No.21:エアホッケーゲーム
桜庭を気遣って、その後はプールで泳ぐのをやめた。
施設内を歩いていたら、水着で入れるエリアでゲームコーナーがあった。
そこで、みんなでエアホッケーゲームをやることにした。
エアホッケーは、やってみると5人とも結構同じくらいのレベルだった。
対戦相手を変えながらいろんな組み合わせで遊んだ。
俺と桜庭のペアは、慎吾・竜泉寺ペアに接戦の末10-9で負けてしまった。
やはりリア充カップルにはかなわない。
最終ゲームがなぜか俺と山野のシングルス対戦になった。
ところが、この水着姿の山野のエアホッケーをやる姿がヤバかった。
とにかくその胸の振れ幅が大きすぎる。
普通の洋服じゃなく、水着なのでその形もはっきり分かってしまう。
桜庭がメロンだとすると、山野は大玉スイカくらいだ。
しかも身長と顔が小中学生だから、そのアンバランスさが半端ない。
山野が左右に動くと、当然その胸もブンブンと振り回される。
ギャラリーが15人以上、わらわらと集まってきた。
ほぼ全員男だ。
俺はエアホッケーをやりながら、山野の胸の動きに注目する。
面白いのは山野が右に動くとき、その胸は一瞬左に残された後、加速度的に右へ「ブルン」と動く。
いわゆる慣性の法則だ。
俺は山野の動く「スピード」と、胸が動く「距離」と「所要時間」を公式にしたかった。
だが、おそらくそれは「胸の弾力性」も関与してくる。
その弾力係数も加味しなきゃいけないな。
弾力係数は胸だから
しかもその弾力係数って、個人差があるはずだ。
山野よりも、桜庭のほうが絶対に柔らかそうだな。
その場合の弾力係数は……
気がつけば試合が終わっていた。
1-10で完敗。
桜庭のジト目が痛い。
聞けば山野は男子とエアホッケーをやると、大体勝つらしい。
思春期男子の煩悩、恐るべしだ。
午後3時半。
着替え終わった俺たちは、ウォーターパラダイスを後にした。
帰りの電車の中、俺と桜庭が隣同士に座った。
遊び疲れたのか、慎吾、竜泉寺、山野の3人は爆睡中だ。
俺達が休憩している間、ずっと遊んでいたからな。
「楽しかったね」
桜庭はちょっと眠そうに微笑んだ。
今はポニーテールをほどいていつもの髪型だ。
女神か?
「そうだな。楽しかったよ」
俺もあくびをこらえながら返す。
「俺はこんなふうに男女グループで遊びに行くなんて、初めてだったからな。竜泉寺に感謝だ」
「そうだね」
「でも俺でよかったのか? もうちょっと、こう……気の利いた会話のできるヤツとかを誘った方が盛り上がったんじゃないのか? 俺じゃあ、流行り音楽も動画もテレビドラマも全然わからなかったし」
実際みんなが話している会話に、ついていけない場面も多かった。
「そんなことない! 私は大山君といっぱい話せて楽しかったよ」
桜庭は俺の方に顔を向ける。
「大山君って、いつも相手のことを考えてくれてるよね。相手が何を思って、何を感じて、何が嬉しくて何が辛くて……大山君は、まるで自分のことのように思いを寄せてくれるんだよ」
穏やかな口調とは裏腹に、桜庭の目は真剣だ。
「それがどれだけ嬉しいことかわかる? 私は自分のことをこんなに理解しようとしてくれる男の人と話をしたことなんてなかった。音楽やドラマの話なんかより、100倍も嬉しいし楽しいんだよ」
時間にして2秒くらいだろうか。
桜庭は俺の目をじっと見つめた。
ぱっちりとした二重瞼に長い睫毛。
俺の心臓がドクンとはねる。
それから桜庭はすぐにハッとした表情で顔をそむけ、「ごめん……」と下に俯く。
頬がピンク色に紅潮している。
俺は「そ、そうか? それなら良かったよ」
そう返すのが精一杯だった。
駅に着いて、そのまま全員解散となった。
帰宅した俺は部屋の中で、桜庭のきれいな胸の映像と彼女の言葉を思い出しながら、何とも言えない気分にとらわれていた。
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