No.22:「おい、当たってるぞ」
「よしっ、11万2千円のプラス」
プールへ遊びに行った日から3日後。
授業が終わり昇降口で靴を履き替えながら、俺はスマホで今日1日のトレード結果を見る。
今日の東証マーケットは前場は小動きだったが、昼休み中に自動車メーカー最大手の好決算が公表され、後場に入り市場がこれを好感。
為替が円安に進んだことも合わせて、製造業・輸出関連銘柄を中心に買いが入り相場は全面高。
俺のプログラムも、しっかりと利益を確保してくれた。
これで投資金残高は450万円を超えた。
500万円まで、あと少しだ。
俺たち5人組は、相変わらず昼休みに机を囲んで一緒に昼食を食べている。
話題はこの間のプールでの事とか授業の話とかが中心だが、なんだか楽しい日常だ。
慎吾と竜泉寺のケンカのような夫婦漫才に山野がのっかり、桜庭がそれを止めに回るというパターンが多い。
俺は大半聞き役に回っている。
今まではソロランチだったので、なんだかむず痒い感じがする。
皆でプールに行った日からというもの、俺は改めて桜庭の美少女っぷりに意識をもっていかれることが多くなった。
さらさらの黒髪。
くりっとした二重まぶたに鳶色の瞳。
シュッとした鼻に整った口元。
それに……制服の下に隠れている白くて大きな双丘。
くびれたウエスト……そういったところまで、どうしても意識してしまう。
見ちまったからな。
「さすがは学校一の美少女だな」
俺は小さくため息を着いた。
すると俺のスマホが、ブルっと震えた。
Limeのメッセージだ。
ひな:今から駅裏の改札前に集合ね。
ひな:来なかったら、エアホッケーのとき私のおっぱいガン見してたこと言いふらすからねー(笑)
「言いふらすからねー(笑)、じゃねえ!」
俺はスマホを地面に叩きつけそうになった。
冤罪はこうやって生み出されるのか?
いや、冤罪とも言い切れないのか……
そもそもなんで山野が俺のLimeIDを知ってるんだ?
ああ思い出した。
エンカウントした初日にスマホを取り上げられて、強制的に交換させられたんだっけ。
「今から駅裏の改札前に集合」って……。
でもどうやら俺には拒否権がなさそうだ。
本当はとっとと帰りたがったが、俺は渋々向かうことにする。
駅の出口は2か所ある。
学校側へ向かう東側には飲食店もあって結構にぎやかだが、逆に西側はさびれていて、人の流れも少ない。
この西側を俺たちは駅裏と読んでいる。
学校と反対側なので、生徒の姿はほとんどない。
山野が人気のないところを指定してきたということは……何かあるのか?
駅裏の改札前でスマホをいじっていると、
「やっほーーーーー」
ツインテールがいきなり腕を絡めてきた。
山野だ。
「おい……」
山野はいたずらっぽい目で俺を見上げながら、自分の胸をぐいっと俺の腕に押し付ける。強烈な弾力と圧力と共に、胸の形がぐにゃん、と変形している。
「その武器をわざとらしく押し付けるのはやめろ」
「えーー、そこは『おい、当たってるぞ』『当ててるんだよー』っていうくだりでしょー? つまんないなー」
「笑えんぞ。俺の鋼の理性、なめんな」
山野は俺の腕から離れた。
こういうところが、小悪魔と言わる所以なんだろうな。
「そんなこと言ってー。この間エアホッケーやってる時、ひなの胸しっかり見てたくせにー。ねえ、ちょっと触ってみる?」
「いいのか?」
「うん! ちょっと大声出すけどね。おーーまーーわーーりーーさ」
「ごめんなさいごめんなさい調子に乗りましたすいません」
とんだトラップだった。
強気に出て山野をあせらせようとしたら、返り討ちにあってしまった。
小悪魔どころか大悪魔じゃねーか。
「まーでもしょーがないよねー。男の子なんてみんなそんなもんだしー」
山野がニヤニヤしている。
「この間のプールでもさー、慎吾くんがひなの胸チラチラ見るし、他の女の子にも色目つかってたもんだから葵が怒っちゃってねー。『お仕置きが必要やな! 肛門から、ぶぶ漬け突っ込んだる!』ってもうカンカンに息まいちゃってー」
新しいサムゲタンが爆誕していた。
なに、竜泉寺って怒ると怖い系なの?
「ひなだって好きでこんな胸になった訳じゃないんだよー。身長にまわる分が全部胸に集中しただけでさー」
「うん、全国の貧乳女子に謝れ」
もしかしたら竜泉寺、自分が貧乳だから余計に怒り倍増だったのか?
「お前の乳の話はもういい。他に話がなければ帰るぞ」
「まーまー、そう言わないでさー」
そういうと、山野は自分のスマホの画面をスッと俺の方へ向けてきた。
「これ、誰だかわかる?」
山野のスマホには制服を着た女子生徒が写っていた。
髪の毛は切り揃えられて、いわゆる「おかっぱ」に近い。
えんじ色のフレームの眼鏡をかけていて、顔も幼い感じだ。
制服もうちの学校の制服ではない。
雰囲気からして中学生ぐらいか?
一瞬山野の妹かとも思ったが、顔つきが全く似ていない。
もう一度よく見ていると、何か既視感が……。
眼鏡の奥の鳶色の瞳、スッとした鼻すじに整った口元……これってもしかして……
「ひょっとして……桜庭か?」
山野はニヤリと口角を上げた。
「聞きたくない? 中学時代の雪奈のこと」
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