第8話

 キィーンとした耳鳴りがした。

 その直後、ガラスを割るような音。

 そしてドーン、ドーンと大きな音。

 なんだろう?と起き上がり窓から外を見て見れば、出陣する予定だった魔王城の門よりも内側にいる人間が、大きな丸太をもって今まさに城内に侵入してこようかという場面だった。

 まさか、バリアが消えた?

 「キュ……」

 勢いよく立ち上がった私の隣にはテアがいて、急に立ち上がった私を不安そうな目で見つめてくる。

 あぁ、もう……。

 「私は坊殿を御守するためここに来ました。今がその時です」

 もちろん負ける気なんかないからね。

 ただの人間なんか、私の魔力でアッという間に消しクズだ!

 出来るだけゆっくりとテアから離れ、なんでもなさそうに笑顔で部屋を出た後は窓から外に飛び出し、丸太を抱えて突進している人間たちを後ろから攻撃し、丸太も燃やした。

 「人間か!?」

 「人型の魔物だ!」

 「まだこんな力を持った魔物がいるのか!?」

 彼方此方から聞こえてくるのは声だけで、現われた私に攻撃してこようという人間はいない。

 どうやら弱いものにしか手出しできないらしい。

 「まさかコイツ、魔王か!?」

 誰かの声の後、人間が一斉に退却していく。

 本当に弱い者苛めしか出来ない連中だったのか。

 あぁ……本当に、嫌いだなぁ。

 しかし、逃げていく人間の足がピタリと止まり、1人、また1人と私の方を睨みつけてくる。

 距離が開けば安全だとでも思ったのだろうか?と思ったがそうではなく、もっと悲惨な理由があった……恐らく勇者がこちらに歩いてきているのだ。

 弱い者苛めの次は、強い物の後ろに隠れる。

 「……ハァ」

 なんだろう、いま不意に思ったよ。

 人間っていつもこうだなーって。

 なにもこの世界の人間だけじゃなくて、地球にいる人間だって一緒じゃないか。

 自分よりも弱いと思ったものにしか喧嘩を売れない、強いものの後ろ盾を得た途端に大きな態度を取る。一緒だ、一緒だわ。

 「魔王だな?」

 そうね、テアが一人前になるまでは私が魔王って事にしておけば良いのかも知れない。そうすれば少なくとも魔王城を取り囲んでいた人間は帰っていくのだろうし。

 なら、まずはこの勇者を血祭りにあげる所から始めよう。

 ほんのわずかな希望すらない日々を、今度は人間が味わう番が来たのだ!

 私は自分が人間であったところから否定しよう。

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異世界に勇者として召喚されたけど蓋を開けてみればメイドでした SIN @kiva

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