第四章 継承 4
秘書の坂本はスタッフの控え室で一人考え事をしていた。
脅迫状から始まった今回の一連の事件は一体どのような意図から行われたものなのだろう?会社に恨みがあっての犯行なのか?それとも会長夫妻に対する個人的な恨みか?
坂本の脳裏に浮かんでいるのは、あまり想像したくないものだった。去年の脅迫事件からも分かるように、どうも最近の信明はおかしい。
この会社に入社した当初から坂本は社長の信明に心酔していた。その才能といい、人柄といい、この人の為に頑張ろうと思っている社員は少なく無い。
その信明の雰囲気が何やらおかしいと感じたのはいつ頃だっただろうかと坂本は思い帰していた。今日にしても、坂本に接する態度は表面上何も変わらないように第三者からは見えるだろう。
でも、坂本には何か言い知れない不安が付きまとっていた。
信明は何かを隠している。
坂本はそれが何なのか想像するのが怖かった。何故ならそれは自分でも分かっている最悪な想像だからだ。
頭からその想像を振り払おうと立ち上がり部屋を出たその視線の先に信明を見つけて、坂本の鼓動は痛い程高鳴った。
何故か信明に会うのが怖くなりドアを閉めて控え室に戻った。
少し落ち着いたのを自ら確認して再び控え室のドアを開けて、信明がいた辺りに視線を向けたが、そこには信明の姿は無かった。
内心ホッとした坂本だったが、自分が何か違和感を感じていることに気が付いた。
それは、先程まで信明が立っていた場所だった。
それは一階のロビーの角にあたる場所で、エレベーターの乗り場からも遠く、階段も、ましてや部屋も無いような場所だったからだ。
信明はあそこで何をしていたのだろう?
坂本は信明がいた辺りを注意深く見てみたが、特に何も見つけることは出来なかった。
坂本は信明がここで何をしていたのか直接聞いてみようとも考えたが、先程脳裏を掠めた嫌な想像が再び浮かび上がってきて、余計な詮索はしないでおこうと思い直した。
あの信明がそんなことをする筈がない。坂本は自分のした恐ろしい想像を消し去る為に、両手で自分の頬を二、三回軽く叩き、気分を引き締めるようにワイシャツの裾を強く引き下げた。
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