No.11:変人


「そういえばもうじき中間テストだよね。僕、今回結構やばいかも」

 慎吾は心配そうに言う。


「だから日頃から勉強すればいいのにって、いつも言うてるやん」

 竜泉寺は手厳しい。


「ひなもやばいんだよねー。今回はなんとか赤点を回避したいんだけど」

 山野はそのレベルなのか?


「大山君って……その……勉強の方はどうなのかな?」

 桜庭が聞いてくる。


「あ、浩介はね……実は学年トップだよ。ていうか中学でも常に学年トップ、ついでにこの学校の入試成績もトップだったよ。新入生代表の挨拶って浩介がしたんだけど、みんな覚えてない?」


「おい、慎吾」口が軽すぎるぞ。


「えっ?」

「うそやん」

「マジで?」


 実はそうだったりする。

 この学校は試験の成績発表の張り出しとかをしないので、誰が成績上位者なのか分かりにくい。

 もちろん生徒一人一人には通知される。

 俺は中学以来、学年トップ以外になったことがない。


「てことは、大山君て特待生なん?」


「そうなるな」


「それ、すごいやん!」

 竜泉寺が目を見開いた。


 俺がこの学校に来たのは、まさにその特待生制度があったからだ。


 父親は俺が中学の時リストラに遭い、収入を大きく減らされ経済的に豊かではなかった。

 高校入試の時、俺は県下で一番偏差値の高い公立と私立の両方を受け、両方とも合格した。

 その私立は、この聖クラークだ。

 当然俺は授業料の安い公立高校へ進む予定だった。


 ところが聖クラークには特待生制度があり、入試成績トップ数名は入学金と初年度の授業料が免除される。


 2年目以降も成績上位、噂では学年一桁レベルの成績を維持できれば、授業料免除が継続される。

 つまり施設費用等はかかるが、成績が良ければ無料で高校を卒業までさせてくれるのだ。


 それにうちの高校は、我が国最高学府の東大(東帝大学)に毎年30人前後の合格者を出している全国屈指の進学校でもある。

 俺もできれば、その流れで再来年には東大に入りたいと考えている。


 もちろん大学からはお金がかかる。

 なのでトレードで稼いだお金で、大学4年分の学費と生活費に充てたいと考えている。

 父親にはできるだけ負担をかけたくない。

 目標の1千万円はそのためだ。



「中学の頃はずっと天才って呼ばれてたもんなー」

 その慎吾の言葉に、俺は異を唱える。


「慎吾、もうひとつのあだ名があっただろ? 俺はそっちの方がしっくりくる」


「えーなになに? もうひとつのあだ名って」

 山野は興味津々だ。


「変人だ」


 俺は自虐的に即答した。

 今でも一部の連中からはそう呼ばれている。


 中学の時から俺は頭だけは良かった。

 やった分だけ結果がついてくるので、勉強も全く苦ではなかった。


 ただ勉強以外のこととなると、プログラミングと株式トレード以外のことには、全く興味を示さなくなった。


 後は簡単に想像できるだろう。

 俺の偏った興味は、クラスメイトのそれとは全く噛み合わなかった。


 クラスメイトは好きなテレビ番組や動画、好きな歌やアイドルグループ、好きなゲーム、好きな女子生徒の話を好んだ。


 プログラミングのコマンドや複雑なロジック、株式マーケットの動向や、為替・経済の話などをしたがる生徒など皆無だった。


 それでも俺は迎合することを嫌った。

 そんなものは時間の無駄だ。

 俺は孤立するのに時間がかからなかった。

 たった一人の例外を除いて、俺に語りかける生徒はいなくなった。


「でも浩介、今こうしてみんなでお昼ごはん食べてるよね。すごい進歩だと思わない?」


 慎吾の言うとおり、今俺は昼休みに机を寄せて、男女5人で昼食を食べている。

 その違和感に脳ミソがついていけてない。

 これって進歩なの?

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