第7話

 この世界に来てから、随分と長い時間が流れた気がする。

 寒くなってきたなぁ~からの暑くなって来たなぁを経験したから、地球で言えば1年近くは経っていると思う。

 あれだけ家に帰りたい!と思っていた気持ちも今では随分と薄れてしまった気がするし、初めの頃は警戒して近付いても来なかったテアがこうして……

 「スピピピピ」

 ふふふ、なんと愛らしい。

 こうして私の膝の上で丸まって眠っている姿を見ると、平和だなぁ~……平和な訳あるかーい!

 勇者率いる人間どもが日に日に魔王城を包囲していく様子が、城中どこの窓からでも目に映る光景の何が平和だよ!

 それなのにテアは一向に成長が見られない。

 どうやら魔族の成長は時間によるものではなくて、レベルアップによる進化で一気に成長する仕組みになっているらしいんだけど……こんな城から出た瞬間デッドエンドまっしぐらな状況の中、何処でレベルを上げろと?

 私もさ、初めの頃はレベルっても戦闘だけじゃない!って本を読み聞かせて頭脳方面のレベルアップとか、敵を倒さなくても体は鍛えられるって!って中庭の走り込みとか思いつく限りのことはしたんだよ。

 その結果が、私ばかりが逞しくなっていく非情さ。

 もうね、地球に戻れたらそのまま格闘家になって世界取れる位だと思う!もしくは、油の中に手を突っ込んでもなんともなーい☆みたいなビックリ人間?

 「キュウゥ……」

 あ、起きた。

 「おはようございます、坊殿」

 私の膝の上で目を覚ましたテアは、天使なの?って位には可愛いんだけど、炎をまとった姿に変わりなく、至近距離にいると私は大丈夫でも服は大丈夫ではないので、私はメイド初日にはもうメイド服ではなく、鎧姿。

 こんな硬い膝あての上に頭を乗せて、良くもまぁ熟睡できるもんだよ。

 後、城の外が騒がしい中で、魔王の後継者が優雅に昼寝とはね。

 人間たちは魔物が弱っていることを知っていて、魔王城にかけられているバリアが解けるのを待っている。恐らく、残されている時間はそんなにないのだろう。

 魔王不在の城の中で指揮をとっているワイバーンが数日前、私に言ったんだ。

 人間が押し寄せてきた時、まともに戦えるのは私だけなんだって。

 そうなった時に力を貸してほしいって……戦ってほしいって。

 テアの専属メイドとして凡そ1年間平和に暮らしてこれたのは、ワイバーンがなんとかバリアを強化させようとして弱った体で必死に魔力を放出させていたから。

 私は異世界者だけど人間だから、バリアの強化では何の役にも立てなかったんだよね。

 だから、人間が後少し……魔王城の門の手前まで進んで来れてしまった時に出陣するつもりだ。

 相手は人間、それは分かってるけどさ、ここの人間って魔物を根絶やしにすることを本気で正義って考えてて、自分達がしている魔物の虐殺とか、奴隷としてこき使うとか、そんな行動全部を正義とか言うのよ。

 もう、虫唾が走るっていうかさ……あぁ、嫌いだなーって。

 だから、私はテアを守る為なら戦えるんだ!

 それが私の正義。

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