第6話 恐怖を抱えた妹との夕食

俺は椅子に座り、夕食を食べ始める。

今日の夕食はハンバーグと豆腐多めの味噌汁とコーンサラダと白米だった。


「お兄ちゃん、今日は学校どうだった?」


「…………」


楽しかった……なんて言えるのだろうか?

俺は今恐怖のどん底にいる状態だって言うのに、嘘をついてまで楽しかったということは、本当に妹が求めている返事なのだろうか?


そんなことを考えたが、結局……


「ああ楽しかったよ。今日もいつも通りだった」


「それは良かった!」


俺は……正常な判断ができない状態であることに気づいた。妹に隠し事をすることはあまりない。基本的にはお互いの出来事を言い合い、楽しかったこと、悲しかったことを隠さず話して、なぐさめたり、褒めたりするのだ。


そんな俺が……隠し事をしてしまったのだ。


「瑛子の方はどうだった?」


少しでも嫌なことから逃れようと、妹との会話を続ける。


「今日はね、お友達の順子ちゃんが、私にかわいいノートを見せてくれたの。新しく買った物なんだって!」


「へぇー。それはすごいね。どんな物だった?」


「ノートの中央部分が、キラキラと光るタイプでね、水の中を表しているような絵が書いてあった!」


「それは、俺も見てみたいな」


「じゃあ今度順子ちゃんが遊びに来るときに、ノートをお兄ちゃんに見せてあげるよう言ってあげるね!」


「そうしてくれると……ありがたいな。お願いするよ」


妹は今日も楽しい1日だったようだ。なんて羨ましいのだろうか。


いや……普通の人からしてみれば、別に大したことないのかもしれない。友達の新しいノートを見るぐらい、よくあることだと考える人もいるのかもしれない……。


だけど、今の俺は……妹が楽しく1日を過ごせたことが、とても羨ましく感じた。


「そういえば、今日のハンバーグ美味しい?」


妹が料理の味について聞いてきた。


「すごいうまい!瑛子が作る料理はいつも美味しいぞ!」


そういうと、妹は少し照れている。


そして夕食を食べ終わった俺は、すぐに風呂に入った。


風呂は沸かしたてほやほや、とても温かい。

風呂はとてもいい。1日の疲れを癒やしてくれる、最高の時間だ。


……だが、肉体的な疲れは回復していくが、精神的な疲れは一向に回復しない。当然だ。精神的な疲れが風呂で回復できるはずがない!


そして風呂をすませた俺は、バラエティテレビ番組を見る。

その間、妹は風呂に入っている。


「夕食のとき、今日あった出来事を話すべきだったかな……」


……結局俺は妹に、今日あった出来事を話すことはできず、就寝時間となってしまった。


そして、今日の出来事の不安と恐怖が頭から離れられず、寝付くのにかなりの時間がかかった。

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