第3話


「安西!今日は、あの有名監督がメガホンを取った作品を見に行こうゼ!」



季節が真冬に入ってきた頃。


――私と川野は、「映画仲間」としてメッチャ仲良くなってた。


「あぁ、吉沢監督の「荒野に輝く」でしょ?私も見たかったんだよね~、学校帰りに寄ろうよ!」

「おう!放課後が待ち遠しいな・・・安西、チケット2枚頼むわ。」

「はいよ。」

私は川野が自席へ戻っていくのを見届けると、早速スマホで映画館のサイトを開いた。素早くチケットを予約する。


「ま~た安西は、川野と映画デートですかぁ~??」

「おうおうおう、お二人さんやってんねぇ~」

私達のやり取りを見ていた周りの友人は、毎度同じように冷やかしてくる。


その流れも、もう慣れてしまった。


これが、私の日常だ。


「はぁ・・・みんな、そんなんじゃないから!」

私は少し声を張って周囲の人へ言う。

・・・もちろん、あまり効果はないのだけれど。


「え、そんな悲しいこと言わずにさ♪」

その中でも、特に私と川野の関係に茶々を入れてくる友人は、ニヤニヤしながら私の所へやって来た。


「本当にそういう関係じゃないよ。」

「でも、川野もまんざらでもない感じじゃない?この前二人で映画の話をしながら帰ってたのを偶然見たけど、二人とも本当に楽しそうだったし♪」

友人は「それで、本当はどうなんすか?」と、おどけた調子で聞いてくる。


・・・絶対に「偶然」じゃないよね、それ!




川野には、友達が沢山いる。そんなアイツと関わって半年以上経ち、私の環境も変わったのは確かだ。



そんな私を変えた川野は、友達がいるだけではなく、人気者だった。



――――それは、「友情」でも、「恋愛」でも。



実際、「私、川野君の事が好きなんだよね・・・」みたいな女子は、クラスの中だけでも何人かいるらしい。

その女子達にしてみれば、私と川野の関係が羨ましいのだろうか。

だとすれば、私はただ単純に邪魔者なのかもしれない。



だけど、川野も私も恋愛感情は「今の所」まだないし、そんな展開になった事すらない。




「安西。席取れた?」

周囲の友人達が、さらに深く私に追求しようとした時・・・ちょうど川野が私に聞きに来た。ナイス、川野。

私はスマホで予約確定した席を見せる。


「今日は、第7スクリーンのF列。席番号は、9・10番だって。」

「お、いい所だね。だけど9・10番席は、やや右寄りじゃない?」

「人気映画だからね。真ん中あたりの席が取れなかったって訳。スマホの操作ミスじゃないから!」

「へいへい。いつも席取りサンキュ。また代金は後で払うわ。」

「おけー」

テンポ良く話すと、川野はまた遊び仲間の男子軍団の中に入っていった。

映画の話から一転し、なぜか「俺様がこの国の支配者だぞぉぉぉおお!!!」と声を張り上げている。切り替え早いな、アイツ。


「ねぇねぇ、安西?あの会話は本当にカップルみたいだけど、実は付き合ってるんですかぁ~?」

「・・・よし、次の授業は世界史。準備しなきゃ。」

私は、友人達の詮索をスルーして席に着いた。




さぁ、放課後はもうすぐだ。

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