No.43:ターゲットを待つ


 週末が終わり、月曜日の朝。

 時刻は8時半。

 俺は学校近くの路上で、ターゲットを待つ。


「眠ぃ~……」

 朝シャワーを浴びた。

 前髪も上げて、ワックスでセットした。


 ターゲットはこの時間に、この場所を通るらしい。

 慎吾、CIAというよりストーカーじゃないの?


「来た」


 向こうからやってくる、茶髪のストレート。

 岡崎七瀬だ。

 スタイルがいいのが遠目にもわかる。

 しかも……制服のスカートがかなり短いぞ。

 風が吹いたら、パンツ見えるんじゃないの?

 きれいな生足を、惜しげもなくさらしている。


 俺は自動販売機に、少し隠れて待機していた。

 七瀬が俺の前を通り過ぎる。


「さて、行くか」

 俺は心の中で呟いた。


 俺はカバンの中の小道具を確認して、早足で七瀬を追いかけた。

 そして七瀬を追い抜く時、わざと肩をぶつける。


「きゃっ!」

「あ、ごめんなさい!」


 俺はわざとらしく、前に転ぶ。

 そのとき1枚のプラスチックケースが、俺のバッグから七瀬の足元に落ちた。


 食いつけ!


 一瞬七瀬は顔をしかめたが、目の前の落し物を見て目を大きく見開いた。

 そしてその落し物を拾い上げた。


「このCD、Pジェネの新譜じゃん! まだ発売されたばっかりだよね?」


 俺は立ち上がる瞬間、彼女の生足を見た。

 角度的に、しっかりとスカートの中が見える。

 ピンクのレース。

 えっちなやつだ。

 さすが上級生は違う。


「すいません、ぶつかっちゃって」


 俺は立ち上がり、改めて彼女の正面に立った。

 身長は165センチくらいだろうか。

 切れ長の目、ぷっくりとした唇。

 そして唇の左上のホクロ。

 セクシー系の美人だ。


 制服のブラウスを少し詰めているのだろうか。

 胸元がきつそうだ。

 しかし何か違和感を感じる。

 なんだろう。


 そうか、胸のサイド部分が不自然なのだ。


 ひなや雪奈のような、胸のサイド部分に自然な膨らみがない。

 サイド部分が平らになっていて、その分トップの方へ強引にもっていく感じだ。

 そう、これは脇肉をカップに収め、カサ増しする



「補正ブラだな」


「はぁ?!」


 七瀬が鬼の形相で、俺を睨んだ。


「あ、いや、岡崎先輩って、たしか、ほ、法生ほうせい中学出身でしたよね?」


「は? いや、神岡中学だけど」


 ギリセーフか?

 いかん、思ったことを口に出す癖を直さないと。

 命取りになるぞ。


「ところで岡崎先輩、たしかPジェネのファンって聞いたんですけど」


「……なんであたしのこと、知ってるの?」


「知ってるに決まってますよ。岡崎先輩といえば、『聖クラークの女神』って、うちだけじゃなくて他校でも有名じゃないですか。知らないやつなんかいませんよ!」


「えー、そーなのー? そんなふうに言われているなんて、知らなかったなー」


 嬉しそうである。

 そりゃ知らないだろう。

 その呼び名、俺が今考えたヤツだから。


「ところで先輩、そのCD、見てくださいよ!」


 俺は七瀬の持っているCDケースを手に取り、パカッとあける。

 そのCDには、メンバー全員のサインが書かれている。


 七瀬は目を大きく見開き、口を押さえて息を呑む。


「ちょ、ちょっと待って! これって初回限定発売の時に、ファンクラブの中で抽選1名だけにプレゼントされたやつじゃないの?」


「さすが先輩、やっぱりご存知だったんですね」


 俺がカルメリで購入した1つ目の小道具が、このCDだ。

 七瀬が言ったとおり、世界で1枚だけのメンバー全員のサイン入りCD。

 ファンクラブのサイトでシリアルナンバーも公開していて、本物であることは確認済みだ。


 金に困った所有者が、カルメリで売りに出していた。

 値段が19万8千円。

 19万8千円だ。

 何度見ても、桁は間違ってなかった。


 こんなもん、そんな値段で買う奴なんているわけないだろ、バカなの?

 と思っていたが、買う奴がちゃんといた。

 俺だけど。


 まあ用が済んだら、カルメリでまた売却するつもりだ。

 そんなにマイナスにはならないだろう。

 ひょっとしたらプレミアムがついて、もっと高く売れるかもしれないしな。

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