No.18:大惨事!


 1時間ぐらい遊んだ頃。


「それじゃー、そろそろみんなであれ乗ろーよ」

 山野が指差した方を見る。


 そこには燦然とそびえ立つジャイアント・スイング。

 タワーの最上部からスタートするのだが、その高さは40メートルはあるだろうか。


 直径4メートルぐらいの丸い浮き輪のようなものに最大6人乗ってスタートする。

 ゆっくり3回くらい緩やかなカーブを回ったら、急激に下って左右に一回ずつ大きく揺さぶられ、最後は出口で水の中へ突っ込むというアトラクションだ。

 そして最後の部分で、2-3人は必ず浮き輪の外に放り出される設計になっているらしい。


「えー、も、もう行くの?」桜庭は尻込みしている。

 絶叫系はあまり得意ではないそうだ。

「でも午後から混んでくるから、今のうちに行っといた方がええと思うわ」

 竜泉寺は絶叫系は大丈夫らしい。


 結局とりあえず1回いってみようということになった。

 40メートルのタワーの最上部を目指し、5人で階段を上っていく。

 比較的空いていたので、順番はすぐに回ってきた。


 俺たち5人で浮き輪を占領した。

 係りの人は「いってらっしゃーーい」と満面の笑みで手を振っている。

 竜泉寺と山野は手を振り返していたが、桜庭は見るからに余裕がない。

 顔色も青ざめているような気がする。


 5人を乗せた浮き輪はゆっくりと滑り出し、始めの3回のカーブをゆっくりこなした後、最初のスイングに突入する。

 ジェットコースターが降りていくあの感覚だ。

 女性陣の「きゃぁーーーーっ」という悲鳴とともに落ちていき、また登っていく。

 登りきったところで、振り子の原理で再び落下していくと出口に向かって突入だ。


 ザッバーーーンという大きな音と水しぶきと共に、浮き輪は着水。

 その瞬間俺は衝撃とともに外に放り出され、水の中で上下が逆さになった。

 どうやら「放り出され要員」として俺が選ばれたらしい。


 呼吸が苦しい。

 水の泡が上から下に動いていくのが不思議だった。

 俺は無我夢中で水面に顔を出した。

 プハッと息を吐き出すと、すぐ隣で同じように息を吐き出す同志がいた。

 桜庭だ。

 俺たちは水面に顔だけ出した状態で目を合わせ、苦笑いだ。


「えらい目にあったな」俺はそのまま、ゆっくり立ち上がった。


「やだーーっ。もう絶対乗らない!」

 半べそをかきながら、桜庭もゆっくり立ち上がった。


 その時、悲劇が起こる。


 立ち上がった桜庭の面積の小さなビキニから、片側の胸がおもいっきりハミ出していた。

 いわゆる「ポロリ」である。

 浮き輪から放り出されたとき、水流で水着が押されてしまったんだろう。

 それとも重さに耐えられなかったのか?

 重さって何の?


 俺は鋼の理性で目を背けようとした。

 しかし残念ながら眼球の煩悩にあっさりと負けてしまった。


 一瞬だが、ふっくらと大きくて真っ白で柔らかそうなそれと、きれいな色をした先端部分も含め、桜庭の形のいい片胸全体が、写真のように脳裏に焼き付いてしまった。


 桜庭が立ち上がってから時間にして約1秒。


 異変に気付いた彼女は

「きゃぁーーーーーーー」と今日一番の悲鳴を上げて、すぐにまた水の中に入っていった。


 俺に背中を向け両手で胸元を押さえたまま、手元をゴソゴソしているのは、定位置に戻しているのだろう。


「み、見た?」桜庭は背中越しに、ジト目で俺を見る。


 俺は最短時間で最適解を探し、


「ん? 何がだ?」


 そう答えた。

 ここでの選択肢は「とぼける」一択だ。

 それ以外に無い。


「本当に、見てない?」


「だから何がだ? 水着でもながされて……ないよな?」


 桜庭はまだ納得がいかなかったようだったが、「ううん、なんでもないよ」と力なく呟きながら立ち上がった。


「雪奈、どうしたん?」

「なになに? どうしたの?」

 竜泉寺と山野も寄ってきた。


 元気なく「な、なんでもないよ」と答える桜庭を連れ出して、俺たちはゆっくりプールの外に出た。


 俺は平静を装ったが、心臓がまだバクバクしている。

 生まれて初めて女性のナマ胸を見た。

 片方だったが……それもあの雪姫のだ。


 やっぱり胸の大きさに対して、布の面積が小さかったんだよな……。

 インパクトの強すぎた彼女の胸の画像を頭の中で再生しながら、そんな事を考えていた。

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