No.39:「何か変な噂が流されてるよ」
翌日の木曜日。
残念なことに、悪いことは続いた。
いつもどおり昼休み時間に、俺と慎吾の教室にやってきた美少女3人。
雪奈の格好に、違和感を感じる。
なんだか元気もない。
その違和感の正体を、俺はすぐに理解する。
足元だ。
「雪奈、上履きはどうしたんだ?」
うちの高校は、学校指定の上履きシューズがある。
ところが今雪奈が履いているのは、体育の時に使う体育館用シューズだ。
横にラインが入っているので、すぐにわかった。
「聞いてよ、コースケ!」
今日もマジモードのひなが、真剣な顔で言ってきた。
「今度は上履きがやられた」
「なんだって?」
「上履きがナイフみたいなもので、ズタズタに切られていたの」
ひなは悔しさで口元を噛んでいる。
聞くと上履きがナイフみたいなもので切り刻まれ、そのまま靴箱に入っていたらしい。
「雪奈、先生には話したのか?」
「う、うん……上履きを持って、先生のところに話にいったよ」
雪奈は力なく返事をした。
先生も驚いていたらしい。
心当たりがないか聞かれたが、その時は特にないと答えたそうだ。
先生は職員会議にかけて、手の空いてる先生方で早朝と夕方昇降口を見張るか、あるいは新たに監視カメラを導入できないか提案してみると言ってくれたとのことだ。
いずれにしても、即効性は期待できないな……
それにやり方が陰湿だ。
身につけるものを傷つけるというやり方は、その本人を傷つけるということを連想させる。
手紙と違って、心理的なダメージがさらに大きい。
相手はかなり「いじめ慣れ」している輩だ。
やっかいだな……。
「雪奈、体操服ってどうしてる?」
「……? いつもは月曜日に持ってきて、体育の授業がある日に使ったら持って帰るようにしてるよ」
「とりあえず体操服は学校に置かないほうがいい。当面は授業がある日にその都度持ってくるようにしたほうがいいぞ」
「……うん、わかった」
あと身につけるもの……特に思い浮かばないな。
「雪奈、あと最近何か気になる事とかないか?」
俺は一応聞いてみた。
雪奈は一瞬、体をビクンと震わす。
何か思い当たることがあるんだな。
「どうした?」
「う、うん……実はこのあいだ学校から帰る時、知らない男の子から声をかけられてね」
いい話ではなさそうだ。
「それで、いきなり言われたの。……」
『5でお願いできるって聞いたんだけど』
「!……」
俺は驚きで声が出せなかったが、何故か隣で聞いていた慎吾がピクリと反応する。
雪奈は続ける。
「最初、5って? 囲碁のことかなとか思ったんだけど、全然話が噛み合わなくて。押し問答しているうちに、『ケッ、ガセかよ』とか言ってどっか行っちゃったんだけど……」
雪奈は元気なく下を向く。
「あとで考えたら、5って5千円とか5万円とか……つまりそういう意味だよね」
雪奈の声が小さくなる。
どうしてそういう話になる?
なにが起こっている?
「絶対、何か変な噂が流されてるよ」
ひながイライラした様子で、口を挟む。
「最近、男子たちの雪奈を見る視線がおかしいんだよ。あれは雪奈を性的な目で見てる。ひなには分かる」
いつも性的な目にさらされているひなが言うのであれば間違いないだろう。
でも……誰がそんな噂を?
なんとなく暗い雰囲気の中、皆で昼食を食べて過ごした。
全員いいアイディアは、なにも浮かばなかった。
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