No.24:中学時代の桜庭


「桜庭の中学時代の話だったと思うが……」


「ん? あー、そうだったね」


 山野は姿勢をちょっと正した。


「雪奈はひなと中2の時から同じクラスで、仲が良かったんだー。高校に入ってからは違うクラスになっちゃったけど、今でも一番の親友なんだよねー」


 山野は昔を思い出しながら、ゆっくり話し始めた。


「中学の時から雪奈は頭がよかった。でもその頃は眼鏡をかけてて髪型も地味で、性格もすごくおとなしくってねー。なんていうか、一見『ガリ勉・地味女』って感じだったんだ」


 あの桜庭が「ガリ勉・地味女」だって?

 全く想像がつかない。


「性格はその頃から本当にいい子でね。すごく優しいし、人の悪口なんて絶対に言わないし。だからひなも大好きだった。もちろん今もだけどね」

 山野の口調がやさしい。


「でも中学生の頃ってみんなガキだから、ほら、みんな見た目でいじったりするじゃない。雪奈はおとなしかったし見た目も地味だったから、よくからかわれてたんだ」


 確かに中学の頃なんてみんなガキだからな。

 カースト上位の連中が見た目が地味な連中をからかったりするのは、よくある光景かもしれないが。


「からかうって言っても、いじめとかそんなにひどいもんじゃなくて。『ガリ勉メガネ』とか『あのおかっぱ頭』とか陰で言われる程度だったんだけど、ひなはそれを聞くと我慢できなくてね。『今言ったの誰!? こっち出てきなさいよ!』って大声で怒鳴ったりして」


「山野って、そんなキャラだったのか?」

 俺は驚いた。


「あー、表向きはヘラヘラモードだけどね。でも親友のこと馬鹿にされて、だまっていられるようなキャラじゃないよ」


 俺は再度驚いた。

 こいつ、結構熱いな。


「そんなことがたびたびあったんだけど、ずっと雪奈も辛かったみたいでね。高校受験が終わってから雪奈に言われたんだ。『ひな、私変わりたい!』って」


 なるほどな。そういうことか。


「『いつもひなに助けてもらうばかりじゃなくて、自分が変わりたい! もうガリ勉メガネとか言われたくない!』って。それから雪奈は本当に頑張ったんだよ」


 やっぱり桜庭は努力家だったんだな。

 おれの推論は間違ってなかった。


「もともと素材がいいからね。眼鏡をコンタクトに替えて髪型を変えただけで、もう十分イメージが変わった。高校に入ってからも制服の着こなしとか私服とか、雑誌を見ながら自分で研究したり、ダイエットも頑張ってた。中学の時は少しぽっちゃりしてたからね」


 ぽっちゃりしてた?

 今の桜庭からは想像もつかないな。


「メイクだってナチュラルメイクを覚えるようになって……素材が良い上に、綺麗になってその上性格がいいとか最強じゃない? 高1の夏休み明けぐらいから雪姫とか呼ばれるようになって、男の子から頻繁に告白されるようになった」


 たしかにそれは最強だ。


「でも雪奈自身の中身は中学の時と全然変わってなくて、『なんで私なの?』『相手を傷つけたらどうしよう』って……やさしいまんまなんだよね。結局今まで一度も彼氏ができないままなんだけど」


 あー、そういやあ桜庭もそう言ってたな。


「でも話はそこで終わらなくってね。もっと厄介な問題が起こり始めたんだ」


「厄介な問題?」


「そう。今度は女子からの嫉妬が始まったの」


 俺はプールに行ったとき、桜庭が話していた言葉を思い出す。


『嫌なことも多いんだよ。特に他の女子からとか。』


 なるほどな。

 女子の妬みほど怖いものはないらしいからな。

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