第四章 継承 6

「あの子達どこにいったのかしら?」


 松本祥子は最上階のフロアーで櫻子と美紀の姿を探していた。


 目を爛々と輝かせて出て行ったきり、なかなか返ってこない二人を心配して探しに来たのだが、二人の姿は見当たらなかった。


 レストラン内はほとんど人影は無かったが、入り口付近の席に及川守がヘッドホンをして座っているのが確認できた。


 そこへ、エレベーターホールの方向から走ってくる足音が聞こえた。祥子がそちらに目をやると、元平が血相を変えて走ってきた。


「松本さん、久我山社長を見かけませんでしたか?」元平は額の汗を拭いながら祥子に尋ねた。


「いえ、見てません。元平さん、何かあったんですか?」


「それが、先程見つかった久我山社長の上着から拳銃が……」


「それは本当なんですか?それじゃあ、久我山社長が今回の事件の……」


「まだそうと決まった訳ではありませんが、どちらにしても、久我山社長には事情を聞かないと」


 祥子はレストラン内をグルリと見回してみたが、やはり久我山信明の姿は見えなかった。


 先程まで入り口付近に座っていた及川守の姿も消えていた。


「櫻子達を見かけませんでした?」


「倉ノ下さんなら今は水尾さんと一緒です。久我山社長の上着を見つけたのは倉ノ下さんらしいですよ」


「え?どうして櫻子が?」


「僕も詳しい経緯は聞いていないんです。まず久我山信明を抑えろと指示を受けただけで……」すまなそうに元平は頭を下げた。


「水尾さん達は今は地下の劇場にいるみたいです。もっとも地下の劇場と言っても事件のあった方ではなくて、え~と、なんと説明したらいいのかな……」


 元平は事情を上手く説明出来ないらしく、祥子もその内容がほとんど理解出来なかった。


「もうすぐここに戻ってくるらしいですから、待っていたら倉ノ下さんも来られると思いますよ。僕は社長を探さなくてはいけないのでこれで」そう言って、オフィスエリアの方へ走って行った。


 祥子は部屋に一人にしている南川小夜子が心配になったので呼びにいこうとエレベーターホールに向かうと、男性トイレの方から話し声が聞こえたので少し気になり聞き耳を立てた。


 声の主は及川守に間違い無い。声は聞こえているのだが、細かい内容までは聞こえなかった。恐らく電話で話しているのか、話し相手の声は聞こえない。話しが終わったのかトイレから出てくる気配がしたので、女子トイレに身を隠した。


 出てきた及川は早足でエレベーターに乗り込んで行った。


 ふと、行き先階がきになりエレベーターの階表示を見ていると一階で止まった。


 入れ替わるように隣のエレベーターの扉が開き、水尾を先頭に、田中、櫻子、美紀、坂本が降りてきた。


「げっ、お姉ちゃん」櫻子は祥子の表情を見て思わず水尾の後ろに隠れた。


「あんたね。大人しくしておけとあれほど注意したのに……」祥子は拳を握った手を頭の上まで上げた。


「まあまあ、松本さん。あんまり起こらんといて下さい。倉ノ下さんのお陰で捜査が進展したとも言えますんで」庇うように水尾が祥子を諭した。

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