2話:今日から中学生
二人の母と一緒に校門をくぐると、周りからの視線を感じた。みんなが見ているのは私ではなく、母達だ。美男美女—もとい、美女美女カップルの二人は街を歩くだけでかなり目立つ。
『あの子の両親、若っ…』
『芸能人夫婦…?』
ざわざわする周りを気にかけることなく、二人は私と別れて手を振って去っていく。残された私がクラス表を確認していると、後ろからとんとんと肩を叩かれた。振り返ると、頬に何かが刺さる。誰かの指だ。
「あははっ!おはよう、マナ。今日も可愛いね」
「もー…。おはよう。
悪戯っぽく笑うショートヘアの彼女は
「にしても、君のお母さん達、相変わらず目立つね」
「あはは…希空、ご両親は?」
「居るよ。あそこ」
希空が指差した方を見ると、彼女の両親が私に手を振った。頭を下げて挨拶をする。
「で、マナ。クラス何組だった?」
「まだ見てない。今から」
「じゃあ、ボクが見てあげよう」
「やだ。自分で見たい」
「お!同じクラスだよ。マナ。やったね」
「本当!?やったぁ!って、自分で見たかったのに…」
「いいじゃないか。誰が見たって一緒だろう?さ、行こう」
希空に手を引かれ、新しい教室に入る。見知った同級生が数人。他は初めて見る顔ばかり。この中学には、私が通っていた小学校を合わせて3校の小学校からの生徒達が集まっていて、その3校の中で、私が通っていた小学校が一番生徒数が少ないらしい。
「希空が居てくれて安心した」
「ふふ。ボクも君と同じクラスで嬉しいよ。一年間よろしくね。愛華」
「うん」
同じクラスに、後ろの席に希空が居る。それだけで心強い。
「…相変わらずラブラブだね」
「あ、おはよう。君も同じクラスなんだな。
「二人の後ろとかマジで勘弁してほしい」
「席なんてすぐ変わる。気にすることはない」
「気になるっつーの」
「嫉妬かい?可愛いね」
「うるせぇな。口縫い付けんぞ」
「やーん。怖い」
希空の後ろの席に座った、ズボン姿でポニーテールのちょっと口の悪い女の子は、同じ小学校に通っていた
ちなみに、昔の学生服は、男子はズボン、女子はスカート…と、性別によって決められていたらしいが、今は制服に性差はなく、男子でもスカートを穿いていいし、女子でもズボンを穿くことを許されている。一度決めたら変えられないというわけではなく、日によって気分で変えられるが、翼はスカートが嫌いらしい。恐らくスカート姿は見られないだろう。似合うと思うのだが。
ちなみに、百合香さんは私を気遣って、女子校への受験を勧めてくれた。確かに私は男性が苦手だが、受験して受かったら希空達と離れ離れになってしまう。二度と会えなくなるわけではないけれど、同じ学校に通えなくなるのは寂しい。悩んだ末に私は公立の中学生に通う選択をした。
まぁ、受験したって、受かるかどうかはちょっと怪しいのだけど。勉強は嫌いではないけれど、あまり得意ではない。それに、男性が苦手といっても、慣れてしまえば平気だ。
「けど良かった。君が受験しなくて。マナの居ない中学校生活は耐えられないよ」
「やめろ。口説くな口説くな」
「口説いているつもりはないんだが…」
「自覚ないのがタチ悪い…」
「あはは…」
希空のこういうところなんとなく、海菜さんに似ている気がする。
「ところで翼、スピーチはどうだね?上手くいきそう?」
「うっ…思い出させないでよ!緊張しちゃうじゃない!」
「スピーチ?」
「聞いていないのか。翼は学年代表に選ばれたのだよ」
「えー!すごい!」
「別に…凄くないよ…むしろ選ばれたくなかった…挨拶しなきゃいけないし…」
—と、愚痴を言っていた彼女だが
「―—先生、並びに来賓の方々、私たちのことを温かくそして時に厳しくご指導していただきますようよろしくお願いします。新入生代表、坂本翼」
壇上に立つ彼女は堂々としていた。会場が暖かい拍手に包まれる中戻ってくると、深いため息をついて「緊張したぁ…」と呟いたが、全くそうは見えなかった。
「はい、というわけで改めまして、今日からこの一年一組の担任の
そう言ってぎこちない笑みを浮かべる担任の佐藤先生。
「——え、えっと、君達は中学一年生、私は社会人一年生です。同じ一年生同士、仲良くしましょう!以上です!はい!次!姉川先生!」
「ふふふ。はい」
名前を呼ばれたもう一人の女性の先生がくすくす笑いながら黒板に佐藤先生の名前にチョークで名前を書く。
「
「はっ…す、すみません!姉川先生!担当教科言うの忘れてました…」
「大丈夫ですよ。これから一年、一緒に頑張りましょうね」
「…はい」
先生達の自己紹介が終わり、その日は解散になった。生徒の自己紹介は明日やるらしい。
担任の佐藤先生はちょっと頼りなさそうだけれど、天然で可愛らしい。これから楽しい一年になりそうだ。
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