第2話

 真っ暗だった視界が徐々にノイズにまみれた画像でも見ているような視界となり、徐々にハッキリとしてくる。

 見えてくるのは希望に満ち満ちている感じでもなさそうな、なんか少し微妙な表情をしている顔で、それらは何をどう見たって人間とは異なっている。

 いうなれば……なんだろう、ゴブリンとか?オークとか?あ、スライムもいるわ。

 私は勇者としてこの世界に放り込まれたんだから、とりあえず手始めに足元にいるスライムでも倒せば良いのだろうか?

 「……人間に見えるぞ?」

 スライムに視線を落としていると、頭上からそんな声が聞こえてきた。

 人間ですからとか行った方が良いのか分からず黙ったまま見上げた先にいるのは……ワイバーンとか、そのあたりの?大きな翼を持った爬虫類的な者だ。

 スライムに手を出していれば、きっとこのワイバーンが黙っていなかったんだろうから、何もしなくて良かったよ。なら逆にスライムを撫ぜ繰り回して可愛がればいいのかな?

 撫ぜるって行為が悪い方に捉えられてもなんだし、ここは状況が把握できるまで黙っておくのが良いかな?

 多分……。

 「例え人間だとしても、異世界の住人に変わりありません。俺達の救世主に変わりないでしょう」

 この世界の勇者だけど、どうやら人間側にとっての勇者ではないらしい。

 って事は、私は人間を倒してまものを救わなきゃならないの?

 それは流石に……気が引けてしまう……たとえ自分の世界に戻る為だとは言え、人間を直接殺すのはちょっとね、流石にね、ホント。

 「……女だな」

 マジマジと無言で私を眺めていたオークがボソリとそういえば、

 「あぁ、女だな」

 と、ゴブリンが頷いた。

 えっと?

 この状況って、もしかしてあれでしょ?

 よく知ってるんだよ、こんな状況。

 えぇ、それはもう非道極まりない好意を強いられる感じの奴でしょ?

 え?私勇者としてここに来てるんだけど!?

 「……城から出さなければ問題ない。それに、分厚めのローブを着せればどうにかなるだろう」

 あ、なんか想像していたのとは違うっぽい?

 城から出なきゃ安全なのね?で、ローブを着ていればどうにかなるのね?ならそのローブを早く支給してくださいよ。

 「なんや自分ら、せっかく救世主が来たってのに。なぁ?来たばっかりの救世主にはなんのこっちゃか分からんわ」

 少し重苦しい部屋の中を少し軽くする声がして、部屋の中を見渡すようにして背伸びをすると、ピコピコと返事をするように揺れる耳が目に入った。

 姿は耳しか見えないけど、きっとあの耳の持ち主が喋ったんだろうと思う。

 「すまなかった。ワイバーンだ」

 あ、ワイバーンって勝手に思ってたけど、本当にワイバーンだったのねー……って、それは種族名じゃないの?え?私は今、人間から「人間ですよろしく」みたいな自己紹介を受けたって事?

 「俺はオークのビッグだ!よろしくな姉ぇちゃん……じゃなかった、救世主様」

 ほらほら、やっぱりちゃんと名前があるんじゃん!

 とはいっても、気軽に名前は?とか聞ける雰囲気でもないし。

 普通に怖いし。

 しかし、黙っていても進んでいく自己紹介大会は、残すは私の名前の披露という所まで進み、多分全員の目が此方を向いていた。

 物凄く緊張するわ……大丈夫だよね?名乗った瞬間「いただきまーす」とか言って食べられないよね?

 「わ……私、茜谷……」

 名字だけじゃなくて名前も行った方が良かった?それともここの習わしに従って、人間の茜谷って言った方が良かった?

 「おー、よろしくなアカネ!」

 ピコピコと動く耳の主がそんな嬉しそうな声を発した。

 「うん?アカネヤではないのか?」

 そうそう、茜谷ですよ。

 「ちゃうちゃう、アカネヤじゃなくて、アカネや!って意味な」

 違いますけど。

 「おぉ、おぉ、そうか!」

 違いますけど!

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