No.12:テストの予想問題集


「だからさー、今度のテスト、また助けると思って。『あれ』やってくんない?」


「またか?」俺は渋面をつくる。


「え、もしかして勉強を教えたりしてくれるんですか?」

 桜庭の目が輝いた。


「いやー違う違う。浩介人に教えるの、めっちゃ下手だから」


 そのとおりだ。

 俺は人に勉強を教えるのが、壊滅的に苦手だ。

 理由はシンプルで、「分からないことが理解できない」からだ。

 おそらくそれは、俺の脳の働き方に関係しているように思われる。


 たとえば数学で図形の問題を解くとしよう。

 その問題を解くには補助線を引く必要があるとして、いくつかの補助線パターンが考えられるケースが多い。


 そんな時、俺の頭の中には問題解決のフローチャートが即座に浮かぶ。

 Aの補助線は行き詰まる。

 Bの補助線は遠回り。

 Cの補助線が回答までの最短距離。

 そんな具合に、問題解決までの「マッピング全体」がすぐに出来上がる。

 後はそれに沿って解いていくだけだ。


 万事こんな感じなので、人に教えるとき「どうしてこうなるの?」と聞かれても「こうなるからだ」としか答えられないし、理解できないことが理解できない。


 記憶に関しても、俺の場合は特殊だ。

 暗記科目の場合、普通は文章にして「鉄砲伝来イゴヨサン」といった関連付けで覚えることが多い。

 でも俺の場合は教科書や年表を「画像ごと」記憶する。

 パソコンの記録媒体に画像を保存するイメージだ。


 従ってなにかを思い出す時は、「教科書のあのページの右下」とかに書いてあった「画像」を思い出す作業をする。


 ちなみに授業中、ノートは一切とらない。

 教科書の余白や付箋に必要だと思うことを書き込んだり貼り付けたりして、それごと記憶していった方が効率がいいからだ。


 もちろん初見だけでは覚えきれないにしても、反復することでほとんど頭に入っていく。


 ちなみにこれらの症状は、サヴァン症候群の症状に似ているらしい。

 俺自身、サヴァン症候群かどうかは分からないが。


「浩介にテストの『予想問題集』を作ってもらうんだ。これがマジで当たるんだよー」


 中学の時から、慎吾に再三勉強教えてくれと言われた俺は、勉強を教える代わりに試験の予想問題を作ってやった。


 授業内容や先生のクセから、試験問題を予想するのは俺にとって簡単だった。

 予想問題集を作り、慎吾にその解き方やパターン、関連語句を徹底して覚えてもらった。


 因みにこの高校の入試問題用にも作ってやった。

 これが思いの外あたり、数学は1問ほぼ全く同じ問題が出たほどだ。

「今僕が聖クラークにいるのは、浩介のおかげ」とたまに慎吾は口にする。

 それにしちゃあ見返りが少ない気がするな。


「ええなぁそれ。ウチも欲しいわ」

「ひなもひなも!」

「私も作って欲しいです!」

「断る」


 えーー、と全員の声がハモった。


「いいじゃん浩介。なんでダメなのー?」


「シンプルに面倒くさい」


「えーどうしてさ。親友と3人の美少女が救われるんだよ」


 俺にメリットがない。


「もちろんタダとは言わないよ。ね、桜庭さん?」


「え?」


「桜庭さんのお弁当1週間分で、手を打とうじゃないか」


「おい!」俺はたまらず異を唱える。


「慎吾、お前人のフンドシで相撲をとるんじゃねーぞ! 桜庭さんだって、いやだよな? 一週間、朝早く起きてお弁当なんて」


「いえ、是非それでお願いします!」

 力強い即答だった。


「お弁当ぐらいだったら作ってもいいかなって、さっきも言った通りだよ?」

 桜庭はふんわりと微笑む。

 あらやだ、可愛い。


「そしたらウチは飲み物を1週間提供するわ。ドリアンサイダーでいい?」

 イジメか?


「じゃあひなはね、雪奈のお弁当に「おいしくなーれ、おいしくなーれ」って、おまじないかけてあげるよー」

 男子生徒全員が見てる教室の中でか?

 拷問だろ。


「僕も何か絶対にお返しするからさー。浩介、頼むよ」


 この通り、と手を合わす慎吾を前に、俺ははぁーっと大きくため息をつくしかなかった。

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