第20話 夢(4)疑惑
高山から連絡が来たのは、すぐ後だった。
「水谷望美は事故の後、本当に変わってしまっているようだぞ。性格が優しく落ち着き、傲慢な振る舞いが無くなった。それと、スカーフやネックレスなどを嫌うようになったそうだ。
水谷和希は、事故前は妻を表面でしか大事にしていなかったらしいが、事故以来、本当に妻を大事にしているように見えるらしい。それと、急にわかめが嫌いになったらしい」
そう言う高山に、萌葱は頷いて言った。
「それは奇妙ですね。
で、それを僕に言うのも奇妙ですね」
うそをついているかどうか見るところまでで、それ以上は警察の仕事。そう思っていたのに、高山は調べた事を報告に来たのだ。なぜかマンションに訪ねて来て、望月家三兄弟と一緒にお茶を啜っていた。
そして、萌葱の言葉を無視して話を進める。
「事故の前後ですっかり変わってしまった。となると、思い付く事はないか?」
「入れ替わり」
「そう。推理小説ではありがちだろうな。
顔は事故前と同じだが、事故で顔にケガをして、手術をしている。それが形成手術だったのか整形手術だったのかは、わからないね。
DNAを取ろうと思ったら、心機一転、事故前のものは処分したとかでな。見事に何も無かった。流石は金持ちだ。普通は持ち物を全部新調するなんてできないのにな。
指紋も調べてみた。友人に送った手紙なら処分されていないと思ったが、やはりあって、指紋もどうにか取れた。が、今の指紋と一致した。
どういう事だろうねえ」
浅葱は言った。
「事故で性格が変わっただけの同一人物?」
「手術をした医師に話は聞いたのですか」
蘇芳が訊くと、高山は肩を竦めた。
「心筋梗塞で死んでいたよ。
オペ看も麻酔科の医師も、顔を損傷した女性をきれいにした手術だったと言うが、うそとは思えなかった。気になるなら連れて行くが」
「事故っていうのはどういうものだったんですか」
「空き巣が侵入した夜から夫妻は別荘へ行っていたんだが、望美が1人で水谷家の別荘から車で飛び出して、ハンドル操作を誤って崖から転落したらしい。腕と肋骨を折ったほか顔は岩でズタズタに切れていて、かなりの重傷だったようだ」
「事故は実際にあったのか」
蘇芳が呟いて、全員で考え込む。
「そこで別人と入れ替える、なんて尚更ありそうな話だが、骨格やら何やらで、全く別の顔というのにしようとしてもわかるらしいしな」
高山は言って、どこかを睨みつけるように目を眇める。
「それに、美希の夢がある。繰り返し見る殺人の夢は、表層では忘れてしまっている、父親の殺人現場を目撃した際の記憶ではないか?
望月先生なら、どう考える?」
それに蘇芳は真剣な表情で考え込んだ。
「証拠を掴まなければ、想像でしかない。かと言って、指紋もDNAも難しい以上……。
子供の頃の記憶は?」
「事故の衝撃で、色々と忘れたそうだよ」
「事故を言い訳に、都合のいい事だぜ」
浅葱がフンと鼻を鳴らす。
「色々と話を続けて、うそをついたらそこを片っ端から突いてボロが出るのを誘うしかないか」
高山が言い、ギョッとしたように萌葱が
「童顔もコスプレも通用しませんよ。不自然過ぎるでしょう」
と抗議するが、気になって、このまま放って置けない気持ちなのは、認めざるを得なかった。
そして結局、萌葱は水谷親子と会っていた。豪華客船を舞台にした映画の試写会兼パーティーに、配給会社の顧問弁護士である蘇芳も、映画のスポンサーである水谷家も招待されたのだ。
船の上で各々くつろぎ、試写会を見て、パーティーをして港に戻る。そういうスケジュールになっていた。
なので萌葱と蘇芳と浅葱は水谷家に声をかけ、割り振られた個室に入って、話をしていたのだ。
和希は蘇芳の職業を聞いて愛想のいい笑顔を浮かべ、美希は萌葱を見て親し気に笑いかけ、浅葱はお母さん慣れしていたので上手く望美と親しくなり、上手く行った。高山は流石に言い訳がなく、乗り込めなかった。
「素敵ですね。水谷氏と夫人、ベストカップルですね」
浅葱が持ち上げると、夫妻は照れながらも嬉しそうに笑った。
(本当に仲がいいらしいな)
(仮面夫婦とセレブ仲間では有名だったなんて思えないな)
蘇芳と萌葱は内心で思う。
そして、質問を開始する事にした。
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