第22話 夢(6)罪が暴かれる日

 色々な話題で話をして、試写会の上映時間になったので、映画館へ移る。

 訊き出すのも、この辺りが限界だった。

「どうだ、萌葱」

「うん。うそのタイミングは伝えてあるから、高山さんが何とかしてるとは思うけど……」

「あんまりべったりくっつくのもおかしいし、試写会の後のパーティーでは、そう話はできないと思うぞ」

 高山の調査結果が気になる所ではあるが、ここでできる事はない。萌葱達も揃って映画館に入り、座席に腰を下ろした。


 高山は無線で伝えられるやり取りとうそだという合図を集中して聴いており、急いで海沿いの別荘へと調査に赴いていた。

「どこだ。どこにとっかかりは転がっている?」

 事故の現場を覗き込み、扉も窓も締め切った建物を見上げ、高山は唸った。

 しかし、すぐに手近な窓にすたすたと近寄ると、ガラスをたたき割った。

「コソ泥か?窓ガラスが割れていたから、調べておこう」

 一切の躊躇はなかった。

 1階はキッチン、ダイニング、リビングとバス、トイレだけだが、リビングは20畳ほどもあった。ソファも飾ってある花瓶もいい物だろうとは思わせるが、埃が積もっていて、そうも見えない。

 2階は個室で、手前の部屋へと入る。ベッドサイドには写真が飾られてあり、7人が写真に納まっていた。その内の1人が和希で、中央で白衣を着て穏やかに笑っている。ほかの5人も白衣を着ているが、和希の隣の女性だけが、ありふれたスーツとブラウスだ。大きなメガネをかけているが、どこか、望美に似ている。

「研究室か何かの写真か」

 高山はそれを戻し、他へ目を向けた。

 本棚には、野鳥図鑑や草花の本、魚釣りの仕掛けの本が置かれている。

 高山は満足げに笑うと、次に移った。

 隣は空き部屋の如く、何も置かれていなかった。

 その隣は美希の部屋なのか、押し花や小学生の頃に書いたらしい海の絵が飾られているほか、星座盤が机の引き出しにしまってあった。

 高山はその部屋も出て、階下に降りた。

 キッチンの奥へ入ってみると、床下収納庫のようなものを見付けた。そこを開けてみる。

「収納庫じゃない。地下か」

 高山は現れたコンクリートの狭い階段に驚きながらも、下りてみる事にした。

 そして、それを見付けた。屍蝋化した、女性の遺体を。


 映画を見終わり、立食パーティーを楽しむうちに船は港に戻って来て、成功を祈っての監督の挨拶を最後にお開きになった。

 ずっと目の端で水谷家を追って来た萌葱達だったが、高山からの連絡もなく、どうだったのかとやきもきしながらタラップを降りて行く。

 と、正面に高山が仁王立ちになっているのが見えた。

 出席者がタラップを降りて歩いて行くのを高山は無視していたが、水谷一家が下りて来ると、スッと近寄った。

「水谷望美さんが見つかりました」

 望美は真っ青な顔でフラリと倒れかけ、和希は強張った顔で彼女を支えてから、言った。

「妻ならここにいる。何の冗談です?」

「ああ。本物の、です。もしくは、あなた方が殺し、遺棄した、遺体が見つかりました」

 

 身柄を警察署に移され、水谷一家は取り調べを受けた。

 望美はあっさりしたもので、淡々としゃべり出した。

「私は風間笑美子。望美の異母妹で、和希さんの愛人でもありました。でもそれが望美にバレて、和希さん共々、医者としても働けないようにしてやるとか言われて、思わず首を絞めてしまいました。

 それで和希さんに連絡して、遺体を別荘に運んだんですが、怖くなって、飛び降りたんです。

 それでケガをして、顔がとんでもない事になっていたので、それを利用して、望美の顔に整形しました。元々が似ていたので、苦労しなかったらしいです。

 風間笑美子は、失踪したという事になりました」

「指紋は?」

「韓国へ旅行して、そこで」

 それを萌葱はじっと見ていたが、うそをついている様子はなかった。

 和希もようやく認め、供述にも齟齬はない。

「遺体を別荘に運ぶ前に、美希さんに見られたのか」

「はい。なので、暗示を与えて、記憶を消しました」

 それらにも、明確なうその様子はない。自宅を捜索した際に、色んな医学書に混じって、暗示や催眠といった本や論文があったのが確認されていた。

 次は、美希だ。

「あの夢が、本当だったんですか?父は、私の記憶を消してまで……。信じられない」

 泣き出す美希だったが、萌葱はそこに、うそを見た。

「あなたはうそをついている」


 


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