18話:なんでもない、幸せな一日
「お。これ可愛いな」
5月20日日曜日。一週間後の翼の誕生日に向けて、雑貨屋で希空と一緒に翼の誕生日プレゼントを選んでいた。希空が手に取ったのはシースルー素材の淡いピンク色のシュシュ。
「いいね。可愛い。けど、翼のイメージとはちょっと違うかなぁ……ピンクよりはこういう、寒色系の方が似合うかも」
私は同じ素材の淡い水色のシュシュを手に取る。
「いや、これは君に似合いそうだなと思って」
そう言って彼女は私の髪をまとめて、出来た束の横に手に取ったピンクのシュシュを合わせる。
「……うん。可愛い」
「もー……私じゃなくて、翼の誕生日プレゼント選びに来たんだよ?」
「ふふ。ごめん」
謝りながらも、彼女はそのシュシュをカゴに入れた。
「買うの?」
「君にね」
「もー……。でも、ありがとう。……あ、じゃあ、せっかくだし三人でお揃いにする?」
「ボクは髪短いから付けられないけど」
「手首につけるとか」
「えー。……あ、イヤリングはどう?」
「いいね。三人でお揃いのイヤリング。あー…でも一個余っちゃうか」
「そうか。そうだね。……お。これとかどう?」
希空が指差したのは、太陽と月と星の三点セットのイヤリング。
「希空が太陽で、翼が月で、私が星かな?」
「んー……どっちかというと月は君な気がする」
「自分が太陽なのは認めるんだ」
「んー……でも……君が月ならボクは星が良いな」
「えー。希空はお日様のイメージだよ」
「それは別に良いんだけど、月と星は同じ夜空で輝いてるのに、太陽は夜になったら沈んじゃうじゃない?」
「ああ、仲間外れにされてる気がして嫌なの?」
「うん」
「じゃあ他のにする?」
「うーん。いや、これで良い。翼に好きなの一個選ばせて、余った二つを二人で分けよう」
「私はこのシュシュにするね」
「ん。じゃあお会計行こうか」
希空が選んだのは、太陽と月と星の三点セットのイヤリング。私が選んだのは淡い水色のシュシュ。そして、希空からピンクのシュシュを貰った。
「つけてみて」
「今?」
「うん」
希空に強請られて貰ったばかりのシュシュを髪につける。
「……うん。やっぱり似合うよ。可愛い」
「ありがと。希空にも何か買えばよかったね。私だけ貰っちゃってなんか申し訳ないな」
「いいよ。別に。ボクが勝手にやったことだから」
「んー……でもなぁ」
雑貨屋を出て家の方に向かっていると、ふと、ソフトクリームの看板が目に止まる。
「ソフトクリーム食べる?シュシュのお礼に奢るよ」
「……じゃあ、貰おうかな」
「買ってくるね。何味がいい?」
「苺」
「はーい」
屋台に行き、メニューを見せてもらう。苺味は若干高めだが、まぁ、シュシュの値段とさほど変わらないくらいだ。
「ストロベリーとバニラをコーンで一つずつください」
「はい」
ソフトクリームを持って、小走りで日陰のベンチに座る彼女の元に戻る。5月とはいえ今日は日差しが強い。もたもたしているとすぐに溶けてしまいそうだ。
「はい。ストロベリー」
「ありがと。今日、日差し強いねぇ」
「ね。もうすぐ6月だもんね」
「早いね。昨日入学したばかりな気がするのに、もう明日からテスト週間だよ」
「テスト週間って、部活無いんだよね」
「うん。どっか遊びに行く?」
「こら。部活が無いのは遊ぶためじゃなくて、勉強しなさいって意味でしょ?」
「ちぇ。真面目だなぁ……」
「遊びじゃなくて、勉強なら付き合ってあげても良いよ」
「勉強かぁ……」
「いいよ。希空がやらないなら私、翼と二人で勉強するから」
「……仕方ないなぁ。付き合ってやるか」
「ふふ。ありがとう。……ところでそれ、一口貰ってもいい?」
「いいよ。はい」
「あーんして」と、彼女はソフトクリームについていたスプーンを突き出してきた。そのままかじろうと思っていたのだけど。
ちょっと恥ずかしいなと思いながら、邪魔な髪を耳にかけて彼女のスプーンに乗るソフトクリームを食べる。
「ん!ストロベリーも美味しいね。私もこっちにすればよかったかも」
「マナのも一口ちょーだい」
「いいよ。はい、あーん」
仕返しをすると、彼女はちょっと苦笑いしてからスプーンを咥えた。
「美味しい?」
「……ちょっと恥ずかしいね。これ」
「あははっ。希空が先にやったんだよ。仕返し」
「……もー」
ぷす。と、私の頬をつつく希空。つつき返し、
どちらからともなく笑い合った。
「翼、喜んでくれるかな」
「当日まで内緒だよ」
「ふふ。もちろん」
翼の誕生日を祝うのは今回で三回目。出会ったのは四年生の頃だったけれど、その頃にはもう翼の誕生日は過ぎていたから、初めて誕生日を祝ったのは五年生になってからだった。
ずっと友達が居なかった私に初めて誕生日プレゼントをくれたのは二人で、私から初めて誕生日プレゼントを渡したのは希空だった。翼に連れられてプレゼントを選びに行って、友達を喜ばせる喜びを初めて知った。
来年も再来年も、卒業して別々の道を歩み始めても、二人とはずっと、お互いに誕生日を祝い合う仲でいたい。
他愛もない話をして、笑い合える仲でいたい。ずっと。ずっと。
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