第30話 8年目の殺意(2)消えた事件

 望月家に、周囲を確認しながら高山が来たのは、その夜の事だった。

「火事の起こった数日前、望月夫妻は事故の通報をしてる。ひき逃げで今も犯人は捕まっていない。

 望月夫妻は、ひき逃げ発生の直後に通りかかったようで、犯人につながるものは見ていない。当時は車載カメラも一般的ではなかったしな」

 そう言って、お茶をグイッと飲む高山に、浅葱が勢い込んで言う。

「でも、犯人は見られたと思って、両親を殺したんじゃ!?」

 それに、蘇芳が考えながら口を開く。

「それにしても、目撃者がどこの誰かなんてわからないだろう?」

 その意見に高山が頷く。

「そう。それに、いやに早く自殺と結論付けられたのも気になる」

 それで、全員が、高山の考えている事に気付いた。

「警察内部に、犯人か、関係者がいる?」

 蘇芳が言い、皆、黙り込んでその可能性を考えた。

 確かに、そう考えると、色々と辻褄は合う。

「高山さんにストップをかけた上司か?」

「いや、その上の誰かから指示を受けた可能性もある」

 重苦しい空気が満ちる。

「まあ、とにかく、1人で行動しないように。3人共だ」

 高山が珍しく真面目な顔でそう言い、皆は気圧されたように頷いた。


 高山は、ひき逃げ事件の被害者について少し調べた。そこで、妙な話を聞いた。

 事件の2日前の朝、駅でフードをかぶった男にスカートの中を盗撮されて、被害届を出したと友人達に話していたらしい。

 ところが、その被害届など、どこにも存在していなかったのだ。

 友人には出したと言っていても、面倒でやめたのかもしれない。しかし、本当に出していたとしたら、その被害届は誰が消してしまったのか。

 係の警察官は、どこか含むもののあるようなスッキリしない様子だ。これは嫌でも、警察内部に犯人がいる可能性に近付いてしまった。

「胡散臭いねえ」

 高山は、反射的に久保の顔を思い浮かべた。


 それを聞いた萌葱は、当時この駅を利用していた警察官全員と会ってもいいと思った。少なくとも、その中で色々と命令できる立場の人間だけでも会う価値はあると思う。

 そして、高山と萌葱でもう一度確認に向かい、被害届の事を聞いた。

「被害届なんて受理していません。もういいですか」

 そう言って迷惑そうに切り上げる警察官の背中に、萌葱は呟いた。

「あの人はうそをついています」

 それを、定例になった家族会議で聞いた蘇芳は考えた。

「被害届を勝手に取り下げたとして、遺族に訴えを起こしてもらったらどうでしょう」

「裁判は時間がかかるよ。

 そっちはどうだった」

 高山がうんざりしたように言う。

 浅葱も不満そうに言う。

「だめだね。親父の同僚は、『前向きに見えても、やっぱり奥さんの病気の事で悩んでたんだろうな』って。自殺という結果からの逆算しかしないんだよ」

「どこに糸口があるんだ?」

 頭を抱えて、皆考え込んだ。


 彼らは、こそこそと相談していた。

「署に現れたのか?」

「はい。そう報告を受けました」

「どこまで掴んでるんだ。それに、あの高校生は何だ。危険だな。

 少し脅して手を引かせられるか。高校生なら内申書もあるし、家族の事をちらつかせてもいい」

「はっ、すぐに」

 相手が出て行くと、その男は改めて隠し撮りされた写真を並べて眺めた。

「取り調べに同席して、何になると言うんだ?」

 問いかけるように萌葱の写真に向かって言うが、勿論、答えなど返りはしなかった。





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