第29話 8年目の殺意(1)襲撃

 久保は、望月家の生き残りの現在を調べさせ、目を見開いた。

 取調室で見た人物が含まれていたのだ。

(若い筈だ。高校1年生、まだ子供か)

 真ん中は保育士をしており、長男は弁護士をしている。弁護士とは言っても民事が中心らしいが、色々な噂を耳にすることもあるだろうし、事件について、覚えている事も一番多いだろう。

 そう考えたが、取調室で見たのは、一番縁のなさそうな高校生だった。

(親の事とは関係ないのか?)

 高山が萌葱と知り合い、興味を持って調べてみた、という事も考えられる。

(それにしても、こいつが取調室にいた理由がわからんし、高山の勘が時々妙に良くなる理由もわからん)

 久保は大きく息を吐いて、腕を組んだ。

(取り敢えず、報告しよう)

 久保はいそいそと席を立った。


 しばらくして尾行はなくなり、萌葱は少し安心した。

 あれが何だったのかはわからないし、脅威が去ったと思うのは早いかもしれない。そうわかってはいたが、尾行が付いているのは、うっとうしいし、プレッシャーになるものだ。それがいなくなったら、スッキリするのは仕方がない。

 萌葱は学校帰りにスーパーに寄って簡単な買い物をし、家へ向かっていた。偶然一緒になった今川も一緒だ。

 今川はうそがつけない性格だ。照れて誤魔化すとかいうのはあっても、自分の不利を誤魔化すためや、他人を貶めたり傷つけたりするようなうそはつかない。なので、萌葱には珍しく、ストレスにならない相手だ。

 勿論、そんな事は皆は知らない。萌葱が珍しく仲良くする相手、という認識だ。

「もうすぐ夏休みだな。バイトとかするのか、望月は」

「どうかな。今川は?」

「俺はやるぜ。バイクの免許を取りたいんだ。運転免許の試験に向けて、もう暗記を始めようかと思ってる」

「ふうん。まあ、その前にテストもあるけどな」

 今川は嫌な事を思い出したという顔付きをした。

 先の方に、ハングレまでもいかない若いのが6人しゃがみ込んでいるのを見たが、そう珍しい光景でもないので、接触しないように素知らぬ顔で通り過ぎようとする。

 が、そうはいかなかった。

「お前、望月萌葱か?」

「……人違いです」

 今川が、「え?」という顔をしながらも、彼らを警戒するように見ている。

「嘘つけ!間違いないだろうがよ!」

 中の1人が、スマホと萌葱を見比べながら言う。送られて来た写真と見比べているのだ。

「何ごまかそうとしてやがるんだよ、こら」

(面倒そうだからに決まってる)

 心の中でそう答えながら、退路は無いかと素早く探す。

 通行人はいるが、皆、関わり合いを恐れるように、足早に通り過ぎていく。

「じゃあ、いくか」

 リーダーのような男が、握りこぶしを見せつけるようにしながらニヤニヤすると、他のメンバーも、萌葱を囲んでニヤニヤする。

「誰に頼まれたんですか」

「た、のまれてねえよ」

「うそをつきましたね」

「関係ねえだろ。大人しくやられてりゃいいんだよ!」

 言うや、殴りかかって来る。

 萌葱は、卵の入ったエコバッグを振り回すのも嫌で、どうしようか迷った。

 まあ、これを捨てても、勝ち目は無さそうにも思える。

「お前ら、卑怯だぞ!」

 今川が言いながら、カバンを振り回し、大声で

「誰か警察を呼んでください!」

と叫ぶ。

 パトロール中の警察官が現れたのは、全くの偶然だった。

「ん?何をしている!」

 大声をあげて急いでこちらへ向かって来る警察官に、彼らは、

「ヤベ!逃げるぞ!」

と、一目散に逃げ出した。


 逃げた彼らは、少し離れた所に停まった車に近付いた。

「失敗した」

「見ていた。口ほどにもなかったな。これでは金は渡せんな」

「ちっ。偶然ポリ公が来やがったから!もう1回やらせてくれ!」

「縁がなかったようだ」

 車の男はそう言って窓を閉めながら、車をスタートさせた。

 そして、苛立たし気にハンドルを叩いた。

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