No.53:「これはどう考えるべきなんだ?」


 俺は教室で、雪奈と二人っきりになった。


「こ、浩介君」


「ん? どうした?」


「えっと、あ、あのね……」


 思いっきり目が泳いでいる。なんだか雪奈の緊張が伝わってくるようだ。


「えっと、24日の夜って……時間あるかなって……」


「24日? 3日後だよな。特に予定はないぞ」


「ほんとに?! じゃ、じゃあ一緒に行きたいところがあるんだけど……」


「いいぞ。どこに行くんだ?」


「あのね! 駅前大通りでイルミネーションやってるの! それでね! イブは特に綺麗になるんだって!」


 なぜか雪奈は興奮気味だ。

 まずい、これはバグる前兆だ。


「お、落ち着け雪奈。分かった。一緒に行くから」


「本当? やったー!」


 雪奈は嬉しそうに、ぴょんぴょんと小さくジャンプした。

 雪奈の胸がゆっさゆっさと上下に揺れる。

 揺れが大きい。

 マグニチュード8.5ぐらいか?

 プールへ行った時の映像が蘇った。


「え、駅前大通りって、例の交番のある通りだよな?」

 俺は煩悩を振り払うべく、雪奈に問いかける。


「そう、あの交番のある通りだよ」

 雪奈はニコニコ顔で答えた。


 この街一番の繁華街、駅前大通り。

 以前俺が雪奈と一緒に駆け込んだ交番も、その大通りにある。

 その大通りのクリスマスイルミネーションは、このあたりでは有名だ。

 数年前から始まったクリスマスイベントで、この地区では最大規模のイルミネーションだ。

 毎年この時期、あの大通り周辺は買い物客と合わせてすごい賑わいとなる。


「えーっと、俺と雪奈の二人で行くのか?」


「えっ? そ、そうだけど……ダメかな……?」

 雪奈の声が急に小さくなった。

 顔も紅潮して、また緊張が伝わってきた。


「もちろんいいぞ。二人で行こう」

 何度も言うが上目遣いの雪姫に対しては、「No」というコマンドは表示すらされない。


「本当? うん、ありがとう。楽しみにしてる!」

 ふわりと柔らかく笑う雪奈。

 天使降臨の瞬間だ。

 可愛いすぎる。


「えっと。そ、それじゃあ、私帰るね」

 急にまた緊張した表情に戻った雪奈。

 本当にどうしたんだ?


「? 一緒に帰らないのか?」


「う、うん。なんだか浩介君の顔、見られないや……」


「何だって?」


「なんでもない! またLimeで連絡するね。それじゃあ!」


 バイバイっと可愛く手を振って、いそいそと雪奈は教室を出ていった。

 一人教室に取り残された俺は、しばらく呆然と立ち尽くしていた。


 ………………………………………………………………


「これはどう考えるべきなんだ?」


 学校からの帰り道、歩きながら俺は独りごちる。


 12月24日といえば、世間一般ではクリスマスイブといわれている日だ。


 そのクリスマスイブに。

 イルミネーションを。

 二人きりで見に行く。


 これは世間一般でいう、「デート」とか「イベント」とか言われている行事ではないだろうか。

 それとも雪奈は、単にイルミネーションを見に行きたいだけなのか。

 俺は判断がつかなかった。


「気が進まないが、ここは俺より経験豊富なヤツの意見を聞こう」


 スマホを取り出し、Limeにメッセージを入力する。


 浩介:雪奈に24日、クリスマスイルミに誘われた。二人きりだ。どう捉えればいい?


 送信ボタンをタップしてから7秒後。

 音声通話がかかってきた。


「もしもし?」


「浩介、遅いよー! どんだけ待たせるの?」

 茶髪イケメンの声は弾んでいる。


「待たせる? 慎吾は何か待ってたのか?」


「あー、もういーよ。浩介、明日ヒマだよね」


「断定されるのもアレだが……ヒマといえばヒマだ」


「明日一日、僕につき合うこと。拒否権はないからね!」


 慎吾はそう言うと、一方的に待ち合わせ場所と時間を指定してきた。

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