽く叩いた。


 そんじゃあデート楽しんでねー、と言いながらイケメンは去っていった。


「自分の気持ちに素直に……か」


 その言葉に少なからず思い当たることがある俺は、少し大きめのため息を吐くことしかできなかった。

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