No.40:「噂の出所はこれだよ」


 昼休みの後、最初の授業が終わり10分間の休み時間。


「浩介、ちょっといい?」

 慎吾が話しかけてきた。


「うん、どうした?」


「さっきの桜庭さんの話なんだけど」


「例の変な噂か?」


「そう。噂の出所はこれだよ」


 そう言って慎吾は、自分のスマホの画面を俺に見せてきた。

 緑色の画面のLimeグループ。

 グループ名が、『あつまれ 聖クラークの森』


 なんだ、このクッソダサいグループ名。

 全員無人島にでも行く気か?


「うちの学校の生徒の有志グループ。ゆるーい感じで、話題と言ってもここのラーメンが美味しいとか、この前のドラマが面白かったとか。後はゴシップとかかな」


 参加人数を見ると、96名。

 この学校の生徒全体が約750名。

 1割強の人数。多いのか少ないのか、よくわからないが。


「それで、っと。ここだ」

 慎吾は画面を少しスワイプして、そのトーク画面を俺に見せてくれた。


 ………………………………………………………………


 七瀬:このあいださー、ちょっとした話を耳にしたんだ。

 七瀬:実はあの雪姫、お金に困ってウリやってるらしいよ。


 アコ:えーホントに?


 健司:マジか?


 隆久:さすがにガセっしょ?


 七瀬:ううん、かなり確かな情報だよ。相手した男から直接話聞いたから。


 アコ:えー、超リアルっぽい。ありえるかも。


 鈴木:あの雪姫が?


 山川:信じられんぞ。


 マリア:でもお金に困ってるって話、私も聞いたことあるな。


 健司:マジでか


 鈴木:うちの学校、学費高いからな。


 康之:あり得るのか? いやでも、さすがにないだろ。


 たけし:因みにおいくらで?


 七瀬:5だって。オールで10。


 たけし:5千?


 吉田:アホか、桁が違うだろ!


 直樹:いい値段するなぁ。


 マリア:あの美少女だからね。いくらでも出すっていう大人が大勢いると思うな。


 ………………………………………………………………


 俺はギリギリと奥歯を噛んだ。


「この七瀬っていうのは、例の岡崎七瀬のことだな?」


「そう。このグループの中心人物だね。アコっていうのが水島晶子みずしまあきこ、マリアが麻生あそうマリア。二人とも3年生で、岡崎七瀬の子分みたいなもんだよ」


 諜報部員は続ける。


「このクダリも岡崎七瀬が桜庭さんのことをでっち上げて、アコとマリアがそれに賛同して真実味を増すようにしているチームプレーだ。たちが悪いよね」


「なるほどな……でもこのグループが見られるということは、慎吾もこのグループに参加しているということだよな?」


「そうだよ。ほとんど発言はしないけどね。でも情報ソースは、できるだけ広い方がいいからね」


「だったら何で、雪奈のことを否定しないんだ?」

 俺の声が怒りで一段低くなった。


「何で否定しないか、浩介ならわかると思ったけど?」

 慎吾はスッと目を細める。


 俺は慎吾の言葉に、はっとする。

 熱くなった脳みそに、冷却水をぶっかける。

 そうだな。

 慎吾の言う通りだ。


 このグループ内で雪奈のことをかばおうとする。

 七瀬がそれをさらに否定する。

 アコとマリアがそれに乗っかる。

 七瀬はこのグループの中心人物だ。

 他の大衆も、七瀬側に着く。

 そうすると、デマが余計に真実味を増していく。

 逆効果だ。

 こいつら、本当に人の苦しめ方を知っている。


「慎吾、すまない。お前の方が冷静だったな」


「いいって。それに僕だって、冷静じゃいられないよ」

 慎吾の表情は真剣だ。


「現実味のないウワサは、時間をかけて必ず収束するから。七十五日は長いかもしれないけど、この件はそのまま放っておくのがいいような気がするよ」


 打つ手のない現状に俺はいらつきながら、慎吾の意見に賛同するしかなかった。

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