第3話

 私が否定しないせいで、私の名前はアカネで定着してしまったらしく、もうすでに救世主アカネと呼ばれている。

 召喚された部屋からワイバーンに連れ出され、城と思われる長い廊下を歩き、大きな扉の前に立たされる頃、私の心情もすっかり冷静さを取り戻せる……わけがなかろう。

 魔物が住んでいるお城で?こんなにも立派な大きなお城で?で、こんな大きな扉って来れば、もうこれ魔王の城だし、この扉の向こう側には魔王が鎮座してますよねぇ!?

 異世界から来たばかりのレベル1程度の一般市民が、急に連れて来られて良い場所ではない。

 魔王ってどんな姿をしてるのだろう?

 多分、物凄く威圧的で、物凄く大きくて、龍っぽい姿をしているような気がする。で、ちょっと弱ったら第2形体とかある感じで、まずは腕から倒さないと本体にダメージが通らないとか、なんかそんな感じの……。

 待て待て、私は一応魔物側の救世主なんだから味方の筈だ。

 「アカネ、ここで待っていてくれ」

 ワイバーンはそう言うと扉を少しだけ開けて、私に中を見せないようにコソコソと入っていき、しばらく経った後からガサガサと物音が部屋の中から聞こえてきた。

 別に耳を澄ませている訳でもないというのに音漏れが凄いのは、思ったよりもこの扉が薄いのか、それとも部屋の中で出されている者音が五月蠅いのか……。

 なんにしたって、大人しく待っている他ないんだけど。

 部屋の中から物音がしなくなってから数分後、ギィィと扉が少し開いて中からワイバーンがヒョッコリと顔を出してきた。

 「入れ」

 なんだろうな、物凄く間違った感情なんだろうけど、不意にカワイイなんて思ってしまったよ。

 まぁ、口が裂けても言えませんので、黙って入りま……

 「うわぁ……」

 意図せずに声は出るもので、ついついうっかり出てしまったけど、それでも続く言葉を発しなかった私を誰か褒めて欲しい。

 ワイバーンは私を部屋の中に招く前に随分な音を立てていたから、散らかしたのかとも考えられるが、それにしては物を詰め込んだ形跡のある箱やらがカーテンの後ろに隠し切れない状態で置かれてあったりして。

 ここは魔王の部屋かと思っていたけどワイバーンの部屋だったとか?にしては汚部屋……ゴホン、ゴミ屋敷……ゴホン、物で溢れかえった樹海のようなレイアウト……。

 どうオブラートに包もうとも良い表現が思いつかない。

 「そこらに座ってくれ」

 そう言いながら床に散らばっている本を尻尾を使って払ったワイバーンは、チョコンと床に座り込んでしまったので私も座るしかなく、丁度良い感じに転がっていた木箱の上に座った。それでも視線はワイバーンの方が圧倒的に上にあるんだけど、部屋の主が床に座っているのだから私も床に座った方が良かったのかもーって、今更。

 「わ、私はどうしてここに……」

 ここに来る事になった遠因は間違いなくミント・ワカバ・エメラルドが私を門の中に突き落としたからなんだけど、ここにいる魔物は私を救世主として、召喚した……んだよね?

 何のために?

 深く考えればフワッとは分かるんだけどさ……あれでしょ?魔物の一員として人間を滅ぼすーとか、なんかそんな感じでしょ?

 「……魔王様が勇者に破れてからというもの、人間は我々の領土内でやりたい放題なのだ」

 おぉ!?

 魔王と勇者の戦いは終わった後なのね?

 「やりたい放題、ですか……」

 魔王がいないならレベル上げの為にスライムとかを倒しまくる必要もない訳だよね?それを倒しまくってるとか?

 でもさ、それって第2第3の魔王が出現した時のための準備なんだろうし……。

 あぁ駄目だ、今の私は魔物側の人間なんだっけ。

 魔物側の人間ってなんだ!?

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