第4話 猫という生き物
猫は幸せを運び、災いから守ってくれる
先祖代々の親からそう教えられているので
この国では猫をとても大事にしている
指が沈み込むほどの長毛でふわふわの毛並みにうっとりしながら猫の背をなでていると
昔話を思い出していた
『悪い悪魔が大暴れ街は荒れ果て食べ物もなく
皆が困り果てた時
猫が押し寄せ悪魔を引っ掻く
たまらず悪魔は逃げ出した
猫は褒美に魚をねだる
街の大きな池は悪魔のせいで濁りきり
何もいない死の池で暗くてこわーいだけの場所
魚はおろか草すら生えぬ
怖がる人々置いてけぼりで
池まで猫がみんなで駆けてった
にゃにゃにゃにゃにゃーんと
駆けてった
ついて行ったらあら不思議
綺麗なお水がこんこんと
大きな魚がたーくさん
猫がにゃーんと魚をねだる』
語り継がれてきた話だから
きっと何か本当のこともあるのだろうけど
実際のところどうだったのかなぁと思わなくもない
休憩はほどほどにして
そろそろ仕事の続きをしなければ
仕事机のある部屋の窓からは
猫が魚をねだったという池が見える
湖面は昼の太陽を反射してキラキラ輝いている
この可愛いもふもふは本当にどうやって
死の池を綺麗にして魚をいっぱい泳がせたのだろう
昔話だから
考えても意味ないのだが
仕事からの現実逃避にはちょうどいい
そんなことを思っていると玄関をノックする音が聞こえてきた
「昼ごはんまだでしょ?一緒に食べない?」
友人であり取引先でもあるあの声が聞こえた
ということは納期に間に合うかチェックしに来たな
居留守を使いたいが
腹の虫が悲鳴をあげているし
まぁまだ日にちがあるし
大丈夫かな?
玄関まで聞こえるように
少し大きめの声で返事をする
「鍵かけてないから、マーサそのまま入ってきていいよー」
「はいはーい」
玄関からそのまま勝手知ったる我が家の仕事机まで
マーサがやってきた
手に持っている布がかかった重そうなバスケットに期待をしてしまう
こちらを見てマーサが呆れた顔で話しだす
「あなたね、来るのが私くらいだからって手を抜かずにスリッパぐらい出しなさいな」
「えへへ、ごめんね、今ちょっと立ち上がれなくてね」
返事した途端に驚いた顔でマーサがこちらを見る
「怪我とかじゃないよ!猫がね、寝てるの」
膝の上を指さしてマーサに猫を見せる
「あら、あら、かわいいわ。とてもいい毛並みね。私は白猫に見えるけどあなたは?」
この国では猫の模様や色は
その人によって見え方が違う
「それがね、紫と黒の縞模様にみえるんだよね」
占いというか事実というか
災いが起こる前に見える猫の色は
黒に近い色だと言われている
「なにかあるのかしら?何か思い当たることはないの?とりあえずお昼にしましょう」
マーサが手際よく昼食の準備を机の上にしてくれるあいだ考えてみた
パンや焼いた鳥や野菜のスープの瓶詰めがバスケットから出てきた
残念ながら納期くらいしか災いとか思い浮かばない
え?もしかして納期短縮?
そんなわけないよね
「コンロかりるわね」
「うん、どうぞ、豆茶いれたし、たぶんまだ炭は消えてないと思う」
「豆茶あるの?ならお昼にちょうどいいわね」
マーサはそう言いながら瓶詰めのスープを持って行った
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