No.38:典型的な逆恨みのセリフ


「もうこれで4回目だよ! 絶対岡崎先輩たちが怪しいって!」

 マジモードのひなが、珍しくかなり怒っている。


 昼の休憩時間。

 俺たち5人は、いつもの通り一緒に昼食を食べていた。


「そうかもわからへんけど、証拠もないからなぁ」


「でもさ、明らかに柳先輩の一件から増えてるよね? 間違いないよ!」

 ひなはまだ怒っている。


「柳先輩って?」


やなぎ颯汰そうた先輩。3年生で元サッカー部キャプテン。この学校で一番のイケメンって言われてるよ」

 慎吾が教えてくれた。さすが我が校の諜報員だ。


「その柳先輩が何か関係あるのか?」


「2週間ぐらい前かな? 柳先輩、雪奈に告白したんだよ」

 ひなが続ける。


「岡崎七瀬ななせ先輩、柳先輩のファングループの中心みたいな存在やったからなぁ」


 つまりこういうことか?

 岡崎七瀬という女の先輩がいる。

 彼女は柳先輩のファンである。

 その柳先輩が、雪奈に告白した。


「で、雪奈はその告白を……断ったと」


 雪奈はこくんとうなずいた。


「それでなんで、岡崎先輩が怪しいという話になるんだ?」


「もともとそのファンの間では、柳先輩と桜庭さんがくっつくのであれば、それは仕方ないっていう雰囲気があったんだよ。学校で一番のイケメンと一番の美少女が付き合うのであれば、逆に皆で祝福しよう、みたいなさ」


 雪奈は下を向いたままだ。

 慎吾が続ける。


「そもそも柳先輩はシーズン最後の引退試合が終わったら、桜庭さんに告白するって親しい連中に話していたんだ。それでまわりは大いに盛り上がった」


 ところが結果は玉砕した。

 なるほど……。


「いわゆる『柳先輩が、かわいそう』っていう、あれか?」


「そう、それ。桜庭さんは、何も悪くないのにね」


「迷惑な話だな。逆恨みもいいところだろ? そもそも本人同士の意思はどこにいったんだ?」


「本当にその通りだよ」

 慎吾も呆れ顔だ。


「それでね、告白を断った翌日、岡崎先輩が雪奈のところに文句を言いに来たんだよ」


 マジモード継続中のひなが言う。


「そうなのか?」


 俺は雪奈の方を向いた。


「えっ? う、うん」


「何を言われた?」


「え? えーと、まあ……ありえないとか、いい気になるなとか、前から気に入らなかったとか……そんな感じだったかな」


「典型的な逆恨みのセリフだな。暴力とかはなかったか?」


「うん、それは大丈夫だよ」


「そうか。ただそれだけだと……手紙を入れた証拠にはならないか……めちゃめちゃ臭いけどな」


 俺は頭を巡らせたが、これだけではなんとも動きづらい。


「とりあえず今度変な手紙が入ってたら、学校に報告しよう。ただ雪奈の靴箱は監視カメラの死角になっているから、犯人を突き止めるのは難しいかもしれないな」


 自分たちでこっそり取り付けるか?

 いま小型でいい監視カメラがある。

 今度入ってたら、考えたほうがいいかもしれないな。


「とりあえずまた何かあったら、いつでも知らせて欲しい。緊急だったら、夜遅い時間にLimeしてもらってもいいからな」


「うんわかった。ありがとう浩介君。みんなも心配かけてごめんね」

 雪奈の声は明るいが、無理をしているのがバレバレだ。


 他の皆も心配そうな顔をしている。

 ひなが心配していたことが、身をもってようやくわかった。

 このまま大事に至らなければいいが……。

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