7話:話には聞いていたけれど

 4月13日金曜日。入学して一週間目最後の日。

 この日はお腹が痛くて夜中に目が覚めた。なんだか違和感があり、トイレへ行く。


「あ…」


 下着に、少量ではあるが血が付いている。それが何を意味するのかは学校で習った。病気ではなく、自然なものであることも。どう対処したらいいのかも。習ってはいたけど、いざ本当にくると頭が真っ白になり固まってしまう。


「…マナ?随分と長いこと入っているけど、大丈夫?」


 しばらくして、トイレのドアをノックする音と共に海菜さんの心配する声が聞こえた。その声を聞いてようやく冷静になれた。


「…血が…」


「血?…あぁ…そういうことか。ちょっと待っててね。替えのパンツ持ってくるね」


「…うん…」


 座ったまま待っていると、再び扉がノックされる。必死に手を伸ばすが、鍵に手が届かない。


「もしかして立てない?こっちから鍵開けるよ?いい?」


「うん」


 鍵が開いて海菜さんが入ってきた。お風呂を一緒に入ったことはあるけど、裸を見られるより恥ずかしい。


「…はい。いいよ。このまま穿いて」


「…なんかやだ…」


「それは慣れるしかないね。…歩ける?」


 一歩足を踏み出す。しかし、力が抜けて上手く歩けずにバランスを崩し、海菜さんに抱き止められた。病気じゃないことも、仕方ないことだということも理解している。いつかくることは覚悟していたはずなのに、痛くて、気持ち悪くて、涙が止まらない。


「…体調は?」


「気持ち悪い…お腹痛い…」


「…そっか。とりあえず移動しようか。このまま持ち上げるよ」


 身体が浮いた。落ちないように海菜さんにしがみつく。


「大丈夫だよ。大丈夫。落ち着いて呼吸して」


「うん…」


「ん。降ろすよ」


 ソファに降ろされるが、漏れていないか心配で落ち着かない。海菜さんはそれを察してくれたのか、バスタオルを持ってきて私のお尻の下に敷いてくれた。


「落ち着いた?」


「…ちょっと」


 涙もようやく止まった。すると、緊張が解けたのか一気に眠気に襲われ、あくびが出る。


「ふふ。眠っていいよ。ベッドまで運んであげる」


「…でも…お布団が…」


「あぁ、心配?じゃあこのままの方がいいかな」


「…海菜さんは…部屋に…戻るの?」


「ん。大丈夫だよ。隣に居るよ」


 隣に座り、私を抱きしめる海菜さん。彼女の温もりで不安が溶けていく。


「いいよ。そのまま寝て」


「…おっぱい無いから硬い…」


「はいはい。ごめんね貧乳で」


「…ねぇ…」


「ん?」


「おっぱいって…何で出来てるの?」


「ほぼ脂肪だね」


「だから柔らかいのかぁ…」


 もはや、何を喋っているかわからないほど眠たくなってきた。だんだんと意識が遠のいていく。


「…えっ、愛華、もしかして寝ぼけてる?」


「…」


「…おやすみ。愛華」


 最後に聞こえたのは、海菜さんの優しい声だった。

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