No.52:「言うの? 自分から」


 12月に入ると、街はもうすっかり冬支度である。

 イベントも目白押しだ。

 冬休みにクリスマス。

 それが終わればお正月だ。


 そういえば、この時期はカップルになる生徒が多いらしい。

 やっぱりクリスマスを一緒に過ごしたい、ってことか?


 とりあえずイベントの前に、俺たちにはやらなきゃいけないことがある。



「期末テストかぁー」

 慎吾のため息混じりの声が聞こえる。


「だから日頃から、予習復習すればいいだけやんか」


「ねーねーコースケ、また予想問題作ってね」


「しょーがねーな」


「浩介君、またお弁当作った方がいいかな?」


「あ、いや。今回は大丈夫だ。気にしないでくれ」


 例によって5人でお昼休みに集まって、昼食をとっている。

 話題は来週から始まる期末テストだ。


 俺は大丈夫にしても、慎吾とひなはかなり必死だ。

 というのも、もし赤点を取った場合、冬休みに補習があるからだ。

 冬休みにまで学校に来たくない、ということらしい。

 まあそれはそうだろう、


 雪奈と竜泉寺も、今回はすこし危機感が強い。

 やはり高2のこの時期は、全ての教科でレベルが上がってくる。

 理解度を深めるのにも、結構大変になってくるからだ。


「予想問題はもうほとんど出来ている。慎吾、Limeで送るからまたプリントしてきてくれるか?」


「了解!」


「ほんま助かるわ。あれのお陰で、うち自分の弱いところとかようわかるし」


「うん、本当にそうだよね。本番の時、パターンがわかってくるっていう感じがする」


「ひなも、今度はもう少し頑張って勉強してみるよ」


「ひなは、いつももっと頑張れよ」


 そんな仲間との会話が、俺は楽しかった。


 前回と同じように、勉強会を開いた。

 予想問題をやってから答合わせ、そして解説という流れだ。

 慎吾とひなを教えるのに、今回は竜泉寺と雪奈にその大半をお願いした。

 やはり俺は人に教えるのには向いていないようだ。


 そして期末テスト本番。

 俺はいつも通りの手応え。

 竜泉寺と雪奈は前回と同じぐらい。

 慎吾とひなは、前回よりいいかも、という手応えらしい。


 翌週、テストが帰ってきた。

 順位も出ている。


 俺は定位置のトップ。

 竜泉寺と雪奈は、前回とほとんど順位は変わらなかった。

 今回は内容が難しかったので、これでも大満足らしい。

 慎吾は4教科で平均点以上をマーク。

 全教科赤点回避で順位を少し上げた。


 そしてみんなを驚かせたのは、ひなだ。

 全教科赤点回避どころか、2教科で平均点以上をマーク。

「ひな史上最高順位」にまで大幅アップしたらしい。

「ひな、ひょっとして天才かも」と得意満面だ。

 確かに今回は頑張っていたもんな。


 そしてあっという間に12月21日。

 明日から冬休みだ。

 うちは私学なので、一般の高校より早く冬休みが始まる。


 最後のHRも終わったところで、俺は職員室に呼び出された。

 休み前に進路のことについて聞かれた。

 俺は理工学系か医学系か、どちらかまだ迷ってる、とだけ話した。

 親ともよく相談しなさい、と言われた。

 もちろんそうするつもりだが。


 職員室から解放されて、教室に戻る。

 クラスの中に女子生徒が2人。


 雪奈とひなだ。

 なんだか小声でコソコソと話していて、よく聞こえない。


「えー? まだ誘ってないの?」


「う、うん……だって……」


「Lime、知ってるんだよね?」


「で、でも……直接誘いたくて」


「まーわかるけどさ……で、どうすんの?」


「どうすんのって?」


「言うの? 自分から」


「……」


「言って欲しいんだね……」


「だって……最初は……やっぱり……」


「乙女だなー雪奈は。まあ雪奈の場合、ずっと告白され続けてたからね。気持ちはわかるけどさ、あのスーパー無自覚難聴系朴念仁から告」


「日本語が聞こえてこないんだが、何語で会話してるんだ?」


「うわっ」「ひゃいっ」


 思いっきりびっくりされた。

 そこまで驚かれると、ちょっと凹むんだが。


「二人ともまだ帰ってなかったんだな」


「う、うん。そうだよ、浩介君が戻ってくるの待ってたの」


「そうだったのか?」


「そーゆーこと。じゃあひなは先に帰るねー」


「?」


 バイバイ、と俺たちに小さく手をふる。

 ひなは雪奈に意味ありげな目くばせをして、教室を出ていった。

 ただ教室から出るとき、小さなため息をついて何か呟いていたが……



「はぁー……まあ気持ちが大きくなる前でよかったって、思うしかないよね。イブはバイト先で楽しもーっと」

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