No.42:「できるのか?」


 その日の夜。

 時刻は深夜の25時。


「ふぅー…」


 俺は慎吾からの音声通話を終え、一息つく。


 俺が慎吾に依頼したことは、岡崎七瀬に関する情報だ。

 どんな細かいことでもいい。

 できるだけ多くの情報を集めて教えて欲しい。

 俺はそう依頼した。


 我が校のCIA諜報員の仕事は実に早かった。

 6時間の間に情報を一枚のレポートにまとめ上げ、Limeで送ってくれた。

 さらに細かいニュアンスなどを、音声通話で伝えてくれるサービス付きだ。

 一部の情報は、竜泉寺を通じて入手したものもあるらしい。

 今度竜泉寺にも、お礼をしないとな。


 もう一度慎吾からのレポートに目を通す。


 ・岡崎七瀬


 ・3サイズ不明


 ・地元中堅電気部品メーカー、岡崎電機工業の社長令嬢。


 ・美人でスタイルが良く、美少女3トップと合わせて「美少女四天王」の一人と言われているが、本人はそれが気に入らない。いつも3トップ、特に雪奈のことを敵視している。


 ・元サッカー部キャプテン、柳颯汰のファングループの中心的存在。


 ・わがまま・女王様タイプだが、美人で社交的。カリスマ性が強い。


 ・水島晶子みずしまあきこ麻生あそうマリアは七瀬の子分。いつも3人で行動している。


 ・勉強はできない。卒業後は父親の会社に就職予定。


 ・趣味はPassionパッション Generatorジェネレーター(通称Pジェネ)というバンドの追っかけと、深夜のクラブ通い。


 ・父親である岡崎厳一げんいちは、地元の名士で真面目で実直、評判がいい。ただ娘にはきちんと育って欲しいという気持ちが強く、小さい頃からとても厳しいらしい。


 ・七瀬はその反動からか、高校に入ってから父親の目を盗んでよくクラブに通うようになった。


 ・クラブでは水野みずの隆行たかゆきという、わが校OBとよくつるんでいるらしい。この水野という男、実はかなりのワルで、大麻や合成麻薬の売人というウワサもある。


「浩介は知らないかもしれないけど、Passion Generator、”Pジェネ”っていうのは最近人気急上昇中のバンドでね。メジャーデビュー後すぐにアニメの主題歌に使われてから、いまや国民的人気バンドなんだ。コンサートのチケットも瞬時に売り切れて、これから世界市場も狙っている」


 慎吾が解説してくれたことを思い出した。


「七瀬はPジェネのデビュー当時からのファンでね。近隣でコンサートがあった時には必ず行っていたんだ。でも最近チケットが全然取れないとぼやいているらしい」


 俺はそんなバンドの存在すらも、知らなかったが。


「それから父親の会社は今事業を拡大中で、社長の岡崎厳一は国内やら海外やら出張ばかりで、最近は家にほとんどいないらしいんだ。それをいいことに、最近七瀬はクラブに深夜・明け方まで入り浸っている。ちなみに母親は後妻で、七瀬を全くコントロールできていない」


 なるほど、鬼の居ぬ間になんとかってやつか。


「クラブではその水野隆行と、よくVIPルームに一緒にいるそうだよ。やけにハイな七瀬の様子も目撃されているので、いろんな意味で不適切な関係なんだろうね」


 慎吾のやつ、短い時間でよくここまで調べてくれたな。

 貸しをつくっておいて良かった。

 本当に感謝だ。

 もっとも貸しがなくても、協力してくれただろうけど。


 さて、情報はそろった。

 どうする?


 とりあえずの目的は、七瀬が黒である証拠をつかむこと。

 それも可及的速かきゅうてきすみやかにだ。


 いろんな選択肢を頭の中で並べる。

 まわりから接触するか?

 だめだ、時間がかかる。

 できるだけ早く収束させたい。


 やはり直接コンタクトだ。

 なにが必要?


 熟考の末、俺は「小道具」を2つ用意することにした。


 1つ目の小道具を探し始める。


 俺はスマホを取り出し、フリマアプリの「カルメリ」を開く。

 赤いボックスのアイコンをタップし、検索窓に「Pジェネ」と入れる。

 そして価格の高い順にソート。


 一番最初に表示されたものを開いてみる。

 内容を一部検索して、確認する。

 これがいい。

 小道具としては最高だ。

 俺は購入ボタンをタップし、決済を済ませた。

 それから出品者に大至急送ってもらうよう、取引メッセージを送っておいた。

 これで日曜日の夜までには、間に合うはずだ。


 さて、問題は2つ目の小道具だ。

 これは手作りになる。


 時計を見る。

 金曜日の25時過ぎだ。

 月曜日は、朝の7時半には家を出ないといけないだろう。

 残り時間は睡眠時間も含めて、54時間ちょっと。


「できるのか?」


 俺はひるんだ。

 やったことのない、未知の領域だ。


 その時、夕方の雪奈のことを思い出した。

 ズタズタに切り裂かれたスカートを前にして、必死に涙をこらえている雪奈の姿を。


「あんな顔、二度とさせてたまるか!」


 俺は自分を奮い立たせる。


「できるかじゃない。やるんだ」


 俺は目の前のPCで、プログラミング用のエディターソフトを立ち上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る